2020年9月29日、カナダのバンクーバーに拠点を構えるウェアラブルベンチャーのFatigue Scienceが、14日間の疲労予測アルゴリズムを開発したと発表があった。同社は睡眠と生体データをスマートウォッチ型のウェアラブルデバイスから取得し、データを解析することで、対象者の疲労度を判定するシステムを手掛けている。

 そもそも疲労状態を評価するようなアルゴリズムを手掛けている企業というのは大変貴重である。日本でも疲労科学研究所が手掛けているが、他に製品をローンチしている企業はあまり見かけない。

 今回Fatigue Scienceからあった発表は、疲労状態を評価するだけでなく、予測する技術であるという。今回は同社及び疲労予測技術について解説していきたい。

疲労状態を評価する技術 Fatigue Science社とは?

 Fatigue Scienceは2006年に創業されたベンチャー企業である。同社は健康・ウェルネス市場に焦点を当てており、長年、疲労状態を評価する技術や、アスリートやシフト勤務の作業者などの疲労回復を支援してきた。ユーザーは、重工業、輸送、軍事、スポーツ、研究分野である。

同社公開のYoutubeへの直リンク

 同社のアプローチは睡眠、特に個人の睡眠傾向と累積睡眠時間に焦点を当てている。同社は独自のウェアラブルデバイスREADIBANDと、得られた睡眠データを解析し、疲労リスクを判定するアプリREADIを開発。デバイスは、睡眠状態を高精度で測定可能なデバイスで、睡眠ポリグラフ検査で測定したデータと比較して92%の精度で測定可能なものであった(ただし、睡眠データ以外の心拍やその他データはこのデバイスでは測定できない)。

 疲労状態の判定アルゴリズムはSAFTE™️モデルという。これは同社が開発したものではなく、ウォルター・リード米国陸軍研究所(米国陸軍医学研究開発司令部)によって開発されたモデルで、世界有数の生物数理疲労モデルであるという。米国運輸省によって検証され、疲労を予測できることが証明されている。同社はこのモデルを活用し、実用的なものに落とし込んだ。

 同社はその後、顧客からの要望を受けてサードパーティーのウェアラブルデバイスへの互換性を開発。現在はFitbitとGarminのデバイスにも対応している。

今回発表のあった14日間の疲労予測技術

 今回発表のあった14日間の疲労予測技術は、世界初の「疲労の360ºビュー – 過去、現在、未来」を提供するものである。過去の蓄積された睡眠データを解析し、未来の疲労マップを予測する。

 監督者と経営陣は、日常的な疲労リスクとミッションクリティカルな疲労リスクの両方を軽減するため行動をとるために、自社で雇用する作業者に生じる疲労の「誰、いつ、どこで」を示す将来の疲労スポットを見ることができる。

 つまりこの技術により、特に運輸業においてトラックのドライバーの疲労状態管理や、バスドライバーの疲労状態管理、重工業や建設現場の作業者の疲労状態管理が可能になる。これは、特に現場管理者にとっては役立つ情報になる。


2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


― 技術アナリストの目 -
 この技術は非常に画期的であるが、まずはマネタイズの観点から、ニーズが比較的はっきりしているであろう運輸・重工業などのドライバーや作業者の管理用途で開発されている。これは管理者にとっては興味深いデータになるが、一方で作業者やドライバー(管理される方)にとってのメリットが欠けているように見える。管理者が作業員に装着を強いるのであれば使われると思うが、強制では作業員のモチベーションを下げる、というのであれば、この技術には装着者側のメリットが明確にならないと本格普及は難しいだろう。とは言え要素技術としては革新的であり、他のソリューションへの組み込みに期待したい。