フィンランド発の睡眠モニタリングデバイスのOura Ringは、ウェアラブル業界ではかなり有名になってきた。海外でも多くのユーザーが付き、日本でもユーザーレビューなどで利用している人を見かけるようになった。

この1個約3万円の指輪型高級ウェアラブルデバイスは、生体センシングの新しいプラットフォームになる可能性を秘めている。

高精度で装着負担の少ない睡眠モニタリングデバイス

Oura Ringはメインの用途は睡眠モニタリングであるが、元々発売当初より、高精度が売りの1つであった。現在も、ユーザーレビューを見ると様々なブログや記事でOura Ringが精度が高いことが言われている。

論文ではどうであろうか。2019年には米国スタンフォード大学により設立された非営利研究機関であるSRIが、睡眠ポリグラフ(PSG)とOura Ringで比較実験を行っており、論文も発表されている(参考資料)。同論文によると、41人の健康な青年および若年成人(20歳弱の大学生と思われる)を対象にして一晩の実験を行っており、結果はPSGに対して睡眠状態を検知する感度で96%、浅い睡眠(N1)で65%、深い睡眠(N2+N3)で51%、REM睡眠の検知で61%の精度であった。

ちなみにFitbitも複数その精度を研究する論文が出ている。同じSRIによる研究論文でFitbit Charge 2™とPSGの精度を比較したものがある(参考論文)。44人の被験者を対象に行ったこの比較実験では、睡眠状態を検知する感度で96%、N1+N2という比較的浅い睡眠の検知で81%、深い睡眠で49%、REMで71%となっていた。

つまり、FitbitデバイスとOura Ringを比較した論文によると、おおよそその感度は変わらず、浅い睡眠やREM睡眠ではややFitbitが優れているという結果となっている。

もちろん、この2つの論文は厳密に二つのデバイスを比較したわけではないし、実験系も異なるため、上記を持って正確な評価とするのは難しい。あくまで参考値としてとらえたい。

HRV(心拍変動)が正確に測定可能なのは非常に面白いポイント

Oura Ring Press Kitより

Ouraは49人の健康な被験者(15歳~72歳)を対象として実験を実施。医療グレードのECGデバイスと、Oura Ringを比較し、安静時心拍数(r²= 0.996)でほぼ完璧に機能し、心拍変動(r²= 0.980)で非常に高いパフォーマンスを示したという。

特に心拍変動で優れた数値が出たことはデジタルヘルスケアの領域において大変興味深い。心拍変動は交感神経と副交感神経という自律神経系との相関があり、短期ストレスの評価が可能であったり、メンタルヘルス・うつの重症度判定の補助ツールや身体の疲労度評価、てんかんの発作予測、短期的な眠気度の評価などに使える可能性が研究レベルで示唆されている。

Fitibitデバイスにおいても心拍変動は一部の機種・Premium契約をしているユーザーは表示されるようになったようであるが、現時点では利用できるユーザーは限定的で、FitbitデバイスのHRVの正確性を評価した文献は見当たらない。

ベンチャー企業が開発するウェアラブルデバイスの中にはHRVを測定できるものも多く出てきているが、FitbitやOura Ringのように広く一般ユーザーに使われるようなデバイスで、HRVを測定できるというのは興味深い。

ただし、現時点ではあくまで睡眠中の心拍変動しか取得することができず、日中活動しているときのセンシングができるわけではない。これは主にバッテリーによる制約だと考えられる。


2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


ー 技術アナリストの目 -
Oura RingでもFitbitでも睡眠ステージ判定での大きな差は見当たらない。また、睡眠ステージ判定の差が一定あったとしても、ユーザー体験にはあまり関係ない可能性もある。むしろOura Ringの本質的な価値は、装着負荷が少ないながらも、HRVやその他の生体情報を取得できる生体センシングのプラットフォームにあるのかもしれない。ただしHRVを使った解析技術の多くは研究開発中であり、今後の技術開発の進展を待つ必要がある。また、その時のボトルネックとしてバッテリーがある点は要注意である。逆にバッテリーメーカーにとってはこのあたりが1つの有望ターゲット市場になる可能性があるだろう。