米国カリフォルニアで2016年に創業したPyrAmesは、まだシードステージのベンチャー企業だ。創業以来、約4年間、カフレスで血圧を測定する技術の開発に挑んでいる。

血圧測定は、一般によく知られているように、市場でデファクトスタンダードになっているのはカフ(帯状の腕帯)を巻く測定方法となっている。一方で従来法はその測定の制約から、連続的に通常の生活シーンで測定し続けることが困難であり、また24時間自由行動下血圧測定機器も存在するが、デバイスが大きく、日常的に利用するには適さない。カフのない方法(カフレス)での血圧測定が可能になれば、連続的な血圧測定が可能になり、ユーザーの健康状態を解析するのに重要なデータとなる。

今回は、PyrAmesがどのようにこの領域に取り組んでいるのか紹介する。

米国カリフォルニアベンチャー PyrAmesとは

技術の出自はスタンフォード大学

共同創立者でCEOのXina Quan氏は長年大学と企業で研究技術を製品にしていくチームを率いてきた人材。過去にはベル研究所や、Philips Lumiledsにも在籍している。

PyrAmesは現在シードステージであり、技術情報も含めてまだあまり多くの情報が公開されていない。しかし、その技術の出自をたどるとその一端が見えてくる。

PyrAmesの出自は、スタンフォード大学の化学エンジニアリング部門Zhenan Bao教授の研究が元になっている。この技術は2013年にスタンフォード大学からニュースリリースで発表されている。

(当時のニュースリリース)
Stanford engineers monitor heart health using paper-thin flexible ‘skin’

元々はバンドエイド型の心臓・心拍モニタリングデバイス

この技術は、1ドル紙幣よりも薄く、切手よりも幅が狭い、バンドエイドの形の心臓モニタリングデバイスとなっている。手首の絆創膏の下に装着された柔軟な皮膚のようなセンサーは、医師が動脈壁硬化や心臓血管の問題を検出するのに十分な感度があるように設計された。

スタンフォードBaoグループが公開しているYoutubeへの直リンク
2013年当時に研究していたバンドエイド型センサーが解説されている

この柔軟なポリマートランジスタは、圧力に反応する高感度圧力センサとなっている。当時、ネイチャーコミュニケーションズで発表された論文では、8.4 kPa -1の最大感度を持つ柔軟な感圧有機薄膜トランジスタということだ(2013年掲載の論文へのリンク)。
※ちなみに現在PyrAmes社で開発している製品の性能とは異なる点は注意

絆創膏状のセンサーを誰かの手首に置くと、センサーはその人の脈波が体全体に反響するその圧力を感知し、脈波を測定できるという。

PyrAmes社が赤ちゃん向けの血圧モニターで実用化を目指す

元々は心臓・心拍モニタリングデバイスとして設計された技術であったが、PyrAmesは赤ちゃん向けの血圧モニターデバイスとして実用化を目指している。これは、現在医療機関で使われている動脈に直接挿入して使う血圧モニタリングカテーテルを代替することを狙っている。

MedTech Innovatorが公開しているYoutubeへの直リンク

新生児や高齢者にとってはカテーテルタイプのものは感染の可能性があるため、同社のモニタリングデバイスに置きかけられればそうしたリスクを防ぐことができるようだ。

現在の技術開発状況は不透明だが、同社は様々なプログラムで受賞したり、SBIRの助成を受けることに成功している。

特に2020年に米国FDAから「FDA Breakthrough Device Designation」の1つに指定されたことは特筆に値する。このFDAによる指定は、FDAが画期的なデバイスであると認定したものを対象に、重症患者が新しい医療デバイスにすばやくアクセスできるようにすることをFDAがサポートするもの。FDAの担当者と直接コミュニケーションを取り相談できたり、臨床試験において優先的にデバイス使用許可が与えられる。

こうしたデバイスがいきなりは個人向けに展開されるわけではないが、将来的に応用されてもおかしくはない。まずは医療用途で1つのアプリケーション開発が成功することが第一歩となる。

(同社ウェブサイトはこちら


ー 筆者の目 -
血圧をカフレスでモニタリングする技術はいくつかのスタートアップが取り組むも、医療機器としての壁にあたりそれを超えた企業はほとんどない。筆者が認識しているものでは、手首に巻くようなバンド・スマートウォッチ型ではイスラエルのBioBeatや、指先に挟み込むタイプのデバイスが存在している。まずは1つのアプリケーションから始まり、徐々に技術がコモディティ化されて初めて一般個人も使いやすい形で普及していくのであろう。PyrAmesの技術開発が成功するかはまだ不透明だが、今後の動きを注視したい。