毎年この時期に開催されている、世界の自動車における先端センシング技術を表彰するAutoSens Awardであるが、今年もファイナリストが発表された。

AutoSens Awardとは?

AutoSens Awardsは、ADASと自動運転におけるセンシング技術で優れた技術や個人、企業、研究を表彰するもの。毎年、カンファレンス形式で会場で実施されるが、今年はバーチャルアワードセレモニーという形でWeb上での開催ということで規模は縮小したが、無事に開催された。

特に自動運転・ADASに関わるスタートアップも取り上げられることが多いため、本メディアでも取り上げている。こうした自動運転・ADASのセンシング技術に関わる人は1つの定点観測対象となるだろう。

受賞のカテゴリは以下4つである。

1. Young Engineer of the Year Award
活躍した注目の若手エンジニアを対象

2. Lifetime Achievement Award
この賞はキャリアを通じて、同業界に技術的に貢献した人を対象

3. 2020 Vision Award
車両における優れたビジョンセンシング技術を対象

4. Product of the Year Award
直近1年間でローンチされた優れたADAS・自動運転センシング製品を対象

これらのカテゴリのファイナリストは、10人の審査員によって評価されている。この10人の審査員は、OEMからGM、自動車Tier1からValeo、Continental、業界リーダーのNVIDIA、ウォーリック大学の准教授、デュッセルドルフ応用科学大学物理学教授、Facebookのロボティクスエンジニア、などから構成される。

それでは受賞した企業・人を見ていこう。
注) (★)がついているのは注目ベンチャー

1. Young Engineer of the Year Award

  • Algolux(★)、共同創設者兼最高技術責任者、Felix Heide氏
  • Dataspeed(★) Inc、ソフトウェアエンジニアインターン、Alexander Tyshka氏
  • Phasya(★)、最高科学責任者兼共同創設者、Clementine Francois氏
  • フライブルク大学ロボット学習ラボの助教授兼ディレクター、アビナブ・バラダ氏
  • ヴァレオ、コンピュータービジョンリサーチエンジニア、Lucie Yahiaoui氏

2. Lifetime Achievement Award

  • Harvest Imagingの創設者、Albert Theuwissen氏
  • オン・セミコンダクター、アルゴリズム開発エンジニア、ポール・ケイン氏
  • Burns Digital Imaging(★)、マネージングディレクター、Peter Burns氏
  • Imatest、創設者、Norman Koren氏

3. 2020 Vision Award

  • Algolux(★)の共同創設者兼CTO、Felix Heide氏
  • Valens(★)の共同創設者兼CTO、Eyran Lida氏
  • MIPIのAutomotiveSerDes Solutions(MASS)のエンジニア
  • フライブルク大学のアビナブ・バラダ教授
  • Xperi Corporation、CTO、Petronel Bigioi氏
  • Bright Way Vision(★)のチーム
  • Tactile Mobility(★)のCTO、Boaz Mizrachi氏(とそのチーム)
  • Phasya(★)のチーム
  • TriEye(★)のチーム

4. Product of the Year Award

  • Algolux(★):Atlas Camera Optimization Suite
  • AEye(★):4SightM Mobility(LiDAR)
  • OmniVision Technologies:OVM9284 CameraCubeChip
  • ADASKY(★):VIPER
  • Bright Way Vision(★):VISDOM
  • StradVision(★):SVNet
  • メルセデスベンツ:My MBUX
  • Seeing Machines(★):Gurdian BdMS
  • ForeSight Automotive(★):QuadSightビジョンシステム
  • SmartSens(★):自動車用CMOS画像センサー
  • RoboSense LiDAR(★):RS-LiDAR-M1
  • Jungo Connectivity Ltd(★):Jungo CoDriver(ドライバーモニタリング)

AutoSensアワードを受賞したベンチャーを紹介

以下に、アワードを受賞した主なベンチャー企業の概要を紹介する。
注)資金調達額や従業員数はCrunchbaseを参考に自社調査で補足

Algolux:自動運転向け組み込みコンピュータビジョン

  • 設立年     :2014年
  • 国       :カナダ
  • 従業員数    :51-100名
  • 資金調達フェーズ:SeriesA以上
  • 最新資金調達日 :2020年1月
  • 最新資金調達額 :5m$
  • 総資金調達額  :18.4m$
  • ウェブサイト  :https://algolux.com/

コンピュータビジョンそのものというよりは、自動車OEMやTier1などの企業が自動運転のためにコンピュータービジョンを開発したり、研究する際に使うための一連のツール及び組み込みソフトウェアを提供している。

コンピュータビジョンでは後発であるが、悪天候や視界不良な環境における認識性能のロバスト性と、柔軟でスケーラブルな開発ツールにしたことが評価されており、近年でも様々なところで賞を受賞している。

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テスラモデルSのAutopilotとAlgoluxのアルゴリズムの比較実験をしている

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Dataspeed:自動運転システム研究開発プラットフォーム

  • 設立年     :2008年
  • 国       :米国
  • 従業員数    :N.A.
  • 資金調達フェーズ:N.A.
  • 最新資金調達日 :2020年1月
  • 最新資金調達額 :1.77m$(ミシガン州運輸省からの助成金)
  • 総資金調達額  :N.A.
  • ウェブサイト  :https://www.dataspeedinc.com/

車両のブレーキ、スロットル、ステアリング、シフトをシームレスに電子制御して、自動運転車のアプリケーションのテストを可能にする、ハードウェアとソフトウェアシステムのプラットフォームである。研究開発用途となっており、対応している車種は約500車種。ユーザーは、自動運転ソフトウェアやハードウェアの開発者、MaaSプロバイダ、研究所や大学、軍事研究開発等が想定されている。

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Phasya:心拍と目の情報を使ったドライバーモニタリング

  • 設立年     :2014年
  • 国       :ベルギー
  • 従業員数    :1-10名
  • 資金調達フェーズ:Seed
  • 最新資金調達日 :2019年1月
  • 最新資金調達額 :約1.0m$
  • 総資金調達額  :約1.0m$
  • ウェブサイト  :https://www.phasya.com/en

まだシードステージであるが、Phasyaのソリューションは特徴がある。多くのDMSは光学カメラによる顔画像認でドライバーのモニタリングを行うが、同社は目や瞼の状態だけでなく、いくつかの生体データを監視するためシステムに組み込む形で開発している。

Phasyaのソリューションは、独立して、または組み合わせにより、目の特徴量抽出と心拍数の分析を活用する。生体データでは、他にも呼吸数、皮膚電気活動、音声機能などの他のデータも分析に使用できるという。

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Valens:コネクテッドカー向けチップセット

  • 設立年     :2006年
  • 国       :イスラエル
  • 従業員数    :51-100名
  • 資金調達フェーズ:SeriesE
  • 最新資金調達日 :2018年11月
  • 最新資金調達額 :63m$
  • 総資金調達額  :164m$
  • ウェブサイト  :https://www.valens.com/

イスラエルの半導体ベンチャー企業である。ADASやインフォテイメントシステム、テレマティクスなど、自動車車両におけるコネクテッド環境を構築するための半導体チップセット及びシステムを提供している。

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Bright Way Vision:全天候型カメラシステム

  • 設立年     :2011年
  • 国       :イスラエル
  • 従業員数    :11-50名
  • 資金調達フェーズ:SeriesB
  • 最新資金調達日 :2019年6月
  • 最新資金調達額 :25m$
  • 総資金調達額  :25m$以上
  • ウェブサイト  :https://www.brightwayvision.com/

自動車向けCMOSベースのイメージングシステムを開発しているベンチャー企業。特徴として、全天候型に対応可能となっており、同社独自のGatedVisionテクノロジーにより、霧、雨、雪、暗闇、まぶしさなどのストレステストの天候や照明条件で完全に機能することがテストされ、証明されているという。

元はイスラエルの防衛産業向け技術を提供していたElbit Systemsのスピンオフ企業でもある。2019年のシリーズBで小糸製作所が参画したことで日本でも話題になった。

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Tactile Mobility:自動車センサデータ統合

  • 設立年     :2012年
  • 国       :イスラエル
  • 従業員数    :11-50名
  • 資金調達フェーズ:SeriesB
  • 最新資金調達日 :2019年10月
  • 最新資金調達額 :9m$
  • 総資金調達額  :18m$以上
  • ウェブサイト  :https://tactilemobility.com/

自動車車両に組み込まれているセンサーを元に、車両や道路の状態に関するデータを分析し、車両システムのパフォーマンスをモデル化できるようにするシステムを開発。

同社のHPでは触覚データと言っているが、この触覚データはいわゆる人間のタッチのことではなく、車両と道路の状態を表すデータのことを指している。サスペンション、パワートレイン、ブレーキ効率、タイヤの状態など、各車両のシステム特性を評価することができる。

BMWスタートアップガレージを通して、BMWとはパートナーシップを締結している。2021年からBMWの次世代車両に同社のシステムが組み込まれるというリリースもある。

TriEye:CMOSベースSWIR(短波長赤外線)カメラ

  • 設立年     :2017年
  • 国       :イスラエル
  • 従業員数    :11-50名
  • 資金調達フェーズ:SeriesA
  • 最新資金調達日 :2019年8月
  • 最新資金調達額 :19m$
  • 総資金調達額  :22m$
  • ウェブサイト   : https://trieye.tech/

10年間の学術研究をベースとして事業化された。CMOSベースのSWIR(短波長赤外線)カメラシステムを開発しているベンチャー企業である。短波長赤外線とは、1,000nm以上の波長帯の光のことであり、TriEyeでは1,000nm~1,900nmまでを扱うようである。

通常の可視光のカメラと比べて1,000nm以上のSWIRを使う利点は、悪天候や夜間でも高精細な画像を得ることができることである。SWIRの波長帯の光子は、水蒸気、霧なども透過できるため、こうした環境下では特に通常のカメラと比較して鮮明な画像を得ることができる。

ポルシェとデンソーが同社を評価して、提携していると言われている。

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AEye:マイクロMEMS LiDAR

  • 設立年     :2013年
  • 国       :米国
  • 従業員数    :51-100名
  • 資金調達フェーズ:SeriesB以上
  • 最新資金調達日 :2020年2月(デッドでの調達)
  • 最新資金調達額 :23m$
  • 総資金調達額  :82.4m$
  • ウェブサイト   : https://www.aeye.ai/

カリフォルニアに本社があるLiDARベンチャー。技術の出自は、戦闘機の認識・ターゲティング・防衛システムから来ており、その技術を自動車分野へ適用。同社のLiDARの技術的特徴は、高い動的空間分解能と長距離検出、そしてMEMSを使ったソリッドステートによる低コスト化にある。

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ADASKY:サーマルイメージングシステム

  • 設立年     :2016年
  • 国       :イスラエル
  • 従業員数    :51-100名
  • 資金調達フェーズ:SeriesB
  • 最新資金調達日 :2020年10月
  • 最新資金調達額 :15m$
  • 総資金調達額  :55m$
  • ウェブサイト   : https://www.adasky.com/

イスラエル航空宇宙軍(IDF Air Force)のオフィサーと自動車技術のベテランによって創業された、元は軍事技術が出自のベンチャー企業。サーマルカメラによる熱画像システムを開発している。

遠赤外線の波長帯を使ったサーマルイメージングシステムとなっており、最大300m先の物体を検出し、夜間や悪天候にも強いことが特徴となっている。

京セラが出資をしており、2020年10月にはシリーズBで15m$を調達している。

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Seeing Machines:ドライバーモニタリングシステム

  • 設立年     :2000年
  • 国       :オーストラリア
  • 従業員数    :101-250名
  • 資金調達フェーズ:ロンドン証券取引所で上場済み
  • 最新資金調達日 :2020年10月
  • 最新資金調達額 :N.A.
  • 総資金調達額  :N.A.
  • ウェブサイト   : https://www.seeingmachines.com/

Seeing Machinesは、オーストラリアのキャンベラに拠点を置く、ドライバーモニタリングシステム専業の企業である。同社の顧客はCaterpillar、General Motors、Emirates、Venoeer、Progress Rail、Coach USA、Transport forLondonなど、自動車OEM・Tier1や、建設機械、商用フリートなど幅広い領域でDMSを展開している。

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ForeSight Automotive:マルチスペクトルビジョンシステム

  • 設立年     :2001年
  • 国       :イスラエル
  • 従業員数    :11-50名
  • 資金調達フェーズ:米国ナスダック上場済み
  • 最新資金調達日 :2018年6月(Post-IPO Equity)
  • 最新資金調達額 :6.9m$
  • 総資金調達額  :N.A.
  • ウェブサイト   : https://www.foresightauto.com/

マルチスペクトルビジョン認識技術をコアに、ADASや自動運転向けのセンシングシステムを提供している。

同社によると、完全な暗闇、雨、もや、霧、まぶしさなどの過酷な照明や気象条件においても、正確な障害物検出が可能という。同社のビジョン認識は、ステレオ可視光カメラと、熱長波赤外線(LWIR)センサーを融合することによって実現している。

先に出てきたTriEyeはSWIRを使っているのに対して、同社はLWIRを使っている。SWIRは光の反射を原理としており、LWIRの波長域は人間・車両・動物などの検知対象の放射熱を検出する、という原理的な違いがある。

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SmartSens Technology:CMOSイメージセンサ―チップ

  • 設立年     :2011年
  • 国       :中国
  • 従業員数    :N.A.
  • 資金調達フェーズ:シリーズA
  • 最新資金調達日 :2018年8月
  • 最新資金調達額 :20m$
  • 総資金調達額  :20m$以上
  • ウェブサイト   : http://www.smartsenstech.com/

2011年設立の上海に本社を置くCMOSイメージセンサ―チップベンチャー。シリコンバレーにもR&D拠点を持っている。セキュリティおよび監視センサーでの用途で実績が豊富であり、2020年に自動車用電子機器向けに用途を拡大した。

240件以上の特許を保有する同社のコア技術は、独自の光学IC設計により、高感度かつ暗視イメージングを実現していることにある。同社はAutoSens含め、2020年中国IC設計賞、2020年トップ3中国の優れたIC設計企業など、様々な賞を受賞している。

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ナイトビジョンにおける既存製品との比較をしている

RoboSense:車載グレードソリッドステートMEMS LiDAR(開発中)

  • 設立年     :2014年
  • 国       :中国
  • 従業員数    :51-100名
  • 資金調達フェーズ:シリーズB
  • 最新資金調達日 :2018年10月
  • 最新資金調達額 :45m$
  • 総資金調達額  :45m$以上
  • ウェブサイト   : http://www.robosense.cn/en

中国の深センに本社があるLiDARメーカーである。機械式のLiDARではすでに市場で実績があり、幅広い用途に展開されている。

今回のアワードで受賞したのは、同社がかねてから開発を進めているソリッドステートMEMS LiDARの「M1」である。これは現在、研究開発用途で数量限定で展開されているが、2021年に本格販売されることが期待されている。

同社の機械式LiDARはその安定したスペックとリーズナブルな価格設定から市場で評価を受けているが、昨年、Velodyneから特許侵害で訴えられていた。これは2020年10月に決着がつき、両社の特許をクロスライセンスすることで落ち着いている。

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Jungo Connectivity:車内空間全体のモニタリングシステム

  • 設立年     :1998年
  • 国       :イスラエル
  • 従業員数    :501-1000名
  • 資金調達フェーズ:シリーズD
  • 最新資金調達日 :2006年4月
  • 最新資金調達額 :N.A.
  • 総資金調達額  :N.A.
  • ウェブサイト   : https://www.jungo.com/

今回受賞した同社のソリューションCoDriverは、最先端のディープラーニング、機械学習、コンピュータービジョンのアルゴリズムに基づいて、ドライバー状態のリアルタイム画像を車に提供する。

他のDMSとの違いは、ドライバーだけでなく車内空間全体のモニタリングも可能であること(In-Cabinモニタリング)、またアフターマーケット市場にも参入していることが挙げられる。堅牢かつスケーラブルで、費用対効果が高い点が評価され、2019年にはパイオニアが提携を発表している。

(アワードの関連ウェブサイトはこちら


ー 技術アナリストの目 -
こうして受賞企業を見てみると、かなりの数がイスラエルベンチャーとなっており、自動運転産業においてイスラエルのエコシステムがいかに大事かがわかる。また、中国ベンチャーも入ってきており、中国における自動運転産業の成長も感じることができる結果であった。ここで取り上げられている企業はすでにある程度有名になっているベンチャー企業であるが、このほかにも様々な自動運転センシングベンチャーが出てきており、また別の機会で取り上げていきたい。