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Northvoltがスタンフォード大学発のリチウム金属電池ベンチャーCubergを買収

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Northvoltは現在注目されているリチウムイオン電池ベンチャーの1社だ。2016年に設立され、わずか5年足らずで従業員1,000人を超え、これまでの資金調達総額は1730億ドル(約1.8兆円)にもなる同社であるが、近年、電気自動車市場の急成長に伴い、R&Dや工場建設に非常に積極的に投資を行っている。

そうした投資の1つとして、スタンフォード大学からスピンオフしたベンチャー企業のCubergを買収したことが3月10日に発表された。このCubergはリチウム金属を負極に使った次世代電池を開発しており、Northvoltはこの技術を使って根本的なエネルギー密度の向上を測るという。

Cubergが開発するリチウム金属電池

負極材はグラファイトからシリコン系などの新材料が模索

現在、リチウムイオン電池の負極にはグラファイトが利用されており、容量はすでに理論限界に近いと言われている。そこで、短期的にはシリコンをグラファイトに分散させ、電気容量を高めた負極が使われ始めている。

ボーイングのCVCからも出資を受けるCuberg

Cubergが開発しているのはこの負極にリチウム金属を利用したものだ。Cubergは、リチウム金属負極と組み合わせた画期的な液体電解質に基づく次世代バッテリー技術の商品化を目的として、2015年にスタンフォード大学からスピンアウトしたベンチャーである。

同社はシードラウンドではボーイングのCVCであるBoeing HorizonX Venturesからも出資を受けている。また、カリフォルニア州エネルギー員会や、米国エネルギー省からも支援を受けている。

Cubergが開発するリチウム金属を使ったセルは、第三者機関による評価で、従来の電気航空機向けのリチウムイオンセルと比較し、70%もの容量・航続距離の向上を実現するものであることが証明されたという。

下記の動画にもあるように、Cubergが開発しているのはいわゆるパウチ型のセルで、同社を買収したNorthvoltの製造プロセスを活用して生産も可能となっている。

https://www.youtube.com/watch?v=6bXcc1Rg5gk
Northvoltが公開しているCubergの動画への直リンク

リチウム金属負極の活用には大きな技術課題がある

リチウム金属を用いた負極材は、従来のグラファイト系材料と比較して大幅な電気容量の増加が見込める一方で、①その低いクーロン効率(※1)と、②充電時に負極でデンドライトを形成する(※2)という課題があった。

※1 クーロン効率とは、充放電効率とも言い、充電した電気を放電して使うことができる電気量の比率を表す。クーロン効率が低いということは、容量が大きくなったとしても、実際に使うことができる容量は低くなるため、リチウム金属による電気容量向上のメリットが相殺されてしまう。

※2 デンドライト形成とは、充電時に負極で、樹状のリチウム金属の析出が起こる現象である。これは充放電効率の低下を招いたり、セパレーターを突き破ることによりショートを起こしてしまう。

独自の不燃性液体電解質と組み合わせ課題解決を図る

Cubergは上記の課題に対して、独自で設計した不燃性液体電解質と組み合わせて、安全性の高いリチウム金属電池を開発したと主張している。

同社の特許1)を参照してみると、従来の可燃性有機溶媒ベースの電解質を、安全性の高い不燃性の液体電解質に代替している(なお、同社はこの電解質の組成は開示をしていない)。この電解質は従来のリチウムイオン電解質と比較して還元安定性が向上しているイオン液体ベースとなっており、導電率を大きく増加させるエーテル共溶媒を添加している。

この高い還元安定性により、デンドライトの形成に繋がる金属リチウムの堆積を防ぐことができ、また、イオン伝導性と電子絶縁性の高い固体電解質中間相(SEI)を形成するため、保護膜の役割を果たすこともできるという。ただし、SEIの形成は負極や電解液を分解から保護することができる一方、界面抵抗が増加することで伝導率が下がってしまう可能性もある。

そして、もう1つの工夫として、負極はリチウム金属を使ったリチウム-マグネシウム合金となっていることが挙げられる。例えば東北大の金属材料研究所の研究2)でも触れられている通り、マグネシウム合金を使うことでデンドライト形成が起きにくいことが指摘されている。

2025年の実用化を狙う

Cubergの現在の顧客(サンプルテストを実施している)は航空関係であるようだが、両社は今回の買収により、自動車や産業用製品向けのポートフォリオを成熟させ、2025年に1,000 Wh/Lを超えるセルを産業化するという目標を持っていることも発表した。

Cubergの技術は、既存のリチウムイオン製造プロセスとの互換性を実証しており、市場投入までの時間を最小限に抑え、電動モビリティ市場での迅速な商業展開を可能にする。新技術は、3年以内に電動モビリティ市場に大規模に展開される予定であるという。立ち上げ当初は電動航空機がアプリケーションとして想定されている。

(今回参考のプレスリリースはこちら


ニッケルリッチ正極やシリコン負極、リチウム金属などの先進リチウムイオン電池に関する技術動向の全体像を知りたい方はこちら。

参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~


電池にとって重要となる、Power Dayで発表されたフォルクスワーゲンの電池ロードマップ発表の内容についても整理したのでご参考。

参考:Volkswagenが2030年までの電池ロードマップを公開、さらにEVを強化へ


参考文献:

1) US20200194786A1「System for an ionic liquid-based electrolyte for high energy battery」(リンクはこちら

2) 多価金属負極を用いた二塩蓄電池・二液蓄電池の開発, 科研費研究報告書, 東北大学・金属材料研究所(リンクはこちら


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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