中国のEVベンチャーであるNIOは過去に現在の液系LIBから、アップグレード版の電池として半固体リチウムイオン電池を搭載する、と発表している。

中国メディアを中心に、この半固体電池の搭載が間近なのではないかと報道がされており、今回は簡単にこれらの動きについてレビューしていく。

NIOの半固体電池に対する動向

NIO(上海蔚来汽車)は、2021年1月9日に開催されたNIO Day 2020にて、新型セダンET7を発表した※1

この発表の中で、同モデルは2022年第四四半期に150kWhの固体電池を搭載したモデルも利用可能になり、その航続距離はNEDC(New Europian Driving Cycle)モードにおいて1,000kmに達すると宣言した。

このアグレッシブな目標は、当時全固体電池は世界的にも商業的量産段階に入っていなかったため懐疑的に受け取られた。

NIO Day 2020の後、この発表に対するインタビューに対しNIOのCEOであるウィリアム・リー氏は、「ET7に搭載する固体電池は、半固体電池と呼ぶ方がより正確な表現である」と発言し、半固体電池が注目を浴びるようになった。

ウィリアム・リー氏が発言した半固体電池は、電解質をゲル化することで全固体電池の課題である電解質と電極の界面抵抗の低減を図ったものである。セラミック電解質に溶媒を添加することで、電解質に柔軟性を持たせることができ、充放電に伴う電極の膨張収縮による接触抵抗の増大を防ぐ効果が期待できる。

正極活物質はハイニッケル材、負極活物質はシリコンとカーボンの複合材である。NIOによると、容量は150kWh、エネルギー密度は360Wh/kgに達する。

NIOはこの新しい電池へのアップグレードを希望する全ての顧客に対し、現在利用している電池から新しい電池への交換が可能と発表している。

NIOはこの半固体電池を提供する電池メーカーを公表していないが、2021年11月26日の36krの記事によると、このメーカーは北京に拠点を置くWeLionと目されていた。

その後、WeLionのチーフサイエンティストであるLi Hong氏が新型セダンのET7に半固体電池を搭載するため、NIOと協業していると発言したことから、WeLionがNIOへの半固体電池サプライヤーであることが確定した。

中国工業情報化省への半固体電池搭載車種の申請の動き

NIO Day 2020で発表された半固体電池だが、実際に半固体電池を搭載した自動車の納車はまだ行われておらず、動向が注目されている。

中国工業情報化省は、2023年5月9日に中国国内で新たに販売が許可される自動車モデルの一覧を発表した。またこれに合わせて、自動車メーカーが車両の仕様変更の申請を行っており、この中にNIOの申請も含まれていた。

NIOは新モデルの申請は行わなかったものの、すでに販売されている三つのモデルに対し仕様拡大の申請を行った。この三つのモデルには、二つのSUVと一つのセダンが含まれているが、車種名は記載されていない。

申請された仕様に半固体電池の明確な言及はないが、湖州WeLionテクノロジーのバッテリーを使用するとの記述がある。湖州WeLionテクノロジーは、NIOの半固体電池のパートナーとみなされているWeLionの完全子会社であるため、この仕様拡大が半固体電池のEV搭載を指している可能性がある。

NIOはNIO Day 2020で半固体電池の発表してから進展についてほとんど公表していなかったが、NIOの創始者のQin Lihong氏は2023年の夏にはユーザーが150kWhのバッテリーを利用できると2022年2月に発言している。この発言と今回の申請から、容量150kWhの半固体電池を搭載したEVが市場に登場する可能性があると考えられる。

一方、半固体電池のコストに関しては、既存のバッテリーとコスト面で勝負できるようになるにはさらなる技術開発が必要と考えられている。

NIOの電池パートナーといわれるWeLion(北京卫蓝新能源)の動向

WeLion(北京卫蓝新能源)は2016年に設立され、本社を北京に置いている。北京と江蘇省、浙江省の3つの生産拠点で事業を展開している。企業サイトには「固液電解質電池と全固体電池を開発している」との記述がある※2

ベンチャーキャピタルは2018年ごろからWeLionにコンタクトしていたが、投資には至っていなかった。NIOが半固体電池の発表を2021年に行ってから、複数の企業によるWeLionへの投資が始まった。

WeLionの資金調達においてアドバイザーを務めたLighthouse Capitalは、WeLionはNIOだけでなくGeelyなどの自動車メーカーとも提携しているとプレスリリースで述べている。また、このプレスリリースの中でWeLionは中国の混合所有制改革基金、中国証券、Hermitage Capitalから2.08億ドルの資金調達に成功したことも述べられている。

上記の資金調達に加え、2022年1月30日に発表された北京市政府の主要タスクリストには、WeLionの固体電池生産プロジェクトが掲載されており、北京市がWeLionの電池生産の立ち上げを支援していることが明らかになった。

資金面だけでなく、材料の調達も進めている。2021年には、中国のリチウム大手である天齊リチウムと合弁企業を設立している。資本金は300万ドルである。天齊リチウムによると、この会社はリチウム電池正極材料の開発、生産、販売に共同で取り組むことを目的としている。WeLionは両社の協力により、半固体電池の商業化をさらに加速することができると述べている。

その後2月25日に、WeLionは山東省で100GWhの固体電池の生産プロジェクトに着手したと発表した※3。このプロジェクトへの投資額は総額63億ドルであり、そのうち25%が初期段階に投資されている。

2022年11月22日に、WeLionは中国東部の浙江省湖州市にあるバッテリー生産施設で初の固体電池セルの製造を開始したと発表した。製造開始を祝うセレモニーには、NIOの副社長も出席している。

もうすぐNIOの半固体電池搭載が実際に見られるのか、引き続き注視していく必要がある。


参考文献

※1 NIO Day 2020, Youtube (リンク)

※2 Company, Welion (リンク)

※3 News, The project enables, Welion (リンク)