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CES2024の見どころ(CES2023を振り返りながら)

INDEX目次

来年、2024年01月09日~2024年01月12日に米国ラスベガスで世界最大のコンシューマーエレクトロニクスの展示会であるCES2024が開催される。

当方はこれまで過去5年以上に渡って参加しており、様々なプレスカンファレンスへの参加や、海外スタートアップへのヒアリングを行い、展示会の動向レポート、CESの出展企業のリストなどを特定のクライアント企業へ提供してきた。

今回はCES2023を振り返りつつ、CES2024の見どころについてまとめたい。ぜひCESへの出張前の参考になれば幸いである。(なお、画像は昨年撮影したもの)

CES2023の会場にて

ATX撮影

CES2024の出展の傾向

毎年多くの出展企業が参加しているが、今年は約3,900社の企業が出展しているようである。下記は、CESの出展企業情報より当社が独自に集計したもの。

注)なお、下記のデータは12月初旬時点でのデータであり、その後毎日のように出展企業の情報は更新されている。下記データはその更新は含まれていない点は要注意。

中国と米国企業は1,000社以上が出展

下記を見ていただくとわかる通り、中国と米国が圧倒的に多く、それぞれ1,000社を超えている。なお、続くのが韓国・フランス・台湾となっている。

出展企業の国別分布(上位のみ)

CESウェブサイトより当社集計により作成

注)中には出展企業の情報がブランクのものもあり、その場合はその他に分類している

韓国勢とフランス勢は近年、非常にスタートアップ振興に力を入れている。特にCESにすでに行かれている方はわかると思うが、アーリーステージのスタートアップを中心に多数のブースが集積するEureka Parkでは、韓国・フランスのブースは勢いがある。

また、数は多くないが、イスラエル勢にも注目したい。自動運転やAI、メドテクやヘルスケア分野のディープテックでは、非常に切り口の面白いベンチャーがイスラエルブースに集積する。日本人も多くが訪れるが、それがゆえに情報収集だけの日本人に対する応対はやや冷ややかな印象でもある。

サムスン・LGらを有する韓国企業が多くの受賞、次いで米国、オランダ、日本も

CESの傾向を見るのには非常に役に立つInnovation Awardであるが、韓国企業が最も多くの受賞をしており、ダントツの80社以上となっている。

各国別のCES2024 Inonvation Awardの受賞数

CESウェブサイトより当社集計により作成

もちろん、毎年派手なブースで注目されるサムスンやLG、現代グループなど、多くの韓国大手企業もあるが、この80社超の多くはスタートアップだ。韓国は自国市場が大きくないことから、早期に英語圏への接続を意識するためと想定される。

日本のように出展数は少ないものの、イノベーションアワードを10社受賞しているのも興味深い。毎年JETROのブースでは、尖った日本のスタートアップがグローバルに展開する足掛かりとして出展しているのを見ることができる。しかし、やはりグローバルに出ていこうという日本のスタートアップの母数は非常に少ない。多くの日本のスタートアップは日本市場を対象としており、海外展開は先の事業展開となる。日本語圏という人口1億人超のある程度の規模を持ってしまっているがゆえに、早期に海外展開を行う必然性が薄いことが悩ましい。

自動車関連はおおよそ全体の15%

元々はコンシューマーエレクトロニクスショーとして、オーディオや映像、ディスプレイなどの家電関連が多かったCESであるが、この数年、自動車分野の存在感は一気に増し、出展数で見るとおおよそ全体の15%程度を占めている。

CESウェブサイトより当社集計により作成

スタートアップも興味深いが、自動車業界は特に業界をけん引する大手OEMや中国企業、自動運転関連のメジャープレーヤーなどがこのCESで色々な発表を行う点が特に注目すべきところだろう。

ATX撮影

CES2024の分野別見どころ・2023を振り返りながら

自動運転・EV、そしてSDV関連でどのような発表があるか

当社が自動車業界のクライアントを多数抱えていることもあり、自動車分野はCES2024でも大注目である。

近年まず自動運転関連の出展や発表が顕著に増えた。昨年は多くの自動運転企業が出展しており、WaymoやZooxなどの米国系ロボタクシープレーヤーや、WeRideなどの中国勢、イスラエルのMobileye、そして新興勢のWaabiなどが出展を行っていた。

Waymoの車両の外観

ATX撮影

実際に実機を見ながら、これら企業の社員と直接話をする貴重な機会である。当日様々な質問をぶつけ取材を行っているが、CES2024でも綿密に取材を行う予定だ。

また、Mobileye CEOのアムノン・シャシュア氏のカンファレンスでのプレゼンテーションは近年聞いた様々な企業のプレゼンの中で最も面白かった。自動運転ということに対して、レベル1~5のSAEの定義はエンジニア視点での定義であり、ユーザー目線ではあまり意味がない、として独自の定義を打ち出したのである。そして今後のロードマップについても語っていた。自動運転という社会実装が難しい技術において、ここまで真正面から戦略を語れる企業は稀有な存在である。Suver VisionにしろREMにしろ、スケーラビリティを大事にしたアプローチがどこまで進化するのかCES2024でも注目したい。

またセンサ関連や認識システムなどの要素技術も見逃せない。LiDARの主要メーカー各社、特に中国勢が非常に目立った2023であった。Hesaiなどのすでにグローバルに展開している大手中国LiDARメーカーだけでなく、次の成長企業として期待されるInnovusionなども出展していた。

また、LiDARだけを見ていてもこの分野のトレンドは全体感が把握できない。4Dイメージングレーダーの雄であるArbeなども、今回どのような進展があったのか要確認である。

4DイメージングレーダーのArbeのブース

ATX撮影

SDVの観点では、前回はBMWが、BMW i VISION DEEというコンセプトカーをプレスカンファレンスで発表し話題を呼んだ。ハードウェアとソフトウェアを結びつけることによって何ができるかを体現したモデルであり、まるでロボットのように、車はカラーを変化させたり、ライトを変化させて表現を行う。

BMW i VISION DEE

ATX撮影

車のパーソナライズ化がテーマとなる中で、車とのインタラクティブなUIを革新的なハード+ソフトで実現しようとしている。SDVの価値がOTAのほかに明確にまだあまり打ち出せていない印象の中で、新しい挑戦を意欲的に打ち出したように見える。

特にこれまで車とのインタラクションと言えば、音声AIでの対話などが想定されたが、将来は、車が色やライトによって自身の表現を行うようになるかもしれないのである。過去にトヨタがConcept-愛で打ち出したことと、やりたいことは近いようにも感じるが、トヨタは非常に機能的な側面に焦点を当てていたのに対し、情緒面と機能面を結び付け、ソフトウェアディファンドの技術を最大限活かしてきたところに新しさを感じたものである。

本当はソニー・ホンダにこそ、こういうことをやって欲しいと思ったがどうであろうか。

デジタルヘルスは死の谷・ニッチの壁を越えられるか

当社では多くのクライアント企業にデジタルヘルス分野でのコンサルティングや調査を行っている。

そのため、CESだけでなく専門的なカンファレンスなども含めて動向を追いかけているが、いわゆるFDAのクラスⅡくらいで民生と融合するような、デジタルヘルスの悩みは「死の谷・ニッチの壁」を超えられるか、である。

毎年多くのデジタルヘルス関連の出展があるが、革新的な技術というのは中々出てこない。または出てきてもFDA認定の壁を超えることができないケースが多い。毎年話題になる血糖値モニタリングなどが良い例である。はっきり言って、CESにいきなり出て来る程度の技術では血糖値モニタリングの実用化の壁を越えられない。ラボレベルでは概念検証ができてもその何十倍も高い技術の壁が存在する。

ブレインテックなども多数出展されていた

ATX撮影

非常によく相談されるのが、「医療機器は手掛けたことが無くうちの企業は難しいので、医療機器にはならない領域で何か生体センシングや健康モニタリングで有力な技術はないか」という点である。

これはとても難しい問いだ。多く企業をコンサルティングで支援し、そしてスリープテックで事業開発も担当したことがある当方の実感としては、「課題が無い、または課題感が薄い」のである。心拍数を測ったとしてもそれ自体には何のユーザー価値もないように、よほどユーザーの潜在的な悩みに刺さるテーマを掘り起こさないと、生体情報を取得したとしても何にもならないだろう。結果として、このデジタルヘルスの領域は、死の谷を越えられないことが多い。または実用化するとしてもとてもニッチな市場に留まってしまうものが多い印象だ。

そうした中で日本のサントリーは、ヘルスケアの領域で気合いの入ったブースとプレゼンを行っていた。技術とユーザー課題のギャップを認識しつつ、地に足の着いた着眼点で技術開発を進めているように感じる。「腸活」や「身体の老化の状態を推定」、「足裏の接地情報から、歩き方、姿勢のクセを分析し、改善の方法を提案するデバイス」など、なるほどと思わせる着眼点の技術であった。通常、ヘルスケア領域というのはどうしてもニーズがふわっとしたものが多く、ニーズがあるかわからないデバイスもたくさん見てきたが、今後の事業化の進展に注目である。

サントリーの出展したブースの一角

ATX撮影

また、個別のトピックになるが、最近カフレスの血圧モニタリングデバイスについての話題が増えてきている。この領域も過去から幾度となく多くの企業や研究者が挑んできた領域であり、CESでも常連のValencellなどが過去からずっとチャレンジをしている。そろそろこのあたりの技術も実用化フェーズのものとして出てきてもおかしくはないとは感じている。(なお、現在本格的に実用化されているのはカフをウェアラブルの設計の中に入れ込む形でのデバイスである)

企業から問い合わせや相談が多くある血糖値については、正直CESよりADAなどの糖尿病関連のカンファレンスを追いかけた方が突っ込んだ内容が把握できるだろう。

農業機械・重機械のAI・ロボティクス技術による進化

農業機械や重機械においてもAIやロボティクス技術の進化が急速に進んでおり、自動化と絡めて様々な製品開発が行われている。

John Deereでは、AIやデータアナリティクスによる収穫量予測や、クラウドの活用などの取り組みが示された。この農業IoTの領域は特に海外市場の大規模農園においてインパクトがあり、まずは海外が先行している状況となっている。

毎年大型の農機が展示されるJohn Deereのブース

ATX撮影

またセンサ認識と制御を高度に組み合わせたロボティクス技術で、従来比で2倍の種まきを可能にしたプランターなども登場。農業機械などの重機においても、先端技術が入ってきており、製品が進化している様子が伺えた。

今回のCES2024においても、イノベーションアワードを受賞しているが、John Deere Operations Centerという、農家がいつでもどこでも最適化された作業計画を作成し、仕事の質を監視し、データを分析して洞察を受け取ることを可能にするクラウドプラットフォームということである。

CES2024の注目ポイントの1つとしては「データ活用」というのがこの農業機械分野のキーワードになりそうだ。

まだ眼玉になりきれないフードテック

この数年登場したフードテック系の企業であるが、現時点ではまだ目玉になり切れていない印象である。CESの展示会とは関係なく米国では先にヴィーガン市場を狙って、代替肉の市場が立ち上がりつつある。

当方が植物肉を使ったImpossible FoodsのバーガーをCESで試食したのはCES2019であり、もう3-4年も前のことだ。

フードテックにカテゴライズされるのは今回の出展企業で65社いる。65社しかないと見るか、65社もいると見るのか難しいところであるが、正直有力な企業が少ないように感じるため、やはりまだカテゴリとして柱にはなっていない印象だ。

植物由来の代替ミルク

ATX撮影

ただし、当然興味深い技術は様々ある。例えば、今回Best of Innovationを受賞した、Top Table社のオーダーメイドの栄養素をカプセル化する4Dプリンティングに基づく世界初の栄養供給システムなどはぜひ実物を見て取材してみたい。

Best of Innovationはこちら

最後に参考として、CESイノベーションアワードから、CES2024のBest of Innovationを受賞した企業の情報を並べておく。正直、CESについては分野が拡がりすぎて、見る人によって様々な見どころがあると思うが、本稿がCES訪問の一助になれば幸いである。

空気中の水分をリアルタイムで水に変換する軽量な植物工場モジュール

AirFarm 
Company: Midbar Co., Ltd. 
Product Category: Human Security for All  

消費者デバイス向け世界初のソリッドステートアクティブ冷却チップ

AirJet®Mini – Solid-State Active Cooling Chip for Electronic Devices 
Company: Frore Systems 
Product Category: Embedded Technologies  

心房と心室の間で継続的な同期ペーシングを確立する世界初のリードレスペースメーカー

AVEIR™ Dual chamber (DR) Leadless Pacemaker System 
Company: Abbott 
Product Category: Digital Health 

ユーザーの耳に最適化し、没入感のあるサウンドを提供するヘッドフォン

Bose QuietComfort Ultra Headphones 
Company: Bose 
Product Category: Headphones & Personal Audio  

視覚障害者のスマートフォンでのデジタル情報へのアクセスを強化する触覚認識可能なキー モジュール

FINTIN V1 : The Most Accessible Qwerty-Communicator 
Company: ONECOM.CO.,LTD. 
Product Category: Mobile Devices, Accessories & Apps  

ビデオと音声AIを組み合わせて銃を検知するセキュリティシステム

Gun Detection System 
Company: Bosch 
Product Category: Artificial Intelligence  

スマートフォンのカメラを利用した太陽、月、宇宙を撮影するポータブル望遠鏡

Hestia 
Company: VAONIS 
Product Category: Digital Imaging/Photography   

最高時速15マイル、航続距離12マイル、ゼロエミッション超コンパクト折りたたみ型都市モビリティ

Honda Motocompacto 
Company: Honda 
Product Category: Vehicle Tech & Advanced Mobility  

折りたたみ式ディスプレイとマグネット式キーボードを備え、ラップトップ使用もできるタブレットコンピュータ

HP Spectre Fold 
Company: HP Inc. 
Product Category: Computer Hardware & Components  

オーダーメイドの栄養素をカプセル化する4Dプリンティングに基づく世界初の栄養供給システム

IINK - 4D Food Printing System for Future Food 
Company: Top Table Inc. 
Product Category: Food & AgTech 

車のサイド ウィンドウとコントローラーをシームレスに統合するインタラクティブ透明ウィンドウ

Interactive Transparent Window 
Company: AUO Corporation 
Product Category: In-Vehicle Entertainment  

高電力を供給でき、環境に優しい超小型の再充電可能な全固体電池

ITX181225 
Company: I-TEN SA 
Product Category: Sustainability, Eco-Design & Smart Energy  

レトロなデザインと最新の制御技術による高解像度のリアルなサウンドを提供するパーソナルオーディオ

JBL Authentics 500 
Company: Harman International Corp 
Product Category: Headphones & Personal Audio  

上肢障害に直面している人のニーズを満たす、適応性の高いモジュール式ロボット フィンガー

Mand.ro Mark 7D 
Company: Mand.ro Co. Ltd. 
Product Category: Accessibility & Aging Tech  

PCBに直接はんだ付けできるハイブリッドMEMSマイクロモーター

MEMS Hybrid Micromotor for Electronics 
Company: SILMACH 
Product Category: Embedded Technologies  

呼吸の不快感を感じる人の睡眠体験を向上させるバイタルモニタリング・スマート枕

Motionsleep 
Company: 10minds co. ltd. 
Product Category: Smart Home  

高忠実度のDACと高解像度のミュージックストリーマーを組み合わせた革新的なHi-Fi オーディオビデオコンポーネント

NAD M66 
Company: NAD Electronics 
Product Category: Audio/Video Components & Accessories  

指の神経系に直接にフィードバック、デジタル空間との間のシームレスにつなぐインターフェース

Phantom 
Company: Afference 
Product Category: XR Technologies & Accessories  

常駐従業員ゼロで、注文を受けてから調理し提供する完全自律型ロボットレストラン

RoWok™ by SJW Robotics 
Company: SJW Robotics (Appetronix) 
Product Category: Robotics  

自動写真ロボットを備えたAIマーケティングコンテンツ作成ツール

Seller Canvas 
Company: STUDIO LAB 
Product Category: Artificial Intelligence  

パルス電場とオーミック加熱技術により低温で素早く食品を調理する加熱調理器

Sevvy Smart Cooker 
Company: Sevvy B.V. 
Product Category: Home Appliances  

瞬時にユーザーの耳穴にフィット、騒音下でも優れた性能を発揮する充電式補聴器

Silk Charge&Go IX 
Company: WS Audiology 
Product Category: Wearable Technologies  

薄暗い室内や曇りの日でも発電可能な環境発電用透明ソーラーガラス

SQPV Glass 
Company: inQs Co., Ltd. 
Product Category: Smart Cities  

個人のデジタルIDを安全に認証、パスポートの盗難や詐欺も防ぐ、金融と観光サービスを融合したプラットフォーム

Trip.PASS-Mobile passport platform 
Company: Lordsystem 
Product Category: Financial Technologies  

最長14日間のバッテリー寿命を備え、ウェルネスやフィットネス機能を提供するスマートウオッチ

Venu® 3 
Company: Garmin 
Product Category: Sports & Fitness  

スマートフォンで温度制御できる世界初のポータブル布製電子レンジバッグ

WILLCOOK 
Company: WILLTEX.CO.,LTD. 
Product Category: Home Appliances  

プライバシーを守り投票の有効性を検証できるブロックチェーンを活用した対面式投票システム

zkVoting: Blockchain-based voting at the Poll Station 
Company: Zkrypto Inc. 
Product Category: Cybersecurity & Personal Privacy


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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