【特集】空飛ぶ車、エアモビリティの海外スタートアップTOP6
エアモビリティの領域が注目されている。空飛ぶ車やFlying Car、またはPersonal Air Mobilityとも言われるこの領域は、様々なベンチャー企業や大手企業が参入を始めている。
日本においても、2020年1月にトヨタ自動車が、エアタクシー市場向けのeVTOLを開発する米国ベンチャーのJoby Aviationに約433億円の出資を行ったことが話題となった。また、2020年8月には日本のベンチャー企業のSkyDriveがシリーズBで39億円もの資金調達をおこなっている。
海外でもHyundaiやUberなど、大手企業による参入が相次いでおり、航空機業界、自動車業界、タクシー業界などが入り混じって市場が形成されようとしている。
今回は、エアタクシーやパーソナルエアモビリティなど、少人数の有人飛行を行うエアモビリティに焦点をあてて、海外のスタートアップについて紹介をする。
エアモビリティの業界の範囲は幅広い。近年注目されているのは、エアタクシーのようなアーバンエアモビリティの領域(都市の空を対象としたもの)や、プライベートで数人を対象とした有人飛行を行う車のような乗り物、またはUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)で物を運搬するようなもの、などが挙げられる。今回、紹介しているのはいわゆる産業用UAVについては省いている点は注意だ。
少人数のエアモビリティを実現する海外ベンチャー
約30社弱存在する海外エアモビリティスタートアップ
少人数の有人飛行を行うエアモビリティ領域において、当社調べによると海外のスタートアップはおおよそ30-40社程度存在している。非常に話題性が高いため、露出も多いこの分野であるが、実は資金調達が進むスタートアップというのは現時点ではかなり絞られる。
注)なお、UAV・大型ドローンも含むとまた状況は変わる。今回はあくまで数名程度の有人飛行を行うエアモビリティに特化している点注意。
それでは、この領域で資金調達が進む海外ベンチャー6社を見ていこう。
1. Joby Aviation(米国) ~トヨタがシリーズCに参画~
- 設立年 :2009年
- 国 :米国
- 従業員数 :251-500名
- 資金調達フェーズ:SeriesC
- 最新資金調達日 :2020年1月
- 最新資金調達額 :590m$
- 総資金調達額 :720m$
2020年1月にトヨタ自動車が約433億円の出資を行ったエアモビリティベンチャーである。同社は2009年に設立されており、eVTOL(電動垂直離着陸機)の開発を10年以上行っている。高速かつ静音である低価格なエアタクシー用eVTOLを手掛けている。
2017年までにサブスケールモデルとされる4人乗りの機体でのテストフライトも先行しており、現在、FAA(アメリカ連邦航空局)の認証プロセスの手続きに入っているという。4人乗りという比較的大型のセグメントにおいて、最も先行している群の企業だろう。
2. Lilium(ドイツ) ~開発で先行する5人乗りeVTOL~
- 設立年 :2015年
- 国 :ドイツ
- 従業員数 :約500名
- 資金調達フェーズ:Venture - Series Unknown
- 最新資金調達日 :2020年6月
- 最新資金調達額 :350m$
- 総資金調達額 :376m$
2015年設立の5人乗りのeVTOLを開発するドイツのスタートアップである。用途は地域のエアモビリティ用途を想定しており、都市部でも運用可能にするために低ノイズ性に優れ、飛行速度300km、飛行時間は60分までとなっている。現行の設計では、パイロット1名と乗客4名の合計5名での搭乗が可能。
eVTOLに備わっている36個の電気モーターは、抗力を低減して効率を最適化するために翼に統合されている。独自の音響モデリングソフトウェアを活用し、ノイズ低減のための設計最適化を行う。結果として、離陸時にはおおよそトラックが通過する音量と同程度になるという。
2019年に初飛行を実現した同社は、2024年中までに機体開発と認証を終え、2025年から世界中の様々な都市で運用を開始することを狙っている。
3. Volocopter(ドイツ) ~大型の電動エアタクシーを開発~
- 設立年 :2011年
- 国 :ドイツ
- 従業員数 :11-50名
- 資金調達フェーズ:SeriesC
- 最新資金調達日 :2020年2月
- 最新資金調達額 :40m$
- 総資金調達額 :132m$
2011年にドイツで設立されたエアモビリティスタートアップ。創業時にはすでに有人飛行のテストフライトでのPoCを成功させており、同社は実に電動飛行機体の開発を約9年間行っている。
2016年には、同社が開発する2人乗りのVOLOCOPTERは世界初の有人の完全電気マルチコプターとして飛行許可を与えられ、2017年にはドバイでテスト飛行を開始。2019年に欧州SESAR共同事業としてヘルシンキ国際空港でもテスト飛行を開始したり、シンガポールのマリーナベイ上空をテスト飛行するなど、すでに都市部でテスト飛行を頻繁に行っている。
その後、同社はVOLOCOPTERを応用してVOLODRONEという重い物を運ぶドローンも開発。物流、インフラストラクチャ、農業、公共サービスといった分野での事業化を狙う。
VOLOCOPTERの実用化までのタイムラインについて、同社は2-3年後を狙っているとされ、まずはドバイやシンガポールなどの限定された地域で実際にサービス開始を狙っているという。(注:ただし認証などの手続きにより時期が遅れる可能性があることは注意)
4. EHang(中国) ~2人乗りの自律飛行eVTOLを開発する企業~
- 設立年 :2014年
- 国 :中国
- 従業員数 :101-250名
- 資金調達フェーズ:Post IPO Equity
- 最新資金調達日 :2019年12月(※この月にナスダックに上場し資金を調達)
- 最新資金調達額 :40m$
- 総資金調達額 :92m$
EHangは、自律型航空機技術プラットフォームを開発するエアモビリティスタートアップ。2019年12月には米国の新興企業向け市場であるNASDAQに上場し、40m$の資金調達に成功している。
同社が対象としている市場は幅広く、アーバンモビリティに関連する領域全般であり、旅客輸送、ロジスティクス、スマートシティ管理、空中メディアソリューションなど想定用途は多岐に渡る。
2人乗りのアーバンエア輸送機EHang AAVは、最高速度130km/h、最大積載220kgの時に35kmの距離を飛行することができる。驚くことにこのeVTOLは自律飛行タイプとなっており、パイロットがいない状態で、すでに安定した有人飛行を実現している。2020年7月に、中国東部の沿岸都市・煙台での観光試験飛行を発表し、実際に乗客が乗っている様子を動画で発表している。(飛行の様子の動画一覧はこちら)
5. Aeromobil(スロバキア) ~2020年にテストフライトを成功させた空飛ぶ車~
- 設立年 :2010年
- 国 :スロバキア
- 従業員数 :51-100名
- 資金調達フェーズ:Venture - Series Unknown
- 最新資金調達日 :2019年7月
- 最新資金調達額 :N.A.
- 総資金調達額 :28.5m$以上
スロバキア発ベンチャーというやや珍しい企業である。都市内および都市間環境でのドアツードア旅行用に設計された、個人用航空機・eVTOLを開発している。
同社の機体はいわゆる「空飛ぶ車」そのものであり、通常時は自動車として走行しながら、必要な時には翼を広げて空を飛ぶことができるというコンセプトである。
以前より有人のテストフライトは実施しており、AeroMobil3.0のテスト機体は一度事故が起こったが搭乗者はパラシュートにより脱出し、大事には至らなかった。現在はAeroMobil4.0の機体が稼働しており、ver5.0がコンセプトとして発表され開発が進んでいる。新しいバージョンでは4人乗りに機体が拡大。高速道路の運転機能を備えたVTOLとして、ドアツードアの旅行に使用される、富裕層のスーパーカー購入者やフライト愛好家を市場の対象として、実際に販売をしようとしている。2022年にはver4.0を販売開始する予定で、事前注文を受け付けているようであるが、法規制や運用面もあるため実際にどうなるかは現段階では不透明である。
6. Terrafugia(米国) ~中国大手自動車OEMのGeelyが支援する空飛ぶ車~
- 設立年 :2006年
- 国 :米国
- 従業員数 :51-100名
- 資金調達フェーズ:M&A(Geely Holdingsに買収)
- 最新資金調達日 :2017年7月に買収される
- 最新資金調達額 :N.A.
- 総資金調達額 :6.8m$以上
Terrafugiaは受賞歴のある5人のMIT卒業生によって2006年に米国で設立されたベンチャー企業。2017年7月に中国のGeely Holdingsによって買収され、浙江吉利控股集団有限公司と、Geely子会社のボルボカーズ、ロータスカーズ、CEVTの支援を受けて開発を進めている。
同社が開発する空飛ぶ車Transitionは、乗客2名とドライバー1名の機体となっている。ボタンを押すと1分以内でドライブモードからフライトモードへトランジションを行うことができる。エンジンで稼働するタイプとなっており、ドライブモードでは電気モーターも使うハイブリッドシステムである。
最高速度は時速161km、積載量は227kg(最大ではなく、Useful Loadという表現がされている)、積載量の前提が不明だが最大飛行距離は644kmとなっている。
同社は2つ目の機体であるTF-2も開発している。これは、航空機と自動車が合わせられたような機体となっており、乗客室・貨物室がある。縦に長いバン(輸送車両)に翼がついたようになっていて、こちらは8つの電気モーターで飛行する。
このように海外ではすでに数多くの有人飛行がテストされており、エアモビリティインフラも含めて今後急速に進展していくと想定される。日本においても産官学が連携して推進する動きがあり、世界のエアモビリティ市場でどのように戦っていくのか、これからの動きに注目である。
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