ソフトバンクが米国ベンチャーEnpower Greentechとリチウム金属電池の開発について発表
2021年3月15日、ソフトバンクは米国次世代電池ベンチャー企業のEnpower Greentechと昨年締結した共同研究の結果として、質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功したと発表した。また、合わせてリチウム金属電池の長寿命化の要素技術の開発についても成功したことも明らかにした。
IoT機器や携帯電話基地局など向けの次世代電池
2020年4月から共同研究を開始
ソフトバンクとEnpower Greentechは、質量エネルギー密度(Wh/kg)が高く、軽くて容量が大きい次世代電池を見据えた材料技術の共同研究を行う契約を2020年3月に締結し、同年4月から共同研究を実施してきた。
デンドライト形成に対して負極活物質の無機コーティングで解決を図る
今回発表のあったリチウム金属を負極に用いた電池は、これまでのカーボン系の負極に比べて大幅に電池容量を増加させることができるため、実用化が期待されている。一方で、充放電を繰り返した際にリチウムが析出することで起こるデンドライトの形成により、短期間で電池の容量が減少したり、セパレーターを突き破りショートを引き起こすことが課題となっていた。
今回の技術を用いて製作した試作品
両社はこの問題に対して、リチウム金属表面を10nm以下の無機コーティングで覆うことで電解液との直接接触を遮断して、安定した固体電解質界面(SEI)膜を形成することで、課題を解決しようとしている。この無機コーティング膜はLiイオンのみを通す構造となっている。
(補足)なお、上記のようにコーティング層を形成するアプローチに対して、先日記事として紹介したNorthvoltが買収したCubergのアプローチは、不燃性かつ高い還元性を持つ電解液によりSEIを形成するものとなっている。
参考:Northvoltがスタンフォード大学発のリチウム金属電池ベンチャーCubergを買収
コイン型セルで連続500時間の実証に成功
また両社は、コイン型リチウム対称セルで連続500時間経過しても、低い過電圧を維持し続けている充放電データを得ることができたという。実セルの放電容量では質量エネルギー密度が450Wh/kg級のスペックが実証されており、今後、この技術を450Wh/kg 級電池に適用して、電池のさらなる長寿命化を目指していく予定だ。
実セルでの放電容量
コイン型リチウム対称セルで 500 時間試験したデータ
(補足)この450Wh/kgであるが、おおよそ現行市場に出回っている従来型のLIBで200Wh/kg程度となっており、既存の活物質や電解液などの部材構成ではほぼ上限の容量に来ている。SPAC上場するEnovixはシリコン負極を使ったLIBで、おおよそ350Wh/kg程度と言われており、質量エネルギー密度では今回のセルの方が高い。しかし、まだ今回はセルテストでこの結果が出ただけであり、実用化にはまだ時間がかかると見られる。
参考:シリコン負極のLIBベンチャーEnovixがSPACで上場
Enpower Greentechとは
Enpower Greentech Inc.は、米国のベンチャー企業で、2015年から高容量電極材料や固体電解質材料などの材料技術開発に着手している。2017年10月からは、米国テキサス大学オースティン校の教授であり、ノーベル化学賞を受賞したJohn B Goodenough教授の研究グループと全固体電池用材料技術の共同研究を行っている。2019年に日本の拠点で東工大発ベンチャーとしての認定を受け、全固体電池向け硫化物系固体電解質の基本特許を持つ東工大と、特許ライセンス契約を締結したと発表した。
(補足)さて、このEnpower Greentechであるが、やや出自がわからなかったので調査を行ってみると、代表のSam Dai氏はEnpower Energy Corpという中国の蓄電池システムの企業の創業者であり、現在も籍を置いているようである1)。Enpower Greeentechの日本法人であるEnpower Japanの代表の車勇氏もEnpower Energy Corpの副社長を務めている2)。この元々あった中国企業のEnpower Energy Corpは2018年頃からHPのニュース欄の更新がされておらず、筆者の考えでは、ピボットを行い、全固体電池の研究開発と実用化を行うことに注力したのではないかと想定している。(あくまで筆者の考えである点は注意)
(参考1)Enpower Energy CorpのHPはこちら
(参考2)今回プレスリリースを行ったEnpower GreentechのHPはこちら
ニッケルリッチ正極やシリコン負極、リチウム金属などの先進リチウムイオン電池に関する技術動向の全体像を知りたい方はこちら。
参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~
参考文献:
1) Sam Dai氏のLinkedin情報より
2) 車勇氏のLinkedin情報より
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