2020年に人知れず、ゼネラルモーターズ子会社の自動運転企業Cruiseが、ドイツのレーダーベンチャーAstyxを買収した。(詳細な買収完了時期は非公開になっており、買収されたことだけがAstyx Webページで確認できる)

 Cruiseは2017年に低コストLiDARベンチャーのStrobeを買収している。Cruiseは自動運転の核になる技術を内製化しコストを下げたがっている一方で、現時点でもまだLiDARはVelodyneなど外部のサプライヤに頼っているという。(参考記事

 Cruiseにとって、センシングベンチャーの買収はこれで2社目となる。Astyxとはどのような企業なのか、その概要を紹介する。

自動運転Cruiseが買収したレーダーベンチャーAstyx

 ASTYX GmbHは、1997年にドイツで設立されたベンチャー企業で、DaimlerChrysler Aerospace(ダイムラークライスエアロスペースAG:現在のエアバスディフェンスアンドスペース)のスピンオフである。同社は、航空、自動車(OEMおよびTier 1サプライヤー)、自律型プラットフォーム開発、産業用アプリケーション、衛星通信、マイクロチップメーカーの分野向けの高周波電子機器を開発・製造していた。

 同社の技術についてオープンになっている情報は少ない。しかし、いくつかの動きはピックアップできるので、その技術力の一旦を垣間見ることができる。

 2017年にあったZFからの出資

 実は2017年3月に、自動車部品大手のZFはAstyxの株式の45%を取得している。かなりの割合の株式を取得しており、それだけ同社の技術を評価したものであったと推察できる。この出資の狙いは、両社による次世代レーダー技術の共同開発であった。

 現時点においても、ZFのHPにはAstyxの社名が載っており、Cruiseに買収されたといっても、引き続きZF社に技術提供やレーダーの供給が行われる可能性はある。

 アナログデバイセズとの提携

 Astyxはアナログデバイセズとも、自動運転向けの高精度次世代レーダーの開発で提携し、3年以上共同開発を続けていた。2017年・2018年と毎年ラスベガスで開催される世界最大の展示会CESでシステムレベルのプラットフォーム展示を行い、2019年にはイメージング・レーダーを出展している。

 両社は水平角度分解能1℃未満の高精度次世代レーダーの実現を目指していたとされ、アナログデバイセズによる77GHzに対応するRFトランシーバーICと、Astyxによるシステム設計により、独自のソリューションを開発したとしている。


 上記にあるように、Astyxの技術は77GHz帯の周波数を使った、高精度な次世代レーダーであり、現時点で同社の技術が優れているとCruiseが評価して買収に至った。Astyxのレーダーを使って収集した自動運転レベル3-5の生のセキュリティデータは、現時点で約220ペタバイトにもなる。

 今後のCruiseの自動運転でAstyxのレーダー技術が実用化されるかどうか、注目のポイントとなる。


― 技術アナリストの目 ―
 LiDARのように大きな動きではないが、レーダー技術においても、自動運転の実用化に向けて水面下でこうした提携や買収が進んでいる。The Informationの記事によると、同社の技術は競合他社に比べて1~2年進んでいるという評価であったようであるが、今後の技術開発の進展を追いかけ続けたい。