LiDARベンチャーの雄 Luminar TechnologiesとSPAC上場についての解説
2020年8月24日、LiDARベンチャーのLuminar Technologies(米国)は、プライベートエクイティ企業ゴアズ・グループの関連会社Gores Metropoulosと合併し、ナスダックに上場することを発表した。一連の取引は2020年第4四半期に完了する予定であるという。
今回は、今回SPACを活用した上場を行うLuminar Technologiesと、SPACのスキームとGores Metropoulosについて紹介していく。
2022年からボルボにLiDARの採用が決まっているLuminar Technologies
Luminar Technologiesは、2012年にCEOのラッセルがスタンフォード大学を中退して設立したベンチャー企業である。ラッセルは、在学時にPaypal創業者で米国ベンチャーエコシステムの中核にいるピーターティールから、10万ドルのフェローシップを受けて、大学中退に踏み切っている。創業から8年で、総額で420m$の資金を調達しており(Crunchbaseより)、パロアルト、オーランド、コロラドスプリングス、デトロイト、ミュンヘンにオフィスを構え、すでに従業員は350人となっている。
高解像度、低反射率の物体の長距離検知、低コストを両立
Luminar Technologiesは、自動運転に使われるコアとなるセンサーのLiDARを開発している。チップレベルから独自設計された同社のLiDARは、高解像度、低反射率の物体も長距離検知が可能であり、かつ低コストでの量産設計となっている。
数年前の製品は、高精細であるがコストは高いもので、自動運転の実験車両に採用されていた。2017年にトヨタの自動運転車両にも採用されたことで話題になった。その後開発を続け、2020年5月にボルボが高速道路向けの自律走行機能を持つ次世代車にLuminarのLiDARを採用すると発表したことで一気に注目を集めた。
同社の技術的な特徴は先に述べたように、チップレベルから独自設計を行ったことである。従来のLiDARは905nmのレーザーとシリコンレシーバーを使うのに対し、同社は独自仕様の近赤外波長領域に高い感度を持つInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)のレシーバーを使い、1,550nmのレーザーを組み合わせる。また、データを処理するプロセッサも独自設計だ。
こうした独自のアーキテクチャにより、同社の第三世代製品であるirisは10%の反射率物体を250mまで検知でき、カメラのような高精細さの300pt/sqdeg、雨や雪といった環境でのロバストな検出、ソフトウェアの無線更新、低コストを実現しているという。
LiDAR採用検討のための何らかのパートナーシップ締結は50社
同社によると、乗用車・商用車・ロボタクシーの領域で、同社のLiDARの採用検討のための何かしらのパートナーシップを締結したのは50社となるようだ。2017年には4社とのパートナーシップ締結だった同社が、この短期間で一気に50社まで拡大した。
(注:パートナーシップというのは同社の表現であり、必ずしも開発提携や協業というわけではなく、いわゆる製品検証・PoCも含まれると想定される)
量産に至ることが決まったのはボルボともう1社(非公開)であり、開発提携に至っているのは10社、性能検証中が24社となっている。今後2年間の間に、現在10社と推進中の開発プロジェクトについては、うまく行けばそのまま量産フェーズへ移行することが期待されている。
Luminarが使ったSPAC(特別目的買収会社)による上場とは?
さて、そんなLuminar Technologiesが使ったSPAC(特別目的買収会社)を通したナスダックへの上場とはどのようなものか簡単に解説したい。
SPAC(特別目的買収会社)とは、その企業自体は特定の事業を持たずに、未公開会社や他社の事業を買収することのみを目的として株式を公開する企業のこと。SPACに買収・または合併される企業は、従来のIPOプロセスを経ずに上場をすることができ、巨額の資金を調達できる。
このSPACであるが、今に限った話ではなく、昔からスキームは存在していたものの不正が多く発生したことから、現在は投資家保護のために様々なルールが設けられている。それでもなお、正式なIPOプロセスではない形での上場は、「裏口上場」や「空箱上場」と言われ、賛否両論あるスキームである。
近年は、いくつかの理由からSPACの利用が増えていると想定される。
- コロナウイルスの影響もありIPOがしにくくなっていること
- ベンチャー企業に出資したVC等もExitのため株を売却したがっていること
- 低金利状態のため、世界的に金余りの状態になっていること
- 特定領域では競争を勝ち抜くために巨額の資金調達が必要であること(自動運転や電気自動車などが当てはまる)
この1年での電気自動車・自動運転業界におけるSPACの活用は、驚くものがある。短期間で数百億円といった単位の巨額の資金をSPACによって調達しているのである。
直近1年でSPAC活用の動きを発表した同分野の企業(手続きが完了していないもの含む)
- Canoo(電気自動車)
- Fisker(電気自動車)
- Luminar Technologies(LiDAR)
- Velodyne Lidar(LiDAR)
- Lordstown Motors(電動トラック)
- Nikola Corp(水素・電動トラック)
- ChargePoint(EV充電インフラ)
Gores Metropoulosとは?
今回Luminar Technologiesと買収合併をするGores Metropoulosは、ザ・ゴアーズ・グループ(The Gores Group)の1社である。ザ・ゴアーズ・グループは1987年設立のグローバルプライベートエクイティであり、米国に本社を構える。
その投資総額は40億ドルを超え、これまでに買収をした企業の数は120社を超える。同社が投資をする分野は5つのセクターに集中しており、「インダストリアル」「ヘルスケア」「テクノロジー」「サービス」「コンシューマー」となっている。
同社のビジネスモデルは企業を買収し、その後に経営改善を行いバリューアップをして、再度売却するモデルである。
例えば2012年にジョンソン&ジョンソンの元子会社であったOrtho Clinical Diagnosticsから、医療機器医薬品会社であるTherakosを買収。ヘルスケア分野で20年以上の経験を持つ経営陣を採用し、事業改革に着手。その後製薬企業のMallinckrodt Pharmaceuticalsに2015年に売却している。
このように自動車業界を賑わせていているLiDARの領域、そしてSPACを活用した資金調達であるが、これだけの企業が短期間にSPACを活用しているとなると、今後も競争を勝ち抜くためにこうしたスキームが利用される可能性はある。一方で、二コラ社はその後詐欺疑惑が取り沙汰されており、会長が辞任するという事態となっている。
MEMS LiDARやFMCW LiDAR、フェーズドアレイなど、方式別の技術動向や特徴について知りたい方はこちらも参考。
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