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米国とイスラエルのエネルギー省が共同で全固体電池を含む8つの次世代エネルギープロジェクトへ投資

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2020年12月22日、米国エネルギー省DOEとイスラエルのエネルギー省MoEは、イスラエルの政府機関でベンチャー企業の育成を行うイスラエルイノベーションオーソリティとともに、8つのクリーンエネルギープロジェクトを選択したと発表した。

これは、米国とイスラエルの国家間でのR&D支援の枠組みであるBIRD(Israel-US Binational Industrial Research and Development)エネルギープログラムの元、行われるもの。

BIRD(二国間産業R&D)支援プログラムとは?

BIRDの枠組みは実は1977年まで遡る。BIRDはベンチャー企業や大手企業を含む米国とイスラエルの企業間の相互に有益な協力を生み出すために、米国とイスラエルの政府によって設立された。

その仕組みはこうだ。

米国とイスラエルの企業間プロジェクトで、BIRDにエントリーをする。BIRD Foundationという組織が助成を行うプロジェクトを採択。BIRDは、株式や知的財産権を取得することなく、資金面でプロジェクトをサポートすることができる。

なお、BIRDが助成した資金は、BIRDによるサポートの結果として商品化された製品の販売からのロイヤルティとして返済される。

プロジェクトの対象範囲は研究開発から、販売とマーケティングの初期段階までをカバーし、プロジェクトの予算の最大50%の資金を提供する。

驚くことに、この枠組みではBIRDは企業プロジェクトとリスクを共有する。研究開発段階からスタートすることが多いため、当然販売まで到達しないケースも出てくるが、BIRDはプロジェクトが販売段階に達しない場合は、助成した資金の返済を要求しないという。

米国-イスラエル間の8つのエネルギープロジェクト

今回、選定された8つのエネルギープロジェクトは以下の通りである。イスラエルと米国からそれぞれ1社ずつの共同プロジェクトでのエントリーとなっており、おおよそイスラエル側はベンチャー企業で、米国側は大手企業かコンサルティング企業でのエントリーである。

以下では、特にベンチャー企業側の概要について触れる。ニッチだがエッジの利いた、とても興味深いベンチャー企業が名を連ねている。

(1) 高出力・大容量の全固体電池

Addionics IL(イスラエル)とSaint-Gobain Ceramics & Plastics(米国)による共同プロジェクト。

Addionicsは特許で保護されたスケーラブルな3D電極の製造により、内部抵抗を最小限に抑え、機械的寿命、熱安定性などを改善する技術を持つ電池部材ベンチャーである。Addionicsは欧州のHorizon2020によっても研究開発の助成を受けている。

サンゴバンはガラス・セラミック・プラスチックを使った機能性素材の世界的大手企業。

プロジェクトの詳細は不明だが、サンゴバンのセラミック技術を活用した全固体電池の開発を行うと想定される。(類似の例として、日本特殊陶業が同社のセラミックス技術を活用して固体電解質の開発に取り組んでいる)

(2) オフショア風力エネルギーインフラによる騒音や隆起の問題を解決するコンクリート

ECOncrete Tech(イスラエル)とLafargeHolcim US(米国)による共同プロジェクト。 

ECOncrete Techは、生態系に配慮したコンクリートを製造するイスラエルの企業である。複雑な表面テクスチャ設計とバイオ強化コンクリート混和剤を使うことにより、沿岸部などで生物保護を伴う動植物の成長を促進するコンクリートを開発している。

LafargeHolcimはセメントやアスファルトなど建材の世界的大手企業であり、本社はスイスにあるが、今回は米国法人からのエントリーとなっている。

注)このプロジェクトだけはややエネルギー要素が弱いように見える

(3) 電動航空機用バッテリー

Eviation Tech (イスラエル)とAVL Powertrain Engineering(米国)による共同プロジェクト。

Eviation Techは全電動小型航空機を製造するイスラエルの企業。9人乗りで短距離輸送を狙った特化型のエアモビリティベンチャー。

AVL Powertrain Engineeringはオーストリアを拠点とする、自動車パワートレインのコンサルティング・研究開発会社。

(4) 水酸化物交換膜をベースにした低コストの燃料電池システム

POCellTech(イスラエル)とW7energy LLC(米国)による共同プロジェクト。

PO-CellTechはイスラエルの燃料電池システムベンチャー企業。用途は自動車向けを狙っており、自動車で要求される基準を満たすことができる、低コストの大量生産可能なアニオン交換型燃料電池に最適な技術を開発している。

W7energy LLCは2017年創業の米国ベンチャー企業。さまざまな用途向けに高性能の水酸化物交換膜を開発・製造している。同社のイオン交換ポリマーは、高分子膜の化学的および物理的特性を、目的の用途に合わせて調整できるとしており、そのカスタマイズ性に優れている。

現在主流の高分子電解質型燃料電池はカチオン(陽イオン)交換膜が使われているが、これは触媒に白金を使うため、コストを下げにくいという課題があった。一方W7energyの水酸化物交換膜を使うことで、触媒の種類をより低コストなものに選択できるため、燃料電池のコストが下げることができるというもの。

(5) モバイルデバイス用の超高速充電パワーバンク

StoreDot(イスラエル)とNanoramic Laboratories(米国)による共同プロジェクト。

StoreDotは超高速充電が可能なリチウムイオン電池を開発するイスラエルのベンチャー企業で、すでに130m$以上の資金調達を行っている。2017年に欧州自動車OEMのダイムラーからも出資を受けたことで話題になった。

Nanoramic LaboratoriesはMITからのスピンオフ企業であり、3Dカーボンナノ構造技術を採用した高性能キャパシタ等を開発している。同社もすでに資金調達額で38.6m$を調達している有望株だ。

(6) 産業用IoT向けのリチウムイオンセル

Tadiran Batteries (イスラエル)とHit Nano(米国)による共同プロジェクト。 

産業用IoT向けに、シリコンアノード、ニッケルリッチカソードによる高エネルギーで安全性の高いAA(単三)リチウムイオンセルを開発する。

Tadiran Batteriesは1962年創業の老舗企業で、数十年以上にわたり塩化チオニルリチウム電池を世界各国に供給し、同分野では業界シェアトップと言われる。

一方、Hit Nanoはマイクロエアゾール制御高温処理などの新しい高温ナノテクノロジーを使用して、次世代の低コストで高性能なリチウムイオン電池とエネルギー貯蔵システムを開発しているベンチャー企業。同社は、プリンストン大学の科学者とシリコンバレーの起業家によって2018年に設立されたばかりである。

(7) 次世代熱・電力ソリューション(エンジニアリング)

TurboGen(イスラエル) とEn-Power Group(米国)による共同プロジェクト。

TurboGenはイスラエルとロシアを拠点とする、天然ガスを活用した分散型電源を提供するエンジニアリング企業。数十年と事業を展開する老舗企業である。

EN-POWER GROUPは、2003年に創業の、あらゆるタイプの建物に包括的で統合されたエネルギーソリューションを設計、開発、提供するエンジニアリング企業である。

このプロジェクトはベンチャー企業というよりは、実績のあるエンジニアリング会社による共同プロジェクトとしてエントリーされている。

(8) GaNベースデュアルモータードライブパワーインバータ

VisIC Technologies(イスラエル)と Vepco Technologies(米国)による共同プロジェクト。

VisIC Technologiesは2010年に設立された自動車向けのGaNトランジスターを開発するベンチャー企業。現在、いくつかの自動車OEM・Tier1で開発および評価段階にあるという。

Vepco Technologiesは2014年に設立されたエンジニアリング・設計企業で、電動車両における高出力EVパワートレインから高速電気コンプレッサー向けの電気モーターとドライブを設計している。

両社はこのプロジェクトでPHVとEVの両方に対応する80kW窒化ガリウム(GaN)ベースのデュアルモーター駆動パワーインバーターを開発する。

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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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