BMWとフォードが全固体電池ベンチャーのSolid PowerのシリーズBに参画
5月3日、米国の全固体電池ベンチャーであるSolid Powerは、BMWとフォードがシリーズBラウンドでリードインベスターとして参画し、Solid Power社が130m$(142億円)を調達したことを発表した。また、今回のシリーズBでは、米国エネルギー省のアルゴンヌ国立研究所からスピンアウトしたベンチャーキャピタルVolta Energy Technologiesもリードインベスターとして参画している。
今回の出資で得た資金は、本格的な自動車用バッテリーを生産し、関連する材料の生産量を増やし、将来の車両へのバッテリー統合へ向けて、社内生産能力を拡大するために主に利用されるという。
全固体電池ベンチャーのSolid Powerとは
2012年創業のコロラド大学スピンオフベンチャー
Solid Powerは2012年創業の米国のベンチャー企業で、電気自動車やモバイル市場向けの全固体電池を開発している。今回追加出資の形になるBMWとフォードとの関係は、BMWとは2017年より、フォードとは2019年から続いており、それぞれのタイミングで出資と提携を行い、全固体電池の共同開発を行ってきた。
2020年に行われたシリーズAにおいて、BMWとフォードが出資をしていなかったことから、研究プロジェクトの継続についてはやや不明なところであった。しかし、昨年12月のSolid Powerによるプレスリリースで両社との共同研究開発について触れており、共同研究開発の進捗に関する発表が待たれるタイミングでの今回の追加出資の発表となった。
なお、BMWは最近全固体電池に関する発表を行っており、以下の記事も参考。
参考:BMWが2025年より前に全固体電池を搭載したデモ車両を出すと発表
硫化物系固体電解質を使った全固体電池
Solid Powerが開発をしているのは硫化物系電解質を使った全固体電池である。
硫化物系電解質は酸化物系の電解質に比べてイオン伝導率が高いため、現在電気自動車向けでは主流とされている材料である。例えば東工大が発見したLGPSのイオン伝導率は12mS/cm、その後さらにゲルマニウムの代わりにケイ素(Si)を活用したLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3(LiSiPSCl)で、高価なゲルマニウムを使わずに25mS/cmを達成している1)。
Solid Powerはその固体電解質の組成について明確な開示をしていないが、同社が米国エネルギー省DOEの助成を受けて開発した全固体電池の特許2)を見ると、リチウム-ホウ素-硫黄(LBS)による固体電解質となっており、また最近公開された別の特許3)で示された例示的な電解質は以下のようになっている。
例示された電解質組成:
Li 4+3x+u*y−zP 1+x−yT yA 4+4x−zM 1+z
Li:リチウム
P:リン
T:シリコンやゲルマニウムを含むP、As、Si、Ge、Al、Bのいずれか
A:SまたはSe
M:ハロゲン(例:Cl)かN(窒素)
上記の構造であるが、特許上は組成構成が幅広く示されているため厳密にはわかりにくいが、方向性としては前述の超イオン伝導体LiSiPSClに近いものとなっているように見える。(Li / P / T→Si / A→S / M→Cl)
(補足)ただし、東工大が発見したこのLiSiPSClはハロゲン元素(Cl)などを用いた特異な組成であったりした他、電気化学的に不安定という課題もあるようで、その後東工大はより化学的安定性の高いLSSPSを発表している4)。Solid Powerがこうした課題をどのようにクリアしているのか、またはLiSiPSClではなくLBSがベースなのかは不明。
また、電池の構造については以下のようになっている。負極にはリチウム金属、正極はNMCをベースに粒子状にしてコーティングし、電解質との複合材(コンポジット)としている。
注)リチウム金属負極の開発も進めているが、直近ではシリコン負極の固体電池の方が開発が進んでいる(6/16加筆)
同社の開発計画・スケジュール
今回の発表では2022年初頭にパイロット生産ラインでの生産を開始する計画に言及
Solid PowerのCEOであるDoug Campbell氏はこう述べている。
「SolidPowerは、Solid Powerの商業化努力に対するパートナーとの継続的な取り組みの結果として、2022年初頭に当社のパイロット生産ラインで、Automotive-Scaleのバッテリーの生産を開始する予定です。」
今回初めてその時間軸について明らかにされたが、少なくとも2022年初頭というかなり早いタイミングで、パイロット生産ラインでの生産が始まる計画であるようだ。ただし、Automotive-Scaleという意味がどういうことかやや不明確であり、この段階ではあくまでパイロット生産ラインということで、まだ試作レベルであると想定される。
なお、Solid Powerはすでに自動車OEMとの取り組みの中で、Aサンプル(開発初期の段階で試作される数個・数台レベルのサンプル)とBサンプル(Aサンプルをもとに製品特性や組立工程の問題を改善した試作サンプル)を成功させているという。発表によると、BMWとフォードに数百個の生産ラインで製造されたサンプルを提供し、評価されたようだ。業界標準のリチウムイオン生産プロセスと同社が開発したロールツーロールパイロット生産ラインを使って、20Ahの全固体電池セルを生産しているという。
BMWのボードメンバーであるFrank Weber氏はこう述べている。
「私たちは一緒に、この分野で絶対的に優れた20Ah全固体電池セルを開発しました。過去10年間、BMWはバッテリーセルの能力を継続的に向上させてきました。SolidPowerのような重要なパートナーは、ゼロエミッションモビリティのビジョンを共有しています。」
フォードとBMWは、2022年から本格的な自動車向けの全固体電池セルとして100Ahの電池セルを提供される計画だ。
2022~23年のBサンプルで435Wh/kg、960Wh/Lを目指す
同社が以前に行った2020年に公開されているDOEプロジェクトのプレゼンテーションでは、同社の電池セルの性能ターゲットについても言及されている。
同社の電池セルの性能は、2020年のプリAサンプル時で320Wh/kg・660Wh/L(ただし2Ahの小型サイズ)、そして2021年内のAサンプルでは電解質層を薄くすることで340Wh/kg・720Wh/L(20Ahの大型サイズ)とし、2022~23年時点のBサンプルでは435Wh/kg・960Wh/Lを目指すとしていた。
最終的には本格的な量産開始の目標(SOP)は2026~2027年であるという。
(補足)今回の出資に関する発表との整合を考えると、現時点では2Ah、ないしは20AhでのBサンプルは良い評価が出たということだと考えられ、2022~23年時点で、100AhのBサンプルを実施するということだと想定される。
今回参考のプレスリリースはこちら
ニッケルリッチ正極やシリコン負極、リチウム金属などの先進リチウムイオン電池に関する技術動向の全体像を知りたい方はこちら。
参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~
(加筆)その後6月にSolid PowerがSPAC上場をすることを表明しており、同社の技術ロードマップについても触れている。
参考:全固体電池のSolid PowerがSPACで上場し、最大約560億円の資金を調達
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参考文献:
- High-power all-solid-state batteries using sulfide superionic conductors, 2016年3月21日 Nature Energy 1 : 16030 doi: 10.1038/nenergy.2016.30, Yuki Kato, Satoshi Hori, Toshiya Saito, et al.
2) US20210126281 - SOLID ELECTROLYTE MATERIAL AND SOLID-STATE BATTERY MADE THEREWITH
3) WO2019051305 - CERAMIC MATERIAL WITH HIGH LITHIUM ION CONDUCTIVITY AND HIGH ELECTROCHEMICAL STABILITY FOR USE AS SOLID-STATE ELECTROLYTE AND ELECTRODE ADDITIVE
4) 超イオン導電特性を示す安価かつ汎用的な固体電解質材料を発見 ―全固体リチウムイオン電池の実用化を加速―, 東工大ニュース
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