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光フェーズドアレイ方式LiDARのQuanergyがSPACで上場

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ソリッドステートLiDARを開発・生産している米国ベンチャー企業のQuanergy Systems, IncがSPACで上場することが6月22日に明らかになった。同社はCITIC Capital Acquisition Corp.(NYSE:CCAC)と正式な企業合併契約を締結したことを発表しており、合併後はニューヨーク証券取引所に上場することになる。

光フェーズドアレイLiDARを開発

Quanergy Systemsは2012年設立のシリコンバレーベンチャーである。

過去同社に出資していた企業には自動車Tier1のAptiveや、Samsung Venturesなども含まれ、パートナーにはダイムラーやGeelyも名を連ねる。

同社の製品は従来型のメカニカルLiDARであるMシリーズと、ソリッドステートLiDARのSシリーズ、そして同社のLiDARを使った人流マネジメントソリューションであるソフトウェアがある。

特に特徴的なのがソリッドステートLiDARであり、同社が独自に開発した技術であるオプティカルフェーズドアレー(OPA:Optical Phased Array)方式のLiDARとなっている。元々は同社CEOのEldada氏がコロンビア大学で研究をしており、米国国防高等研究計画局(DARPA)によって開発支援を受けていた技術だ。

OPAはミラーやモーターなどの可動部が不要で、光集積回路を使ってビームを制御することでビームステアリングを実現する。同社の特許によると、光フェーズドアレイ集積回路を使ってビームを制御する機構を有し、検出器はアレイ状になっており、光感知ピクセルは、単一光子アバランシェダイオード(SPAD)にすることもできる。同社はこのCMOSシリコンフォトニクス技術の開発のために、これまでの9年間で100m$以上もの資金を投じている。

同社が今回明らかにした投資家向けプレゼンテーション資料では、OPAは検出パフォーマンスはMEMSと同等かつフラッシュより優れており、コスト面ではMEMSやフラッシュより優れるとしている(シリコンフォトニクスにより、1チップに集積されることから部品点数が少なくスケールメリットを出しやすいということだと想定される)。

Quanergy社が主張する方式別の特徴

同社プレゼンテーション資料より当社作成

注)ただし、あくまでQuanergy社の主張であって、上記の理論がそのまま実際の製品のスペックに当てはまるものではない点は注意

また上記にある中で、1点注意が必要なのは「パフォーマンス」だ。

同社が主張する比較表において、どのような観点でパフォーマンスが優れているというのかは不明であり、現時点ではOPAの検出距離はまだ最大100m程度(反射率10%)と中距離用途でしか使うことができない。一方で、自動車の高速道路などで使う場合は、200m以上の長距離検出性能が求められる。同社は2021年内にこの検出距離200mを実現する見通しであることも合わせて発表しているが、現時点では100mまで、と認識しておくのが良さそうだ。

多用途ですでに展開、今後も非自動車にも注力

すでに同社のLiDARは商用ベースで様々な市場に展開されており、顧客はマッピング、セキュリティ、スマートシティ、スマートスペース、産業オートメーション、交通機関など、多岐に渡る。2021年の売上高見通しは、まだ規模は大きくないが、今年度7m$の売上を見込む。基本的には上述の非自動車用途だ。

多くのLiDARベンチャーは自動車用途での参入を狙う企業が多いが、市場ポテンシャルが大きい分、競争過多の状態でもある。

同社も事業計画として自動車分野への参入も狙うが、2025年時点の売上計画でも、自動車分野の割合は18%程度と大きくない。残りの売上72%分を占めるのは、マッピング・セキュリティ・スマートスペース等の都市や施設向け、そして産業オートメーション等の工業用途だ。こうしたポジショニングも同社の特徴と言える。

2021年後半に取引は完了予定

今回の一連の企業合併の取引は2021年後半に完了する予定となっている。

Quanergyは、今回の取引によって、CCACが信託している約2億7600万ドルの現金(CCACの公的株主が取引の終了時に償還権を行使しないと仮定)と、完全にコミットされたPIPEからの4000万ドルを得ることになる。

得られた資金は、新規および既存の事業成長のために活用される。

 

同社HPはこちら


LiDARの技術動向の全体像が知りたい方はこちらの特集記事も参考。

参考:(特集) 車載LiDARの技術動向 ~種類・方式の特徴と全体像~


【世界のLiDARベンチャーを調査したい方】

FMCWやMEMS、オプティカルフェーズドアレイなど、技術方式や用途の情報も含めた世界のLiDARベンチャー、またはオンチップ小型化のカギとなるシリコンフォトニクスベンチャーなどのロングリスト調査に興味がある方はこちら。

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参考文献:

1) Quanergy Announces Merger Agreement with CITIC Capital Acquisition Corp., Investor Presentation(リンクはこちら


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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