ニュース記事

Baidu World 2021で語った自動運転の取り組み

INDEX目次

Baidu World 2021について

Baiduは8月18日に、Baidu World 2021というAIに関するテクノロジーカンファレンスを開催した。AIの将来についてBaiduが語ったのは、自動運転、AIやジェスチャー認識を使ったスマートテレビ、音声認識検索、産業界を支援するBaidu AI Cloud、開発者向けAIプラットフォームのBaidu Brain、次世代のAIチップなど広範に渡る。

中でも、Baidu World 2021の最初は自動運転から始まり、Baiduの自動運転の取り組みに対しては、全体3時間程度のプレゼンテーションで、実に約1時間弱もの時間が割り当てられていた。

Baiduはインターネット検索から真のAI企業へと変身したい

Baiduの共同創業者兼CEOのRobin Li氏はこう語る。

「1900年と1913年の米国の5thアベニューを見てみましょう。驚くことに、わずか13年で道路の様子は大きく変わりました。1900年には道路のほとんどが馬車で占められているのが、1913年にはほとんどが自動車になっています。」

Baiduは過去も現在もインターネット企業である。いわゆる中国におけるGoogleのような存在であり、検索エンジンのシェアは中国で90%を占めている。同社の現在の売上高もほとんどがインターネット事業から生み出される。しかし、同社の売上成長はやや止まっており、従来のビジネスモデルでの事業成長には限界が来ている。そうした中で、Baiduが狙うのは自身を「AIテクノロジー」の企業であると定義し、AIを活用したアプリケーションとして自動運転の領域に出ていこうとしている。

参考:(特集) 自動運転オープン化によるエコシステム構築を狙うBaidu(百度)~俯瞰的に解説~

AIによる未来のL5自動運転車のコンセプト

今回のカンファレンスで、同社は未来の自動車についてのコンセプトを提示した。最高の自動運転機能であるL5を搭載した自動運転車は、「Robocar」と表現されている。

Baiduのロボカーの内装の様子。ステアリングホイールやアクセルペダルはなく、大型の曲面ディスプレイでシネマのようなパーソナライズ空間が演出されている

自動化されたガルウィングドアと透明なガラスルーフを備えた外装、そして内装インテリアでは、シートはゼログラビティシートになり、大きく湾曲したインテリジェントディスプレイとコントロールパッドを備えている。高度なAIを搭載したロボカーは、音声と顔の認識を可能とし、内部と外部の環境を分析し、乗客のニーズに積極的に対応するための予測提案を行う。いわゆるパーソナルアシスタントだ。

この車両面でのコンセプトの個々の機能やデザインは、おおよそ現在自動車メーカーから出ている未来の車のコンセプトと大きく変わらず、過去にCESやモーターショーで他社から発表されている内容と大きな差はない。

しかし、BaiduはこれまでBaidu Apolloを中心とした、自動運転ソリューションのエコシステムについて発表することが多かった。今回のように、L5の完全自動運転車としてコンセプトを発表したのはBaiduにとって新しい動きとなる。

また、あくまでBaiduが中心に据えるのはAIである。

「これは、自動車とは異なるコンセプトです。科学的なイノベーションに近いでしょう。これは車輪を持ったロボットであり、AIカーです。車は将来的には、車内にいる子供に物事を教えることもできるようになります。」とRobin Li氏は述べる。

(補足)さて、このBaiduの考え方は他の自動車メーカーの未来のコンセプトカーと対比すると、Baiduのアプローチに対する哲学が表れており、興味深い。

トヨタは2019年に発表したコンセプトカーLQで、ユーザーそれぞれの嗜好や状態に合わせた移動体験の提供を通じて、時間とともにより愛着を感じさせるモビリティを目指している。いわば、モビリティの機能的な側面ではなく、「愛着」といった情を指向する。さらにCES2020ではメルセデスが「人間と機械と自然の調和」をコンセプトに、人と車は感情的な繋がりを持つ、として、やはり人間と機械の関係性を再定義する言葉として「情」に言及する。

Baiduは、AIが将来のモビリティにおいて果たす役割についての考え方の説明が多く、やや機能的な側面に焦点を当てたプレゼンテーションであった。あくまでAI中心に、AIによって何ができるか、を提示するという考え方である。これらコンセプトカーの違いには、AI中心に考えるBaiduと、人と機械の関係性の再定義を行う自動車メーカーという方向性の違いが見て取れる。

ロボタクシーの商用準備に向けたプラットフォームを発表

そしてBaiduは、あくまで10年先ではなく、短期的にロボタクシーを事業化することを目指して、ロボタクシーの商用準備に向けたプラットフォーム「Luobo Kuaipao」について発表した。

2021年第2四半期末時点で、Baidu Apolloの自動運転配車サービスは40万回以上の乗車を提供し、870万マイル以上を運転することを達成している。中国の4つの都市(北京、広州、長沙、滄州)で実施されているApolloプログラムの蓄積を元に、すでに展開されている有料ロボタクシーサービスのApollo Goが拡張される。

 


世界のロボタクシーの動向やビジネスモデルに関するレビューなどについて特集しています。興味のある方はこちら。
参考:(特集) 社会実装が始まる世界のロボタクシー市場動向


【世界の自動運転技術動向に興味のある方】

世界の自動運転プロジェクトのベンチマーク、自動運転技術動向、自動運転ベンチャーのロングリスト調査などに興味のある方はこちらも参考。

詳細:先端技術調査・リサーチはこちら


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

CONTACT

お問い合わせ・ご相談はこちら