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3DフラッシュLiDARのOusterが同方式のSense Photonicsと買収交渉していると報道される

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3DフラッシュLiDARを開発しているOusterは2021年3月にSPACスキームでニューヨーク証券取引所に上場したベンチャー企業だ。

同社は現在、同じく3DフラッシュLiDARを開発しているSense Photonicsを買収するための交渉を行っていると、8月20日にブルームバーグが報じている。

今回、OusterとSense Photonicsという両社の概要についてレビューしていきたい。

非自動車と自動車という顧客補完の関係にある

Ousterは3DフラッシュLiDARを幅広い顧客へ展開していることが同社の戦略の特徴の1つとなっている。

Ousterのユーザーは、スマートシティ、鉱業、産業用ロボット、港湾、トラック、搬送ロボット・AGV、ラストマイル配送ロボットなど多岐に渡る。他の多くのLiDARベンチャーが自動車(特に乗用車)を狙うのに対し、同社は当初から、多用途に展開してマネタイズしていくという戦略を取る。実際に、直近の2021年第二四半期ではすでに7.4m$の売上を上げ、1,460個のセンサーユニットを提供している。

一方のSense Photonicsは自動運転・ADAS向けのLiDARの開発に注力している。2021年6月には柔軟でスケーラブルな高性能自動車用LiDARプラットフォームについて発表し、デトロイトを拠点とする自動車OEMと開発契約を締結したことを明かした。

(補足)自動車OEMの名前は明かしていないが、デトロイトに本社があるのはゼネラルモーターズ(GM)であり、恐らくGMであると推察された。

(追記10/8)その後、GMはCeptonのLiDARを採用することも明らかになっており、上記はGMのさらに次世代車種での話か、またはFord(デトロイトに研究所がある)なのかは不明な状況だ。

また、Sense Photonicsは他の多くの主要な北米・ヨーロッパのOEM、自動運転システムプロバイダー、主要なグローバル自動車Tier1サプライヤとの開発プログラムに関する最終的な議論も行っている。

Ousterからすると、自動車分野は非常に市場として大きいが自社のリソースは非自動車(乗用車)に割かれているため、買収によって一気にSense Photonicsの自動車向けリソースと顧客候補群を獲得できるというメリットがある。

技術的にも補完関係がある

また、顧客層だけでなく技術的にも同じ3DフラッシュLiDARを開発していることもあり、親和性も高く、補完関係もありそうだ。

OusterもSense Photonicsも基本的な構造の考え方は同じで、発光部はVCSELレーザーエミッター(垂直共振器面発光レーザ)で、レーザー光が基盤面に対して垂直方向に発信される光源のアレイチップとなっている。そして受光部はCMOSを使った単一光子アバランシェダイオード(SPAD)だ。

しかし、両社にも特徴はある。

下記の製品スペックを見ると、まずOusterは自動運転・ADAS向けではあまり展開をしてこなかったため、従来のOSシリーズでは検出範囲は50~240mのラインナップを持っているいるものの、その検出物体の反射率前提は80%時となっている。自動運転向けのES2では反射率10%で200mの検出を開発ターゲットとして進めているが、現時点で開発の進捗は不明だ(2022年内のサンプル提供を目標にしている)。同社がこれまで得意だったのは比較的短・中距離領域である。ただし、同社はまだVSCELもSPADも改善の余地が大きいとしており、今後の開発でスペックはさらに向上していくと見込まれる。

一方、Sense Photonicsは最初から自動車グレードで開発を進めてきたため、検出範囲200m(反射率10%)を実現するLiDARのサンプルを2021年半ばに利用可能になるとしている。また、940nmのレーザーは、長距離性能を出すために高出力にするとアイセーフティの問題があるが、同社への直接の取材によると、通常のLiDARは強くコリメートされた(ビーム光を平行状態にして強く指向性を持たせる)レーザービームを使うが、同社はVCSELのレーザー出力を拡散して視野全体を照らすことで、アイセーフティの問題をケアしているという。さらに、同社のエミッターは独自開発された15,000を超える高密度のVCSELのアレイを1つのチップに実現する(数万という表現がされているリリースもある)。同社のLIDARは、従来のLiDARが200万pts/s程度の点群密度であるのに対し、1,000万pts/sの高精細を実現することができるという。

また、Sense Photonicsが6月に発表したMultiRange™機能も特徴的だ。この機能は、50m、100m、200mの3つのレンジを複数のセンサヘッドを使用せずに異なるFOVで検出することができる。

OusterとSense Photonicsの技術スペック概要

項目OusterOusterSense Photonics
製品シリーズ名OS系ES2N.A.
発光部VCSELVCSELVCSEL
受光部SPAD
(CMOS)
SPAD
(CMOS)
SPAD
(CMOS)
波長帯850nmN.A.940nm
検出範囲50~240m200m50m~200m
反射率前提80%時10%時10%時
両社公開情報より当社作成

このように、すでに非乗用車用途で幅広く実績を積んでいるOusterだが、自動車向けの長距離LiDARの開発で少し時間がかかりそうなのに対し、自動車向けで多彩な要素技術の開発が進むSense Photonicsは、技術的な親和性が高く、シナジーが高いように見える。

自動車向けはLuminar、AEye、Aeva、Innoviz、Velodyneなどの欧米勢だけでなく、HesaiやRobosenseなど中国勢も含めて、数多くのプレーヤーによる熾烈な開発競争が進んでいる。内製ですべてを開発していくよりも、SPAC上場で得た資金力をバックに、今回のような買収交渉が行われている可能性がある。

 


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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