自動運転に関する法改正が進み、国内でも段階的な実証試験が始まっている。自動運転車の事故は事業推進に大きな影響を及ぼすが、公道を自在に走り回るタクシーと比べ、既定の路線を往復するシャトルバスは比較的難易度も低く、全国で導入が進められてきた。

本稿では、自動運転バスに焦点を当て、実際の導入事例や関連する事業者を紹介する。

騒ぎになる自動運転車両の事故

2023年4月、改正道路交通法が施行され、国内でも自動運転レベル4が解禁された。自動運転レベル4とは、限定された条件の下でならドライバーが運転席を離れることも可能とするものだ。これに伴って自動運転車の実証試験が各地で実施され、現場の人手不足解消が期待される。

しかし、実際に公道を走ることで課題も浮き彫りになってきた。

日本に先んじて自動運転レベル4を解禁したアメリカ、カリフォルニア州では、GM傘下のCruiseが自動運転タクシーの商業利用を行っていたが、2023年10月に自動運転車を公道から撤去するように州から指示を受けた。この背景にあるのは相次ぐ事故とCruiseによる虚偽報告だと言われている。

2023年10月2日には、他の車にはねられ、Cruiseタクシーの下に潜り込んでしまった被害者をCruiseタクシーが再度轢くという事故が起きている。Cruiseタクシーは衝撃を検知して一度は停止したものの、車体下部にセンサを搭載していなかったため被害者を検知できなかった。事故時の既定の手順に従って、車を路肩に停車させようとしたところ転倒している被害者を前方に引きずったものと見られている。人が運転していればあまり起きないタイプの事故だ。

このケースは状況が特殊である「エッジケース」と言われる。車両側には発端についての責任はないように思われるが、この事件を発端として、海外メディアは他にもCruiseの車両が別のエリアの市の消防署や警察、救急サービス部門、そして住民からの苦情が相次いでいることを報じている。

自動運転車の危険性については判断が難しい。Cruiseでは自動運転車の公道実証試験結果をまとめ、一般的な車よりも事故率が低いというレポートを過去に提示している。

とはいえ、「人の運転より事故率が低いから問題ない」という論理を被害者側が受け入れることは難しいだろう。被害者側からすれば、自動運転車がなければ事故には遭わなかったはずだからだ。

自動運転車の安全性に関する問題は統計的な事故率データの解釈に留まらない。この技術や事業者へのイメージも大きく影響することから問題が複雑化してしまっている。

自動運転シャトルバスは難易度が比較的低い

一度の事故によるリスクが大きく、事業継続を左右するものとなるだけに、自動運転を導入する際には可能な限り事故の要因になり得る要素を排除したい。そうした観点から既定路線のみを往復するシャトルバスはタクシーよりも容易に導入できると見られている。

シャトルバスは運航する道路が予め決まっているため、あらゆる場面に臨機応変に対応する必要はない。車内空間の広さや運用コストの面から添乗員を同行させやすいため、緊急時には人に運転を譲ることもできる。

日本国内における自動運転タクシーの本格的な公道実証実験は未だ始まっていないが、シャトルバスについては幾つかの自治体で既に実証実験が行われている。また、世界でも自動運転シャトルバスの実証実験は行われている。

国内外で行われている自動運転シャトルバスの実証実験

日本事例:省庁横断・官民一体で進むRoadToL4やデジタル田園都市国家構想など

日本国内においては、2025年までの自動運転の社会実装を目指して、経済産業省・国土交通省の委託事業として「RoadToL4」プロジェクトが進められている。

産業技術総合研究所や各種シンクタンク、運行事業者や関係企業を巻き込んだ、日本の動きを代表する大がかりなプロジェクトとなっている。日本においては内閣府が主導してきたSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)第二期での自動運転技術の取り組みが終わり、現在は第三期にも進んでいるが、RoadToL4はより社会実装を睨んだプロジェクトとなっている。

4つのテーマが存在し、テーマ1「福井県永平寺」、テーマ2「茨城県日立市」、テーマ4「柏の葉」での実証実験が、とりわけ人の移動に焦点をあてた実験となっており、本稿の自律走行シャトルバスに関わるテーマとなっている。

「RoAD to the L4」の実証実験地域

画像はRoadToL4ランディングページより引用

また、現在日本政府が進めている「デジタル田園都市国家構想」による実証実験も動いている。

茨城県境町では2020年11月より自動運転バスの実証試験が行われている。「デジタル田園都市国家構想」の補助対象にも選ばれており、BOLDLYが境町と共同して進めている。

この事業についての地域住民の反応や関係者の抱く感触について取材した記事が日経BPで特集されており、大変興味深い※3

茨城県境町の自動運転バス試乗会の様子

茨城新聞動画ニュースより

当該バスの定員は11名で、料金は無料、添乗員が常に乗車して運航される。道の駅や高速バスターミナル、医療施設、育児施設、銀行、町役場、小学校などを経由し、地域の交通弱者の足となってきた。

運用にかかる費用は、2020年4月から2025年3月までの運行準備期間を含む5年間で約5.2億円。2021年度からは事業費の2分の1は地方創生推進交付金が交付されるため、残りは境町の予算でまかなっている。対して、1年間での利用者数は約5300人、メディアなどで取り上げられたことによる経済効果は2年間で約7億に上ると試算された。

最高時速20kmで運航する自動運転バスは当該記事中で「横に動くエレベーター」のようなものと表現されている。低速で運航する当該バスは交通渋滞の原因にもなり得るが、時間が経つにつれて地域の理解も深まり、急いでいる人は自動運転バスの運航ルートを避ける傾向が見られたという。

米国事例:カリフォルニア州でのシャトルプログラム

ロボタクシーの実証実験が盛んなカリフォルニア州でも自動運転シャトルバスの実証実験は行われている。

2023年4月に、カリフォルニア州ではベイエリア初の一般公開の自動運転シャトルプログラムを開始した。このプログラムは今年秋までの数か月間の実証実験であり、カリフォルニア州サンラモンのビショップ・ランチ(Bishop Ranch)内の4つの主要目的地への移動手段を無料で提供するというもの。

なお、この実証実験においては後述の企業であるBeep社と市が提携して行っている。このシャトルは最大8人の乗客と付添人を乗せることができ、最高速度制限は時速15マイル(約24km/h)と制限されている。低速での運行であり、この実証実験自体は比較的安全性の高い環境下で、慎重に運行されていると見える。

欧州事例:ドイツハンブルクで大規模展開予定のALIKEプロジェクト

ドイツのハンブルクでは、つい最近、ドイツ連邦運輸省との合意で、2030年までに最大10,000台の自動運転シャトルを配備するALIKE プロジェクトが発表された。

ALIKEプロジェクトの紹介動画

Autonom und emissionsfrei: Das Projekt ALIKE für Hamburg

この大規模な試みでは、自家用車に代わる魅力的な代替品として、従来の公共バスや鉄道交通システムを新しい自動運転シャトルバスで補完する、最新のオンデマンド交通サービスを構築する。アプリを使って簡単に予約でき、乗客を乗せて目的地まで運ぶという。

実際に自律型のシャトルサービスは2025年からサービスが開始する予定となっている。車両は2種類使われる予定で、Holon MoverとVolkswagenのID. Buzz AD、ソフトウェアは欧州で配車サービスを展開しているMOIAが担当する。

様々に登場する自動運転バス事業者

次に、自動運転シャトルバスにどのような事業者が関わっているのかを紹介していく。

NAVYA(仏)

フランスに本拠を置くNAVYA社は自動運転バスの製造・販売を行っている。

上記、境町の事例でもNAVYA社の自動運転バスARMAが導入されており、この他にも東京都お台場回遊プロジェクトや、北海道岩見沢市、福岡県福岡市などの自治体、羽田空港に隣接する技術実証試験都市、羽田イノベーションシティでも導入されてきた。

自動運転バス「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」がバス停から出発する様子

NAVYA ARMAに関しては、国交省とソフトバンクグループが作成した資料で詳細かつ分かりやすく紹介されている。数cm単位で誤差を修正するGPSや、優れた慣性センサを備えるが、特徴的なのがSLAMと呼ばれる位置特定技術だ。

SLAMでは事前に入力された基準マップと走行中にLiDARで取得した情報を照らし合わせながら走行する。走る場所が決まっているシャトルバスならではの取り組みだ。

2004年に設立された無人EVメーカーInductは、2014年に買収されてNAVYAとなった。2023年にはGAUSSIN(仏)とMacnica(日)に買収されている。Macnicaは以前からNAVYA社の自動運転ソフトウェアの開発に携わっていた。

Boldly

ソフトバンク子会社のBoldlyは、NAVYAやMacnicaと協力し、自動運転バスの遠隔監視や社会実装支援を行っている。

境町の実証試験を見て分かる通り、自動運転バスの導入には経路の選定、地域・自治体・国とのコミュニケーション、トラブル対応などについて緊密なサポートが欠かせない。Boldlyではこうしたサポートを包括的に提供している。

神戸市 須磨海岸 レベル4対応の自動運転バスMiCaを運行する様子

Beep

2018年に設立されたBeepは、2022年にシリーズA-1資金調達ラウンドで25M$を獲得した米国のベンチャー企業である。

Beepの特徴として、自社で自動運転バスの開発を行わず、サービス提供やプラットフォーム開発に注力している。モビリティ、ソフトウェア、通信、センサなどのテクノロジー関連企業のみならず、土木、電力システム、測量などのインフラ関連企業とタッグを組むことで、大規模なプロジェクトを推し進めてきた。先に紹介したBoldlyの立ち位置に近いが、こちらは自動運転技術を繋ぐハブとなることを目指しているようだ。

アリゾナ州、フロリダ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、イエローストーン国立公園など全米各地で自動運転シャトルの実証実験を行ってきたBeepだが、2023年4月にはカリフォルニア州でもサービス提供開始を発表した。

ASMobi

国内でも新たにベンチャーが登場している。

ASMobiは東京大学発のベンチャーとして~年に設立された。AIを活用した自動運転技術をコアとし、より自由度の高い自動運転バスの社会実装を目指す。

東京お台場や、JR東日本管内気仙沼線内のバス専用区間などで実証試験が行われた。

ヤマハ発動機

ヤマハ発動機の特徴は電磁誘導式の自動運転モビリティの開発を進めている点にある。地面に埋め込んだマーカーと通信して自車の位置情報を把握する方式で、ルートを限定すれば他の技術よりも安価に実装可能だ。

2023年5月には産総研や三菱電機らと協力し、福井県永平寺町で国内初となる自動運転レベル4(ドライバー不在)のシャトルバスサービスを開始した。

上手く利用環境を設定できれば社会実装は可能

ある程度人口の多い都市内環境で、複雑な道や目的地をカバーしなければいけないロボタクシーと異なり、自動運転シャトルバスは利用環境を選べば、比較的シンプルな走行環境で安定したルートを走ることができるため、自動運転は容易となる。

従って行政と民間企業が上手く連携し、世界で進む実証実験が拡大されていけば、ロボタクシーより本格的な社会実装が早くなることも想定される。

日本が国を挙げて進めているRoadToL4や、ドイツハンブルクのALIKEプロジェクトなど、今後の動向に要注目である。


参考文献:

※1:California sidelines GM Cruise’s driverless cars, cites safety risk(リンク

※2:Cruise’s Safety Record Over 1 Million Driverless Miles(リンク

※3:茨城県境町で自動運転バス実用化から1年。見えてきた成果と課題, 日経BP(リンク

※4:東京都ランディングページ(リンク

※5:自動運転EVバスの公道走行実証について, 岩見沢市(リンク

※6:SB Driveホワイトペーパー(リンク

※7:Beep secures $25M to bring autonomous vehicles to public transit(リンク

※8:米カリフォルニア州で一般向け自動運転シャトルバスプロジェクト開始, JETRO(リンク

※9:ALIKE project to bring 10,000 autonomous shuttles to Hamburg by 2030(リンク