2023年11月、米スタートアップのNuScale Powerが手掛ける小型モジュール原子炉(SMR)の建設中止が発表された。本件には日本の大手重工業者も出資しており、国内のSMR開発にも大きな影響が予想される。

本稿では、世界の原子力発電開発状況、SMRのメリット、関連各社の動向などについて解説しつつ、これからの原発利用について考える。

原発利用の変遷|研究開始から福島原発事故まで

世界の原子力発電利用状況は、様々な事件や事故、世界情勢、地球環境保護への関心の高まりなどによって変化してきた。以下では、エネルギー庁のWEB上での発信を引用しつつ、原子力利用に関するこれまでの流れを振り返る。

  • 1942年:米シカゴ大学で開発された原子炉が歴史上初めて臨界に達する。当時はこれを発電に利用する意図はなく、純粋な研究目的であった
  • 1945年:マンハッタン計画によって製造された原子爆弾が広島・長崎に投下される
  • 1951年:米国が原子力発電に成功
  • 1953年:米アイゼンハワー大統領が国連総会で演説し、原子力の平和利用を訴える
  • 1957年:IAEA(国際原子力機関)設立
  • 1973年:第一次オイルショック発生。石油資源依存への危機感から原発開発が進む
  • 1979年:米スリーマイル島で原発事故が発生。米国内での新規原発開発計画は中止され、2023年7月にボーグル原子力発電所が稼働するまで原発の新規着工は停止された
  • 1986年:旧ソビエト連邦(現ウクライナ北部)のチェルノブイリで原発事故が発生
  • 1980年代:度重なる原発事故と化石燃料の資源価格安定により、原発開発が下火に
  • 1990年代~2000年代:アジア地域の急速な発展に伴いエネルギー需要が拡大。地球温暖化への懸念拡大もあり、原発への回帰が進む
  • 2011年:福島で原発事故が発生。以降、原発には従来よりも高い安全基準が設けられるようになる

SMRの基本原理|大枠では従来の原子炉と変わらない

原発の基本原理は核分裂反応によって生じた熱を電力に変換する、というものだ。

核分裂反応では高エネルギーの中性子が放出され、中性子が核燃料にぶつかることで連鎖的に反応が進行するが、核分裂によって放出される中性子のそのままのスピードでは速すぎて効率が悪いため、「減速材」が必要になる。また、中性子は人体や周辺環境に有害であるため、これを止めるための「制御棒」も必要だ。1942年、初めて臨界に達した原子炉「シカゴ・パイル1号」では、黒鉛ブロックが減速材に、カドミウムが制御棒に用いられた。

また、熱を電力に変換するための媒体を「冷却材」と呼ぶ。この減速材と冷却材の種類によって様々な原発が存在するが、従来、最も一般的に用いられていた軽水炉は軽水(普通の水)を減速材、及び冷却材として用いる原子炉だ。加熱された水が水蒸気となり、タービンを回すことによって発電する。他の冷却材としては、重水(質量の大きな水の同位体)、炭酸ガス、液体金属ナトリウムなどが挙げられる。

現在、新たなタイプの原子炉が数多く研究されているが、SMRは減速材や冷却材が従来型と異なるわけではない。その特徴は「小型」であり、「モジュール化されている」ことにある。

日本原子力研究開発機構の記事によれば、そのメリットは「安全性」、「生産性」、「柔軟性」の3点だ。

SMRはそのサイズと低出力であることから、冷却することが比較的容易だ。よって、事故発生時のリスクを低減できる。

従来、原発は1つずつオーダーメイドで建造されていたが、SMRは大量生産を前提としてモジュール化されている。つまり、パーツを工場で大量に生産し、現地で組み立てを行うことで生産性が増し、建設に掛かるコストの低減が可能だ。

また、小型であり、モジュール化されていることから、設置場所のエネルギー需要に応じた出力を選べる点が柔軟性になる。送電網が不十分な僻地などでも活用も視野に入ってくるだろう。モジュールを多数設置すれば大電力を生み出すこともできるため、必要な場所に、必要な分だけ電力を供給できる。

SMR関連各社の動向

ここからは米国2社、欧州1社の関連各社の動向を探る。

当社調べにより作成、資金調達額はcrunchbaseより

NuScale Power |計画中止の原因とは

NuScale Powerは2007年の設立以来、米エネルギー省などと連携し、SMRの実用化へ向けて研究開発を推進している。

ユタ州公営共同事業体が統括する電力プロジェクトでは、NuScale Power製、出力7.7万kWのSMRを6基備える予定であった。2029年稼働開始を目指して工事の認可や、安全性を証明する書類の申請が進められていたが、2023年11月に計画自体の中止が発表された。

計画中止の理由については以下のように述べている。

“it appears unlikely that the project will have enough subscription to continue toward deployment.”

つまり、稼働開始までの諸々の資金を調達できる見込みが薄いと判断したようだ。日本経済新聞ではインフレによる資材・人件費高騰により、経済性が見込めなくなったという見解を示している。

NUWARD|大手電力系でのSMR開発

NUWARDはEDF(フランス電力)グループとしてSMRの開発を進めている企業である。

フランス政府は2021年、投資計画「France 2030」を策定し、カーボンニュートラルを促進する産業などに対し総額30b€を投資。さらに、この中で新型原子炉に対しては10年間で1b€を投資していくと発表した。

NUWARDのSMRはこの投資を受けており、2023年7月にはEDFが17万kWの原子炉を2基建設する方向で予備的許認可手続きを開始した。

X-energy|安全な核燃料をアピール

X-energyは、2009年に米メリーランド州で設立されたSMRのスタートアップだ。ウラン粒子を保護シェルに内包した「トリソX」という燃料を使うのが特徴で、同社は米エネルギー省から「地球上で最も堅牢な核燃料である」とのお墨付きを得たことをアピールしている。

2023年3月には、素材大手のダウとグリッドスケール先進原子炉の共同開発契約を締結した。一方、ニューヨーク証券取引所への上場を見込み特別買収目的企業のアレス・アクイジションとの合併が進められていたが、市場環境として上場が困難との判断から同年10月に本件は白紙となっている。

NuScale PowerのSMR開発中止による影響と今後の原発利用

前述のNuScale Powerの小型モジュール炉計画中止は、各方面にインパクトを与えた。しかし、小型モジュール炉開発計画自体はこの他にも多数推進されている。

日立製作所と米ゼネラル・エレクトリックによる原子力合弁会社の日立GEニュークリア・エナジーなどが開発しているSMR「BWRX-300」は、早ければ2020年代末までに運転開始する予定だ。

NuScale Powerに関しても、中止されたユタ州の事業以外に様々なプロジェクトが進められている。例えば、データ処理に関する物理インフラを提供する米Standard Powerは、AIやデータセンターなどに利用される電力需要が高まっていることから、NuScale PowerのSMRを導入することを決定した。 SMRを含む多くの次世代原子炉開発の流れは今後も続きそうだ。


参考文献:

※1:世界の原発利用の歴史と今, 資源エネルギー庁(リンク

※2:スリーマイル島事故後初の新規原発、米ボーグル原発3号機が営業運転開始, 読売新聞(リンク

※3:原子力発電を考える(第5回) 臨界と臨界量、即発中性子と遅発中性子, 日経クロステック(リンク

※4:小型モジュール炉(SMR)開発の動向と原子力機構における新型炉開発の取組(2022.09.09掲載), 日本原子力研究開発機構(リンク

※5:Utah Associated Municipal Power Systems (UAMPS) and NuScale Power Agree to Terminate the Carbon Free Power Project (CFPP) , NuScale Power(リンク

※6:「米国初」小型原発、建設計画を中止 インフレ直撃, 日本経済新聞(リンク

※7:スタートアップは原子力発電の新規導入ペースを変えるか, つるが国際シンポジウム2023年11月2日, 経済産業省(リンク

※8:NUWARD announces the submission of the NUWARD

SMR Safety Options File to the French Safety

Authority (ASN), which marks the start of the pre-

licensing process., NUWARD(リンク

※9:TRISO-X Fuel, X-energy(リンク

※10:X-energy and Ares Acquisition Corporation Mutually Agree to Terminate Business Combination Agreement, X-energy(リンク

※11:GE日立が、北米初となる小型モジュール炉の契約を締結, 日立GEニュークリア・エナジー(リンク) ※12:Projects, NuScale Power (リンク