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カーボンネガティブコンペティションXPRIZE Carbon Removal

INDEX目次

XPRIZE Carbon RemovalはXPRIZE財団が主催するカーボンネガティブソリューションのコンペティション(競技会)だ。ここでは、本競技会の目的や開催期間、審査方法に加え、その進捗について紹介する。

XPRIZE CARBON REMOVALとは|XPRIZE財団にイーロン・マスク氏が資金提供

XPRIZE財団は1995年に設立された非営利組織で、人類のための根本的なブレークスルーをもたらすことによって、新たな産業の創出と市場の再活性化を刺激することをミッションとしている。2021年から始まったXPRIZE Carbon RemovalはElon Musk(イーロン・マスク)氏がスポンサーとなり、XPRIZE財団が取りまとめを行うものだ。

イーロン・マスク氏といえば、米国のEV最大手テスラの創業者であり、Forbesが毎年掲載する世界の長者番付でも2022年に1位、2023年に2位となった資産家だ。

XPRIZE Carbon Removalは二酸化炭素(CO2)の回収・貯留技術を持つ企業や研究グループを支援することが目的。本コンペティションの受賞企業には多額の資金が提供されるため、世界中から多くの企業と研究機関がエントリーした。

日程・賞金

本コンペティションは2021年4月22日のアースデイに開始された。いくつかの段階を経て受賞者を絞っていき、2025年まで続く。

優勝賞金は50m$、次点の上位3チームには30m$が分配される予定だ。また、途中経過で上位15チームには1m$のマイルストーン賞が授与される。

審査基準

本コンペティションの詳しい審査基準はガイドラインに掲載されているが、概要の最後に以下の文章で要旨がまとめられている。

"To win the prize teams must demonstrate carbon removal at the kt/y scale, model costs at the Mt/y scale, and make a case for a sustainable path to Gt/y scale. The team with the most scalable and lowest-cost carbon removal technology will win."

つまり、実際に年間キロトン規模のデモンストレーションを完成させ、これをメガトン規模、さらにはギガトン規模へスケールアップするための実現可能な道筋を示す必要がある。

測定方法、環境負荷の大きさなど、細かな基準があり、ソリューションには「スケーラビリティ」や「コスト効率」などが重視される。

1m$マイルストーンに到達した15チーム

2022年4月22日、XPRIZE Carbon Removalの開始から1年が経過した時点で、エントリーした全1133チームの中からマイルストーン賞を授賞する15のチームが選定された。

分野ごとの一覧を以下に示す。

Air

  • Calcite from 8 Rivers Capital(米国)
  • Carbyon(オランダ)
  • Heirloom & Carbfix(米国・アイスランド)
  • Project Hajar(米国・オマーン)
  • Sustaera(米国)
  • Verdox & Carbfix(米国・アイスランド)

Land

  • Bioeconomy Institute Carbon Removal Team from Iowa State(米国)
  • Global Algae Innovations(米国)
  • NetZero(フランス)
  • PlantVillage from Penn State(米国)
  • Takachar & Safi Organics from University of British Columbia(ケニア)

Ocean

  • Captura from California Institute of Technology(米国)
  • Marine Permaculture SeaForestation from the Climate Foundation(米国・フィリピン・オーストラリア)
  • Planetary(カナダ)

Rocks

  • Carbin Minerals from University of British Columbia, Vancouver(カナダ)

Air:大気

Air分野として紹介されているのは、空気中からCO2を回収する技術を持つ企業だ。当該技術は、使用する吸着材とCO2吸着後の脱離プロセスによって分類できる。

吸着材は固体(ゼオライト、MOF、炭酸カルシウムなど)のものもあれば、液体(アミン溶媒など)もあり、それらを組み合わせて用いる場合もある。

CO2を吸着材から引きはがす際には熱を用いることが多いが、エレクトロスイング、pHスイング、湿度スイングなど、さまざまな脱離方式が研究されている。脱離に要するエネルギーが大きければコストがかさみ、環境にもよろしくない。このエネルギーを低減していくことがコスト削減における重要な課題となる。

8 Rivers CapitalのCalcite技術と、HeirloomのCO2回収プロセスはよく似ている。両者はどちらも炭酸カルシウムによってCO2を吸着し、加熱・還元することで脱離する。

同じ熱を使うものでも、Carbyonのプロセスは吸着材の化学変化を伴わない。物理的にCO2を吸着し、熱によって脱離する吸着材を用いている。

対照的に、Verdoxは電気によりCO2の吸脱着を制御する。

また、回収したCO2をどのように留めておくか、ということも重要な課題だ。Carbfixは地中の玄武岩層などにCO2を注入し、反応させ、炭酸塩として留める事業を推進している。こうしたCO2回収事業者と貯留事業者の提携が多く見られるようになってきた。

参考記事:大気からCO2回収を目指す「DAC」スタートアップの事例

Land:植物

植物は光合成によってCO2を固形化し、大気中のCO2濃度を減らすことができる。植物を利用したカーボンネガティブソリューションとして近年注目されているのが、藻類とバイオ炭に関する技術だ。

特定の藻類は地上の植物と比べて優れた成長速度を有し、耕地面積も少なくて済む。従来の4%の耕地面積で従来農業と同じ農業産出量を生み出すという試算もあるほどだ。現在飼料として用いられているトウモロコシなどを藻類で代替すれば、これ以上熱帯雨林を開発する必要がなくなり、大きな温暖化抑制効果が見込める。

Global Algaeは藻類生育プラントを建設し、樹脂、油、飼料、塗料などさまざまな用途への応用を目指す。

一方、バイオ炭とはバイオマスを用いて作られる炭化物だ。物理的性質はさまざまだが、通常の活性炭と同じようなものと考えられる。つまり、多孔性で反応性が高いため、保水、水質改善、農作物の生育促進(肥料)などに利用可能だ。

アイオワ大学バイオエコノミー研究所は、バイオ炭の製造方法や利活用について研究し、その普及に努めてきた。農業廃棄物をバイオ炭に転化できれば、これまで燃焼によって大気中に放出されていたCO2が地上に固定され、大気中に放出されることなく炭素を循環させることができる。

Ocean:海洋

海洋は大気とCO2のやり取りを続けている。海中では主に炭酸水素イオンの形でCO2を保持しているが、これを回収しCO2を吸収できる容量を空ければ、その分、多くのCO2を海洋に留めることが可能だ。

海洋からCO2を取り出す方法としては、藻類への転化(光合成)、海水の酸性化、炭酸塩化などがある。

藻類への転化とはLandで紹介したような、藻類農業のことだ。Climate Foundationは Marine Permacultureと呼ばれる持続可能な海洋農業を進める。

Capturaは従来とは全く異なる電気透析を用いたCO2回収法を提案した。海水を電気透析して酸性化すると、海中に溶けきれなくなったCO2が気体となって放出されるため、これを回収できる。電気透析でできたアルカリ水で中和すれば、海洋にダメージを与えることなくCO2のみを海中から取り出すことが可能だ。

また、Planetaryは海中に水酸化マグネシウムを投入することでCO2と中和させ、炭酸塩として固定化する事業を推進してきた。

このように、海洋を利用したさまざまなカーボンネガティブソリューションが登場していている。

Rocks:風化

風化(weathering)とは、地表にある岩石や鉱物が変質、または分解される作用のことだ。

風化には様々な種類があるが、空気中、または雨水中のCO2と鉱物が反応して生じる風化もある。CO2による風化が起きると、CO2は地上に固定されるため大気中のCO2濃度が減少する。Carbin Minerals(現:Arca)はこの作用を増幅させ、カーボンネガティブを目指す。

期待される上位チームの実社会での技術活用

予定通りに進めば、XPRIZE Carbon Removalは本稿公開から約1年後の2025年に審査結果が出る。現在は、キロトンスケールでのモデルが構築されている段階で、すでに実証を始めているチームもあるだろう。

マイルストーン賞に選出されたチームには、1年後の結果にかかわらず、人類が抱える課題の解決が期待される。また、XPRIZE財団とイーロン・マスク氏以外にも同様の取り組みを行う企業や政府の登場が、待たれるところだ。


参考文献:

※1:$100M PRIZE FOR CARBON REMOVAL, XPRIZE(リンク

※2:XPRIZE AND THE MUSK FOUNDATION AWARD $15M TO PRIZE MILESTONE WINNERS IN $100M CARBON REMOVAL COMPETITION, XPRIZE(リンク

※3:Calcite, 8 Rivers Capital(リンク

※4:Heirloom(リンク

※5:Carbyon(リンク

※6:Verdox (リンク

※7:Carbfix (リンク

※8:Reduce CO2 Emissions , Global Algae (リンク

※9:Our Technology , Global Algae(リンク

※10:アイオワ大学バイオエコノミー研究所(リンク

※11:二酸化炭素を吸収する海洋の仕組み, 村田昌彦, 『Blue Earth』2004年11-12月号(リンク

※12:Marine Permaculture, Climate Foundation(リンク

※13:TECHNOLOGY, Captura(リンク

※14:CDR & OAE Basics, Planetary(リンク

※15:Arca (リンク


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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