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【展示会レポート】「持続可能なプラントEXPO2024」に見るこれからのカーボンニュートラルで考えたいこと

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2024年7月24〜26日、東京ビッグサイトで「持続可能なプラントEXPO 2024」(主催:日本能率協会)が開催された。製造業向けに、生産プロセスにおけるエネルギー効率向上、廃棄物削減のプロダクトなどを紹介する趣旨の展示会だ。

ATX編集部は、7月25日に同展を取材。産業技術総合研究所(産総研)の長谷川泰久氏による講演や省エネルギーに関する展示について、お伝えする。

ヨーロッパのCO2分離回収プロジェクトが突出して多い理由|長谷川泰久氏講演

カンファレンス開始前の模様(編集部撮影)

持続可能なプラントEXPO2024で7月25日、産総研 資源循環研究ラボ 炭素資源循環チーム 長谷川泰久 研究チーム長による「CO2分離回収技術の開発動向」と題した講演が行われた。

これまでATXでも、カーボンリサイクルや二酸化炭素(CO2)回収技術について、数多、取り上げてきた。長谷川氏はこうした現状の分離回収技術について、第一線の科学者としてだけでなくグローバルなCO2分離回収技術の動向、分離回収のグランドデザインなど、多角的な視点から講演をした。

参考記事:脱炭素時代に求められるカーボンリサイクル技術の動向
参考記事:CO2回収技術の現状|海洋を対象にしたDOCや藻類活用などネガティブエミッションの注目企業

冒頭、ライフサイクルアセスメント(LCA)、循環システム評価、環境経済学がCO2分離回収の要諦になると語る長谷川氏。分離回収自体は技術的に可能なため、次に大切になるのは実際に回収できているか、さらにコストと効果はどうかといった評価であるということだ。それらを踏まえ、長谷川氏はCO2分離回収の土台となるのは「循環システム設計」だと話す。

産総研プレスリリースより

続いて、現状の確認に話が移った。日本政府は2030年度に2013年度比で温室効果ガス(GHG)を46%減、2050年度には排出を実質ゼロとすることを目標としている。長谷川氏は、2030年度の目標は何とか達成できそうな状況となってはいるものの、2050年度の実質ゼロはいまだ不透明な状況だと解説した。

その理由の一つが、各業界でカーボンニュートラルへの努力が進められているものの、根本的になくすことが不可能なCO2排出があるためだ。それらをも打ち消す手段として、分離回収技術にニーズが生まれる。

ここから講演のタイトルとなっている「動向」という本題へ入っていく。長谷川氏から、次のような世界各地の分離改修プロジェクトの実施件数が挙げられた。

  • 日本:20件
  • 米国:12件
  • 中国:10件
  • ヨーロッパ:72件

ヨーロッパが突出して高いことが見て取れるが、それは後ほど解説されるとして、長谷川氏は各地域で実際にどのようなプロジェクトが行われているかの説明をする。

まず日本では、グリーンイノベーション基金(GI基金)によるプロジェクトとムーンショット型の開発が進んでいる。講演の中では、GI基金関連のプロジェクトに参画する具体的な企業名が挙げられなかったものの、長谷川氏は「『GI基金』で検索すればプロジェクトの詳細が分かる」とコメント。実際に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開しているGI基金の資料からは、千代田化工建設やデンソーなどが開発・実証を進めていることが読み取れる。

続いて米国について。こちらは、EORと貯留にターゲットを絞られていると長谷川氏は解説する。EORとはEnhanced Oil Recoveryの略で、日本語では石油/原油増進回収となる。端的に言えば、回収したCO2を油田やガス田に圧入し、中にある資源を抽出。圧入されたCO2はそのまま貯留される仕組みだ。


エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によるEORの解説図(同機構プレスリリースより)

そして、突出してプロジェクトの数が多いヨーロッパ。長谷川氏はその理由を、ヨーロッパの政府、組織、人々は「CO2分離回収はできることが当たり前だという意識」であると、まず語る。その上で、技術的に可能であるから、どう回収するのが適切か、どう資源化するのが適切かとの方向に意識が向いているのだという。つまり、冒頭で長谷川氏が話した「循環システム設計」といったスケールの大きなフェーズに移っているのだ。

そのため、72件のプロジェクトのうち、21件は地域工場となっている。地域工場で、CO2を回収し、輸送ができる形に加工したり、資源化したりする。そして、北海油田のようなEORでCO2を大規模に貯留できる場所へ送るなどをしているのだ。

終盤、長谷川氏は具体的な分離回収技術では、「吸収」「吸着」「膜」の3種類がメジャーな分野であることを取り上げた。産総研の技術開発としては、吸着では有機溶媒分子(メタノール)を回収する吸着剤の開発、膜ではゼオライト膜の大面積化について紹介されている。

展示会から見えた「CO2貯留先の議論深化」と「省エネプロダクトの技術進化」の必要性


会場内の模様。左側にダイキンのブースがある(編集部撮影)

次に、カーボンニュートラルや省エネに関する展示を見てみたい。

ダイキンアプライドシステムズは、低炭素を実現するソリューションとして「高効率冷温水同時供給システム」「高温取り出し加温ヒートポンプシステム」の展示を行っていた。工場などのボイラーを熱交換器やヒートポンプに置き換えることで、CO2排出削減を図るものだ。

ダイキンアプライドシステムが配布していたフライヤー

また、NTTグループのテルウェル東日本は、「FORCE」という省エネプロダクトを展示。工場やオフィスなどの電力設備であるトランスにFORCEをつなげるだけで、施設内での送電で電力ロスが削減でき、結果的に省エネを実現する。なぜ電力ロス削減が実現できるかというと、フェライトやトルマリンといった鉱物が主体となっており、それらがノイズ低減、伝導度の改善を図るためだ。

FORCEは、日本品質保証機構(JQA)、SGS Société Générale de Surveillance、TÜV Rheinlandといった第三者機関の効果認定を受けており、最低でも5%の消費電力削減が確認されている。テルウェル東日本の説明によれば、電力使用量が多いほど削減量も多くなり、工場では最大15%程度の削減が見られるという。


FORCE(編集部撮影)

展示会を振り返り、長谷川氏の講演からは日本でCO2の貯留はどうあるべきかの議論が必要だと感じた。ヨーロッパが分離回収から貯留までのプロセス構築で先行していることも理由の一つだが、他にも日本には大規模な油田はなく、ガスも自給率は著しく低いという現実があるためだ。

そのため、CO2の分離回収技術は国内でも開発が求められつつ、その後の貯留については海外で大規模にEORが可能な地域へ輸送する必要性も出てくるだろう。この点では、CO2を液化する技術があり、別の記事で触れたい。

また、後半で取り上げたソリューションやプロダクトも求められ、この点で技術の一層の進化が求められる。


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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