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Eavor Technologiesの地熱発電技術と事業化の動向|北米、欧州、日本で展開

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Eavor Technologiesは従来とは異なる方式の地熱発電システムを開発し、その実用化を進めている。本稿では、Eavorの地熱発電システムの仕組みや従来の地熱発電との違い、実用化に向けた取り組みなどを紹介する。

Eavor Technologies

  • 設立年:2017年
  • 拠点国:カナダ
  • 資金調達総額:$504m(約740億円)
  • 協業・投資する企業の一部(順不同)
    • Eversource Energy
    • The Bank for Canadian entrepreneurs(BDC、カナダ事業開発銀行)
    • BP Ventures
    • 中部電力
    • OMV
    • みずほ銀行
    • European Investment Bank(EIB、欧州投資銀行)
    • ING Bank
    • 鹿島建設

Eavor-Loopについて|同社の何が新しいのか

一般的な地熱発電は地中のマグマによって加熱され、自然に湧き出す高温の水を利用してタービンを回す。発電のためには熱源の近くを通過する湧水が必要であり、この条件を満たす場所は大変少ない。

日本は温泉が多く存在するため本来は地熱発電に適している土地だ。しかし、地熱発電所を設置することでの温泉への影響を懸念する観光業者や地元の人々がおり、日本において地熱発電が普及しなかった理由の一つとなっている。

こうした状況に対し、Eavorは自然の湧水に頼らない地熱発電システムを開発し、注目を集めている。

Eavorが開発した新たな地熱発電では、地下の熱源付近を通過して地表に戻ってくる長大な穴を掘る。この閉ループの中で流体を循環させ、地下で温められた流体のエネルギーによって発電をするという仕組みだ。構造としては、自動車のラジエーターに似ている。

Eavorはこの仕組みを「Eavor-Loop」と名付けた。

Eavorのテクノロジー解説動画


従来の地熱発電では、温泉とともに水質汚染や騒音への懸念がされることがあるが、Eavor-Loopであれば場所が限定されないため、都市部から離れた用地を選定でき、地下水や地盤への影響を回避できる。

Eavor-Loopの概念図(Eavorメディアキットより)

閉ループにおけるサーモサイフォン効果

地下から流体を汲み上げることを考えると途轍もないエネルギーが必要なように感じる。しかし、実際には流体を汲み上げることにほとんどエネルギーは必要ない。

入口から流体を投入すれば、熱せられた流体が出口から押し出されて出てくる。この点が単純な井戸と異なり、閉ループを用いる第1の利点だ。

さらに、この閉ループの中を流れる流体はサーモサイフォン効果によって途中で力学的なエネルギーを与えずとも一方向にのみ循環するように設計されている。サーモサイフォン効果はより冷たい流体が下方へ、より熱い流体が上方へ移動することを利用して流体の循環を生む機構だ。

サーモサイフォンを利用することでポンプは不要となり、定常的に必要な発電コストが安く抑えられる。

Rock-Pipe

Eavor-Loopでは地下に掘った穴にパイプを敷設するのではなく、この穴に直接流体を通す方式を採用した。Eavorではこれを「Rock-Pipe」と呼ぶ。

この方式では流体が流路の外に浸透して漏れてしまうのではないかとの懸念があるが、EavorではRock-Pipeからの流体の漏れを防ぐ仕組みを開発した。これには2種類の流体の化学反応を利用する。

まず、流体AをRock-Pipeに流すと一部は外部に漏れてしまう。その後、流体BをRock-Pipeに流すのだが、流体Aと流体Bは化学反応によって固化し、Rock-Pipeの壁面をコーティングして流体の漏出を防ぐのだという。ここで、利用される流体A、流体Bはどちらも環境負荷の小さな化学物質だ。

コーヒーフィルターを用いてRock-Pipeを解説する動画

また、Rock-Pipeを形成するためには高温の岩石を掘り進めなければならず、高温でも故障しないドリルが必要となる。

Eavorはドリルが高温に耐えられるように改良するのではなく、「断熱」と「冷却」によって既存のドリルでも故障しない採掘技術を確立した。この技術はInsulated Drill Pipe(IDP)と呼ばれ、部品コストを節約し、工事の信頼性を高めることに寄与している。

デモ施設の稼働状況|カナダとメキシコで実証

Eavor-Loopのテスト用プロトタイプ施設であるEavor-Liteはカナダのアルバータ州ロッキーマウンテンハウスにて、2019年8月に起工。同年9月には掘削が完了した。

Eavor-Lite(Eavorメディアキットより)

本施設はEavor-Loopの核となる閉ループ、サーモサイフォン、Rock-Pipeなどの効果を検証するためのものだ。実証のため最低限のコストで作られたが、掘削井の最深部は地下2.4kmにもなる。

Eavor-Liteを使った実証実験報告によれば、稼働開始後、700時間ほどは流体の循環にポンプが必要だったが、その後はポンプ無しにサーモサイフォンによって流体の循環を実現できた。Eavor-Liteは480立方メートル/日の流体を循環させるが、ここで漏出している流体は0.4立方メートル/日となり、Rock-Pipeによって99.9%以上のシーリングを達成している。

また、2022年には米ニューメキシコでEavor-Deep実証試験が開始された。こちらはEavorの掘削技術が、どの程度の高温に耐え、どこまで深く掘削できるのかを調べるためのものだ。2023年1月に完了報告がなされたが、これによれば垂直深度1万8000フィート(約5km)、温度250℃での掘削に成功している。

Eavor-Deep(Eavorメディアキットより)

本格的な事業化に向けて

Eavor-Deepに至るまでの成功によって、Eavorは商業用の発電施設の建設に踏み切った。

Eavor-Loop Geretsriedがドイツ、バイエルン州ゲーレッツリードで2022年10月に起工。2024年内の完成を目指す。完成時には出力8.2メガワットの電力を供給するのみならず、余剰の熱は暖房などへ利用する。暖房への熱利用によって、寒冷地でのEavor-Loopは発電量以上のCO2排出抑制効果が期待される。

ゲーレッツリードの発電所には、ドイツのショルツ首相も訪問(Eavorメディアキットより)

本事業に対しては、European Investment Bank(EIB、欧州投資銀行)、ING Bank、邦銀の国際協力銀行(JBIC)、みずほ銀行などから計€131m(約213億円)の融資を受けた。この他、日本の鹿島建設や中部電力もEavorに出資。中部電力は人員も派遣し、Eavor本社の取締役に就任している。

まとめ|日本国内でも事業化目指す

Eavorは2020年、日本法人も設立している。Eavor JapanのJames Heatherington取締役は日本貿易振興機構(JETRO)のインタビューに、Eavorにとって温泉法が障壁となっていると主張した。

前述のように、地熱発電は温泉を事業としている人々にとって警戒してしまう発電方法だ。この点では、Eavor自身が閉ループでの発電となることを丁寧に説明していく必要があるだろう。



参考文献:
※1:Eavor Technologies(リンク
※2:Technology, Eavor Technologies(リンク
※3:地熱発電に関する諸問題(6項目)の整理(暫定版), 福島県(リンク
※4:New Twist On Geothermal With Roots In Canadian Oilpatch Set To Spread Worldwide Part 2 – The Technology, Maurice Smith, 『Daily Oil Bulletin』の記事がEavorオフィシャルサイトに転載されたもの(リンク
※5:Alex Vetsak featured in SPE International livestream to discuss insulated drill pipe technology, Eavor Technologies(リンク

※6:Eavor-Lite, Eavor Technologies(リンク
※7:Eavor-Lite™ Drilling Phase Successfully Completed, Eavor Technologies(リンク
※8:Eavor-Lite™ Update After Four Years Of Operation, Eavor Technologies(リンク
※9:Eavor-Deep, Eavor Technologies(リンク
※10:Groundbreaking ceremony for the drilling site of the Eavor-Loop™ project in Geretsried, Eavor Technologies(リンク
※11:Der deutsche Bundeskanzler wünscht sich, dass die Eavor-Loop™-Technologie in Deutschland in „erheblichem Umfang“ erfolgreich sein soll, Eavor GmbH(リンク
※12:ドイツ連邦共和国法人Eavor Erdwärme Geretsried GmbHが実施する地熱発電及び地域熱供給事業に対するプロジェクトファイナンス(リンク
※13:地熱発電事業のゲームチェンジャーと成り得るカナダのスタートアップ企業に出資, 鹿島建設(リンク
※14:カナダの地熱技術開発企業Eavor Technologies Inc.に中部電力株式会社が出資, JETRO(リンク
※15:地下深くの熱エネルギー利用を可能にするEavorの技術, JETRO(リンク


 

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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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