2020年6月、メンタルヘルス領域でデジタル治療ソリューションを提供するBig Healthは、シリーズBで39m$を調達したことを発表した。欧州のヘルスケア専門のファンドであるGilde Healthcareが主導し、共同リードのMorningside Ventures、既存投資家のKaiser Permanente Ventures、Octopus Ventures、Samsung NEXTもシリーズBに参画している。

 Big Healthはこの資金を使用して、新製品開発への投資、流通チャネルの拡大、および商品化活動の拡大を行う模様。

 アプリのみでメンタルヘルスに悩む人に対して効果のある治療を提供できる画期的なアプリである。本記事では、同社の概要やアプリについて解説する。

メンタルヘルスのデジタル治療を提供するBig Health社とは?

 Big Healthは2010年にカリフォルニア州サンフランシスコで設立されたベンチャー企業。メンタルヘルス向けのデジタル治療アプリを開発・提供している。アプリは2つあり、1つ目は睡眠不足・睡眠困難な人向けのデジタル睡眠改善プログラムSleepio。2つ目は不安・心配を抱える(うつ傾向のある)人向けの不安・心配を和らげるデジタルアプリdaylightである。

 同社のアプローチは認知行動療法に基づいている。認知行動療法とは心理的・精神療法の1種で欧米では有効な手法として広く使われるようになってきている。同社によると、睡眠不足が数週間、数か月、さらには数年続いていても、より早く眠り、夜通し眠り、日中は気分が良くなることが臨床的に証明されているという。(あくまで同社の主張であり、実際には個人差があると想定される)

なお、認知行動療法とは以下のように説明されている。

認知療法・認知行動療法とは、人間の気分や行動が認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)の影響を受けることから認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした構造化された精神療法です。

引用 – 厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル」

 同社のアプリを通した睡眠改善プログラムは、6週間のプログラムとなっている。アプリ上でのバーチャルな睡眠専門家である「教授」がパーソナライズされたテクニックをユーザーと会話する週数回のセッションで構成される。各セッションは1回あたり約20分である。

同社公開のYoutubeへの直接リンク Prof Colin Espie(Director of the Sleep Centre at the University of Glasgow and co-founder of Sleepio)

 セッションの合間に、ユーザーは日々簡単なオンライン睡眠日誌を完成させて進行状況を追跡することになる。またはウェアラブルデバイスなどのデータと連携して、自動でデータをアプリに取り込むことも可能であるようだ。

 コース全体を通して、ユーザーのコミュニティへの参加により知識を得たり、10種類のオンラインツール(リラクゼーションオーディオ等)、100を超える専門家の記事のライブラリによって、ユーザーが気づきを得て、睡眠改善していく。

 驚くことに、同社のデジタル治療の結果は、30もの査読付き論文でこれまで発表されており、臨床試験を通じて効果が検証されている。同社によると、長期で睡眠に悩んでいるユーザーの76%は同社のデジタル治療を通じて改善するという。


ー 技術アナリストの目 ー 同社の臨床的睡眠知見に基づいた治療のデジタル化というのは、本質をついており、これまでアナログで人を介して行われていたことをDX化したということで、大変有望である。DX化した時に本当にこれまで人がやっていたように効果が出るのか、という点が難しいところだが、同社はそれをすでに乗り越えて拡大期に入っている。今後はさらに注目を浴びるようになるだろう。多くのウェアラブルデバイスがソリューションまで踏み込めずにいるが、同社はソリューションから入っており、こうした企業とウェアラブルテクノロジーが将来結び付いてくるとイノベーションが生まれるのだろう。