ウェアラブルやIoTデバイスが進化して、簡易なハードはコモディティしつつある中、人だけでなくペットを対象にした「ペットテクノロジー」の市場が一部で注目されている。

このペットテックは、これまでになかった新興市場だ。Global Market Insightによると、世界におけるペットテック市場は2018年に45億$を超え、2025年には200億$になるという(参考)。また、矢野経済研究所のレポートでは、日本で2018年で7.5億円だった市場規模は2023年に50億円を超えるという。現時点での規模は大きくないが、成長余地のあるブルーオーシャン市場とも言えるだろう。

CES2021でペットテックはどうなったか?

昨年のCES2020では様々なブースでペットテックの企業を見かけることができた。実に10社では留まらない企業がペットに関する製品を展示していた。

今年は残念ながら筆者が探したところでは数社に留まり、昨年展示していた興味深いスタートアップも今年は展示をしていなかったりと、まだこのペットテックが市場として確立していないことを感じさせた。

全体的にはそこまで新しいニュースは無かったように思う。この市場は基本的にはGPSと加速度計が組み込まれた首輪型のIoTデバイスで、ペットの追跡や健康状態の把握を行うものが主流となっている。一部、感情認識のような少し変わった機能に取り組む企業が出てきている状況だ。

いくつかの企業は展示をしていたので、ここで紹介したい。

Petplus:犬の感情認識・睡眠トラッカー

Petplusは2017年に韓国ソウルで設立されたベンチャー企業だ。犬の首輪型デバイスを開発しており、犬の感情認識や睡眠をモニタリングすることができるという。

独自に構築した犬の吠え声の音声データを用いてAIで照合し、感情状態(幸せ、リラックス、怒り、不安、悲しみ)を認識することができるという。この独自の犬の声のデータベースは、50種類の犬のデータをカバーし、10,000件もの吠え方のサンプルデータで構成されている。
注)なお、ソウル国立大学の研究によるとこの感情認識は80%程度の精度で犬の感情を認識することができるという

画像クレジット:Petplus(出展ブースより)

なお、AIで解析した結果は専用のアプリで見ることができるという。

同社は2019年から米国市場に進出し、現在は韓国と米国で事業を展開しようとしている。

Wagz:犬向けのスマート首輪でペットの健康や位置を把握

2015年に米国で設立されたベンチャー企業である。ペット犬向けのスマートIoT首輪により、ペット位置把握(GPS)や、ペットの健康状態をモニタリングすることができる。

画像クレジット:Wagz(出展ブースより)

GPSと内臓された各種センサーによってセンシングを行うが、1つの特徴はリアルタイムジオフェンスという、アプリ上での仮想的なフェンスにより犬がフェンスを出ないように制御することである。また、アプリ上で犬の立ち入り禁止区域も設定することができる。近日公開の機能としては、見えないバーチャルな鎖も想定しているという。

GPSにより犬の位置を同定し、アプリで指定された仮想フェンスに近づくと首輪から超音波を発し、フェンスに近づかないようにすることができる。これを応用して、立ち入り禁止区域を設定したりするようだ。また、超音波によって犬の吠えも適切に抑制することができるという。

このデバイスは健康状態も把握することができる。ペットの毎日の歩数、運動状態(カロリー)、睡眠についてデータを取得し、スコアとして提示する。ペットの体温も測定することができ、高温や低温状態になっていて、休憩する必要があるときにアラートを出すことができる。

WagzはCES2018から毎年ブース出展を行っており、今年もデジタルブースで出展していた。今年は昨年に比べて製品的には大きな変化は見られないが、その実用性から期待できるペットテックの1社だ。

Petcube:ペット監視システム・おやつディスペンサー

まだシードステージやアーリーステージのベンチャー企業が多い中にあって、比較的資金調達が進んでいるのがPetcubeだ。米国サンフランシスコで2012年に設立された同社は、2017年にシリーズAで10m$の資金調達を実施しており、Crunchbaseによると2020年にも資金調達を行っているようである。

画像クレジット:Petcube(出展ブースより)

Petcubeが開発したデバイスは、非常に洗練されており、完成度が高い。ペット用のスマートフォンとも表現する同社のデバイスは、ペットモニタリング用のHDカメラを搭載した3種類のデバイスが販売されている。

カメラにより部屋とペットの様子がモニタリングされ、動画として記録が残る。備え付けられた音声認識機能により吠え声や鳴き声を解析し、危険なイベントについての重要なアラートをアプリで飛ばすこともできる。また、アプリ上ではライセンスを受けた獣医と直接つながることができ、ペットの健康や行動、栄養についてチャットで質問などのやり取りをすることも可能だ。

Link:着けやすいスマートIoT首輪

GPSと3軸加速度計を埋め込んだスマートIoT首輪を展開している。デバイスが小型で付けやすく、装着負担が少なそうな設計となっている。

犬の位置をリアルタイムで監視することができ、犬が指定されたゾーンを離れると警告を発することができる。また現在、特許出願中のAIアルゴリズムを活用し、加速度計のデータを解析して、犬が毎日十分な活動時間を確保できているか評価を行い、犬の年齢、犬種または雑種、行動、サイズに基づいた活動レベルのレコメンドを行う。

画像クレジット:Link(出展ブースより)

2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


ー 技術アナリストの目 -
近年、新興市場として注目されるペット市場であるが、技術・製品を見る限りはまだニッチな市場に留まる。GPSと加速度計を使ったモニタリングだけではやや付加価値に欠け、ユーザーの明確なペインに刺すことができないためだ。今後のR&Dテーマとして興味深いのは、デジタルヘルスケア領域で現在起こっているように、生体データを活用してよりペットの健康側に踏み込んで価値を出すことは1つあるだろう。例えば、犬・猫で保険金請求が多い傷病は皮膚炎、下痢、胃腸炎などであるようだ。犬の場合は腫瘍ができてしまうと飼い主もかなり大変であろう。こうした具体的なペインに注目したソリューションが開発されることを待ちたい。