ライトフィールドとは空間中を直進する光を記述するための概念だ。2次元画像データでは失われてしまう光の進行方向を記録でき、これを応用することで、撮影後に焦点距離を変えられるカメラや、裸眼で立体視が可能なディスプレイなどが実現した。近年ではVRへの応用も検討されており、将来的には光学デバイスの形を大きく変える可能性を秘めている。

本稿ではライトフィールドという考え方とその用途を紹介する。

ライトフィールドとは?光源位置・光の方向を表現

ライトフィールドとは空間中の光線を扱う概念を指す。ただし、現実の光を厳密に記述するためのものではない。カメラやディスプレイといった光学素子への応用を志向し、光を情報化して取り扱う。

光はある帯域の電磁波の呼称であり、回折、屈折、散乱など、波に特有の挙動をしながら空間中を進む。こうした挙動は電磁波を扱うマクスウェル方程式によって記述できるが、4つの連立偏微分方程式を逐次解くことは計算コスト的に難しい。

対して、ディスプレイに景観を描画するだけならば、光の複雑な挙動を無視し、ほとんど減衰せずに直進する光が点光源から特定の方向に射出されていると考えて差し支えない。光の波動的な性質に目をつむり、点光源の位置(3次元)と光線の向き(2次元)、計5次元のデータによって空間中の光を簡略化して表現できる。このような光の表現がライトフィールドの基本的な考え方となる。

ライトフィールドの応用|カメラやディスプレイ

では、ライトフィールドを使うと何ができるのか? ここからは、ライトフィールドによって光を記述することのメリットを紹介する。

ライトフィールドカメラ

ライトフィールドデータの中には、3次元空間中を走行する光の情報が含まれている。この情報を用いれば、ポストプロセスとして撮影した画像の焦点距離を変えることが可能だ。

これは既に存在する普通の写真を使い、事後的に焦点距離を変えられるということではない。ライトフィールドデータを取得する専用装置であるライトフィールドカメラを用いて撮影した画像データに限った話である。

一般消費者向けライトフィールドカメラは、Lytroより2012年から販売が開始された。しかし現在、消費者向け市場から撤退している。

Lytroのデータは、手前にフォーカス(左)、奥にフォーカス(右)などの操作を撮影後にもカメラで可能だった(Lytroプレスリリースより)

ライトフィールドディスプレイ

ライトフィールドカメラで得られたデータを逆向きに出力する装置がライトフィールドディスプレイだ。ライトフィールドディスプレイは従来のディスプレイと異なり、光の強度、波長だけでなく、光の出力方向を制御することができ、裸眼での立体視が可能となる。

Sony製ライトフィールドディスプレイは見る角度によって映像が変化する。これは3Dメガネを用いた立体映像や、3Dホログラフィー*にない特徴だ。アイトラッキングを用いて目の位置を追跡し、右目と左目それぞれに異なる光を照射することで立体像を作り出している。

*3Dホログラフィーは、光の波長、振幅だけでなく、位相も再現する映像出力方式。コヒーレント光(レーザーなど)を照射して記録データを再生すると、奥行のある立体像を結ぶ。ただし、記録方式の関係上、映像が立体的に見える角度が狭い。

ライトフィールドステレオスコープVRヘッドセット

スタンフォード大学は2015年にライトフィールド技術を導入したステレオスコープVRヘッドセットのプロトタイプを発表した。

従来のステレオスコープでも、右目と左目には異なる光が照射されるため映像は立体的に見える。ただし、焦点は常に1つの距離にしか合わせられない(または画面全体に焦点が合っている)ため、現実世界と異なる映像に視神経系が対応できず、VR酔いが起きることが問題となっていた。

ここにライトフィールド技術を導入すると、VRヘッドセットを使っていても目の焦点を合わせたい場所に合わせることができ、より自然なVR映像を出力できる。結果として、VR酔いの軽減が期待されるが、こちらは未だ開発段階だ。

ライトフィールドデータのつくり方

ライトフィールドカメラやライトフィールドディスプレイの原理に関しては本稿の趣旨とは外れるが、補足として簡単に紹介する。

ライトフィールドデータをつくるにあたっては、3DCGのように現実空間に依拠せずデータを作成する場合と、現実世界からデータを取得する場合がある。現実世界からデータを取得する装置がまさにライトフィールドカメラであり、ライトフィールドカメラと入出力が逆向きの操作を行う装置がライトフィールドディスプレイだ。

ライトフィールドカメラとの比較のため、従来から存在した光の表現方式である「写真」について考えたい。

写真とはレンズを通過した外界の光が2次元平面上に作る光の強度分布を表示したもの、またはそうした技術を指す。写真ではカメラのレンズに入射した光がどの方向からやってきたか、という情報は失われる。

対して、ライトフィールドカメラは、どの光がどの方向からやってきたかという情報を保持する。両者の大きな違いはこの点だ。

光の方向という情報を取得するにあたっては、マイクロレンズアレイという構成要素が重要な役割を果たす。マイクロレンズアレイはその名の通り、多数の微小レンズが規則的に並んだ板だ。

マイクロレンズアレイはレンズと光センサーの間に設置されている。レンズを通過した光の向きに従って光を振り分け、特定のセンサーへと光を導く役割を持つ受動的な素子だ。

レンズの焦点が決まっていれば、特定のマイクロレンズを通過し、その後特定のセンサーに入射する光の道筋はたった1つに絞られる。よって、どの方向から光がレンズに入射したのかが判別できるという仕組みだ。

ライトフィールドカメラは光の方向を記録するために、複数の光センサーを利用している。例えば、1つのマイクロレンズに10個の光センサーが対応している場合には、撮影データの空間解像度自体はセンサー数が同じ通常カメラの1/10になる。この点は明確なデメリットだ。

ライトフィールドカメラの光センサーを発光素子に置き換えたものがライトフィールドディスプレイだ。特定の発光素子を点灯させると、マイクロレンズを経ることによって光が方向を得る。

ライトフィールドディスプレイに関してはマイクロレンズを用いず、複数枚の透過型液晶パネルによって強めたい方向の光を強め、方向を得る方式もある。先述のスタンフォード大学のVRヘッドセットに用いられているのはこちらの方式だ。

まとめ|ライトフィールドの今後は?

Lytroの一般消費者向けライトフィールドカメラは撤退という結果に終わっており、少なくとも家電市場としては空間的な画像・映像・データを利用するというニーズはまだ少ないと考えられる。

一方で複数のリサーチ会社がライトフィールド市場の拡大を予測しているのも事実だ。コンピューターやさまざまなマシンのインターフェースが変化していくことにより、ライトフィールドが活用できる先が生まれる可能性もある。


参考文献:
※1:「事後ピント合わせ」のLytro、新しいけどもう古い?, GIZMODO(リンク
※2:グーグル、事業終了を発表したLytroの一部従業員を雇用へ, CNET JAPAN(リンク
※3:スタンフォード大、より没入感が高く酔いの少ないVRヘッドセットを発表。SIGGRAPH 2015にて展示, Mogura VR(リンク
※4:ライトフィールドカメラ&ディスプレイ, 小池崇文(リンク
※5:Light Field Market Size, Share, Competitive Landscape and Trend Analysis Report by Technology, by Industry Vertical : Global Opportunity Analysis and Industry Forecast, 2022-2031, Allied Market Research(リンク
※6:Global Light Field Market Overview, MARKET RESEARCH FUTURE(リンク


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