投資先とその技術から見る注目の国内CVC|建設・エンジニアリング・材料などのCVC編
国内のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を取り上げる企画の2回目は、建設をはじめさまざまな製造業を母体としている企業を紹介。ディープテックへの投資が目立っているので、ぜひご覧いただきたい。
戸田建設|2024年から活動第2期へ
ゼネコンの戸田建設は、社内の「イノベーション推進統括部」がCVC機能を有する。2018年から投資活動を開始し、2024年からは活動第2期に突入。第2期では、今後3年間で30億円の投資枠を設定している。
投資先の沖縄発スタートアップであるWaquaは、小型の海水淡水化装置を開発。護岸工事など水の確保が難しい建設現場での利用をも想定したものだ。to Cでは、浄水器も販売している。
イネーブラーは「時空情報サービス」という事業を展開。衛星測位技術と通信技術を掛け合わせ、時間や位置に関する高精度のサービスを提供する。具体的には自動運転の支援や工場内のロボットの時刻を同期するといった用途があるという。
海外の投資先には、カナダのMechasysがある。建設現場の床、天井、壁に原寸大の図面をレーザーで映し出すことで、内装工事の効率化を図る。戸田建設のほか、東急建設も出資している。
日揮みらいファンド|エネルギーのほか医療関係の投資先も
エンジニアリング会社の日揮は、投資事業有限責任組合(LP、LPS)によるCVC投資を展開。「日揮みらいファンド」というブランド名称となっている。ベンチャーキャピタル(VC)のグローバル・ブレインがゼネラルパートナーとして協業する。
2024年7月には、京大発のスタートアップであるエネコートテクノロジーズに追加出資したことを発表した。エネコートはペロブスカイト太陽電池を開発する企業だ。
参考記事:ペロブスカイト構造太陽電池の技術動向
医療分野にも出資する。その一つであるツーセルは、人体にある間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell、MCS)を取り出し体外で培養した上で、体内に移植する再生医療の方法を開発する。 同じく医療関係で挙げられるのが、LIFESCAPES。脳卒中により動かすことが困難な手をサポートするブレインマシンインターフェース(BMI)を開発した。すでに、手指に装着するBMIを販売している。
日立製作所|日米欧3社でCVC活動を推進
日立製作所は、日本の本社、米ボストンとシリコンバレーに拠点を持つHitachi Ventures North America 、ドイツのHitachi Ventures の3社体制でCVCによる投資を進めている。
アグリテックに関する投資先が、ブラジルのTaranis。サトウキビや穀類の畑をドローン空撮し、分析したデータを提供する。Taranisによれば「葉レベル」の識別が可能だという。
inVia Roboticsは、倉庫の自動化ソリューションを提供。顧客には、「ソフトウェアのみの販売」「ロボットを導入し一部自動化」「完全に近い自動倉庫」といったさまざまな方法での自動化を提案している。
inVia Roboticsの企業紹介動画
英国で人工衛星によって二酸化炭素排出を第三者評価するBeZeroなど、環境関連の投資先も少なくない。
三井金属鉱業|材料、生産プロセスに関するディープテックへの投資目立つ
三井金属鉱業は2017年よりVCのSBIインベストメントと共同でLPファンドを設立。「Mitsui Kinzoku-SBI Material Innovation Fund」という名称だ。投資枠は50億円としている。
投資先のマイクロ波化学は、加熱対象より高温の熱源が不要なマイクロ波加熱を活用した事業を展開。大学発スタートアップの中では高い評価を得ているペプチドリームとのプロジェクトでは、ペプチド固相合成装置を開発した。
FLOSFIAは、ミストドライ法により薄膜を原子レベルから形成する技術を有する。これを活用し、酸化ガリウム(GaO)半導体によるパワーデバイスを開発中。すでに試作品の開発には成功している。
米国の投資先には、原子層堆積(Atomic Layer Deposition、ALD)プラットフォーム技術により表面加工やコーティングなどを行うForge Nanoがある。先のFLOSTIAのミストドライ法と同様、ALDも半導体製造に活用される技術となっている。
ヤンマーベンチャーズ|プラチナバイオ、Amogyなどに出資
ヤンマーホールディングスは2021年、CVCとしてヤンマーベンチャーズを設立した。ヤンマーベンチャーズがゼネラルパートナー、ヤンマーホールディングスがリミテッドパートナーとして、LPを組成している。
投資先のプラチナバイオは、広島大学教授であり同社取締役である山本卓氏が開発したゲノム編集技術「FirmCut Platinum TALEN」を核に立ち上がったスタートアップだ。ゲノム編集の他、バイオDX(バイオインフォマティクス)も事業とする。
Amogyはマサチューセッツ工科大学(MIT)の卒業生らによって設立された、アンモニアの燃料化を進めるスタートアップ。下記動画のように、アンモニアを燃料としたトラクターを動かす実験に成功している。
Amogyの実験動画
インテグリカルチャーは、大規模細胞培養システム「CulNet System」を開発。培養肉の他、化粧品など多様な分野での活用を狙う。
メーカーがCVCを立ち上げる意義
製造業大手は、独自のノウハウや充実した設備を持つ。投資を受けるスタートアップにとっては、資金以外のメリットも大きい。
よって、CVCの母体企業に近しい業種のスタートアップも見られるが、今回取り上げた戸田建設が出資するイネーブラーのように、必ずしも関連する投資先ばかりとは限らない。社会課題解決によって得られる利益や間接的なシナジーが見込めれば、CVCにとっては投資する価値が大いにあるためだ。
参考文献:
※1:スタートアップ企業への投資活動について, 戸田建設(リンク)
※2:日揮みらいファンド(リンク)
※3:Hitachi Ventures(リンク)
※4:CVCへの取り組み, 三井金属鉱業(リンク)
※5:ヤンマーベンチャーズ(リンク)
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