背景

リチウムイオン電池は現在、EV(車載)やモバイル向け、エネルギー貯蔵用途等、広範囲で今後利用が拡がることが期待されており、更なる技術革新が求められている。

現在車載向けではエネルギー密度がおおよそ200~250Wh/kg程度の高容量のバッテリーが使われているが、今後、シリコン負極やハイニッケル正極により300Wh/kg台の電池も実用化することが期待されている。さらに中期的には400Wh/kg台の、リチウム金属等を使った次世代リチウムイオン電池の研究開発も進んでいる。

ロングリストに含まれる技術群

このロングリストには以下のベンチャー企業が含まれている。

電池メーカー

  • リチウムイオン電池
  • リチウム金属電池(液系電解質)
  • リチウム空気電池
  • リチウム硫黄電池
  • (グラフェン電池)
  • (ナトリウムイオン電池)

電池部材メーカー

  • 3D電極、導電性ナノポリマー電極など
  • 負極向けシリコン – グラフェン複合材
  • シリコン負極材(シリコンナノワイヤーなど)
  • 独自セパレーター
  • 不燃性電解液

調査概要

当社のこれまでの調査で、現在、約150社程度の先進的な技術を持つ電池・部材ベンチャー企業をロングリスト化してその動向をモニタリングしている。中でも先進リチウムイオン電池・部材ベンチャーは100社前後存在している。

なお、この100社前後のロングリストには固体電池のみを開発しているメーカー(リチウムポリマー電池、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質等)は含まれておらず、液系の電解質を活用した電池を対象としている。

注1)固体電池を対象としたケーススタディは別のページで記載予定
注2)液系も固体も両方の電解質を手掛けている場合は、上記の100社に含まれている
注3) パッケージやシステムのみで電池セル周辺で技術開発要素を持たないLIB関連企業は除外している

累積資金調達額TOP10

以下が先進リチウムイオン電池・部材ベンチャーの累積資金調達額TOP10となっている。中でもNorthvoltとCATLは非常に資金調達額が大きく、2,000m$(2,000億円以上)を大きく超えている。おおよそ100億円超の資金を調達している企業がTOP10に名を連ねている。

企業DB及び各社リリースより独自に調査・作成

注1) なお、Northvoltより事業展開が進むCATLの方が累積の資金調達額が大きい可能性はあるが、CATLは過去の資金調達額について明かしていないケースも想定され、複数のデータベースを確認したが不明な部分が多い。それでも累積資金調達額は2,000m$は超えている状況。
注2) ①~⑩の番号は累積資金調達金額が大きい順に並んでいる。
注3) 資金調達額は全てが公開されているわけではなく、必ずしも厳密な数字ではない点は注意

主要ベンチャー企業の概要

(1) Northvolt(スウェーデン)

  • 設立年       :2016年
  • 国         :スウェーデン
  • 資金調達フェーズ  :レイターステージ(シリーズB以上)
  • 最新資金調達日   :2021年6月
  • 最新資金調達額   :2,750m$(Venture Round)
  • 累積資金調達額   :6,000m$以上
  • 事業内容      :リチウムイオン電池の開発・生産・販売
  • URL        :https://northvolt.com/

自動車分野でBMWとフォルクスワーゲン、大型トラックのスカニア、エネルギー貯蔵分野ではグリッドストレージのFluenceなどの主要顧客から270億ドル(約2.9兆円)相当の契約を締結している。なお、中でもフォルクスワーゲンとは関係が深く、2021年3月に140億ドル(約1.5兆円)相当の受注について発表していた。

参考:Northvoltがセル生産とR&D強化への投資のために約3,000億円の私募を発表

なお、直近はリチウムイオン電池のギガファクトリーを欧州で建設する一方で、中期的にはリチウム金属電池の実用化に取り組んでおり、リチウム金属電池ベンチャーのCubergを買収している。

参考:Northvoltがスタンフォード大学発のリチウム金属電池ベンチャーCubergを買収

(2) CATL(中国)

  • 設立年       :2011年
  • 国         :中国
  • 資金調達フェーズ  :Post IPO Equity
  • 最新資金調達日   :2020年7月
  • 最新資金調達額   :2,817m$以上(Post IPO Equity)
  • 累積資金調達額   :N.A.
  • 事業内容      :リチウムイオン電池の開発・生産・販売
  • URL        :https://www.catl.com/

リチウムイオン電池の世界シェアトップ企業。日本のTDKが買収した香港の電池メーカー、Amperex Technology Limited(ATL)から車載部門が独立して2011年に創業した。様々なOEMと提携してリチウムイオン電池及び次世代バッテリーの共同開発を行っており、セルトゥシャシー・セルトゥパックのように先進的な構造を発表したり、先日ナトリウムイオン電池の発売を発表するなど、業界を牽引する。また、同社の発表によると全固体電池についても開発を行っているが、サンプルは製作できても実用化には時間がかかることも明らかにしている。

(補足)同社は過去の資金調達についてデータを明らかにしていないため、TOP2に位置しているが、実際には調達額はNorthvoltより大きい可能性はある。

参考:メルセデス・ベンツとCATLが将来の電池技術開発のために連携強化を発表

(3) Farasis Energy(中国)

  • 設立年       :2002年
  • 国         :中国
  • 資金調達フェーズ  :レイターステージ(シリーズC以上)
  • 最新資金調達日   :2020年5月
  • 最新資金調達額   :480m$(Corporate Round)
  • 累積資金調達額   :1,270m$
  • 事業内容      :リチウムイオン電池の開発・生産・販売
  • URL        :http://www.farasis.com/

元々は米国サンフランシスコで創業した電池ベンチャー企業。現在は、本社を中国に移し、CATLを猛追している。リチウムイオン電池の研究開発にも注力しており、同社CEOが電池の国際会議で講演した内容によると、現在量産しているものは最大285Wh/kgのソフトパック、そして量産に近い電池では約330Wh/kgということが明らかにされており、研究開発の方向性としては、ハイニッケル正極とシリコン負極にカーボンナノチューブなどの導電性向上のための添加材を添加したものを開発している。

参考:Farasis Energyが国際会議で語った電池開発動向

(4) Sila Nanotechnologies(米国)

  • 設立年       :2011年
  • 国         :米国
  • 資金調達フェーズ  :レイターステージ(シリーズF)
  • 最新資金調達日   :2021年1月
  • 最新資金調達額   :590m$(シリーズF)
  • 累積資金調達額   :875m$
  • 事業内容      :シリコン負極の開発・製造・販売
  • URL        :http://www.silanano.com

2011年創業のLIB向け負極材を開発製造するベンチャー企業。創業者は元テスラの開発者で、テスラ在籍時にLIBの課題が大きいこととそのポテンシャルに目をつけ、ジョージア工科大学の材料科学教授と創業。

グラファイトを完全に置き換え、セルレベルで大幅に高いエネルギー密度を提供し、膨張を抑えることができるシリコンアノードを開発。シリコンを剛性のあるシェルで覆うコアシェル型構造にして、シリコンのリチウムイオン着脱による体積膨張の影響を抑えている。また、電解質塩にも特徴があり、熱的に安定でシリコン表面をエッチングして劣化要因の1つとなってしまうフッ化水素酸が発生しないよう工夫がされている。

参考:リチウムイオン電池向を大きく改善する可能性を秘めたシリコン負極材を開発するSILA Nanotechnologies

(5) Romeo Power(米国)

  • 設立年       :2015年
  • 国         :米国
  • 資金調達フェーズ  :Post IPO Equity
  • 最新資金調達日   :2020年12月
  • 最新資金調達額   :394m$(Post IPO Equity)
  • 累積資金調達額   :516m$
  • 事業内容      :熱管理システム機能搭載の独自リチウムイオン電池を開発
  • URL        :https://romeopower.com/

米国カリフォルニア州で設立された電池ベンチャー企業。セルの材料構成等でのアプローチではなく、熱管理システムに特徴がある。同社が開発したインテリジェントバッテリー管理システム(BMS)により、独自のアルゴリズムでアプリケーションに応じた最適な充放電サイクルに調整する。また、アクティブな液体冷却機構を持ち、セルは常に理想的な動作温度にキープ。結果として、市場で使われているLIBと比較して、最大30%程度エネルギー密度が高いという。

 


上記の先進リチウムイオン電池関連ベンチャーのロングリストや、技術動向調査に興味がある方は、お問合せよりご相談ください。(オンライン面談でのロングリストサンプルの閲覧も可能です)

ベンチャー企業だけでなく、大学研究機関も含めた調査や、特許・論文調査も含めた技術動向調査が可能です。