今回はLiDAR開発の有力企業6社をピックアップし、前半では、Luminer Technologies、Aeva、Aeyeの動向について解説した。

記事:車載LiDARメーカーのアップデート2022(Luminar・Aeva・AEye編)

ここでは残る3社として、自動車用途・産業用途等として独自技術でLiDAR開発を行っているCepton、Ouster、Quanergyの動向について解説する。

Cepton:ADAS LiDARで大規模な市場投入を目指す

ADASおよび自動運転社向けのLiDARを開発するCeptonは、ADAS用LIDARシリーズの量産プログラムに積極的に取り組んでおり、今後の市場投入に大きな前進を見せた企業の1つである。

小糸製作所との連携強化でLiDAR開発を加速

CeptonのLiDAR開発を語る上で欠かせないのが、同社の株主でもある小糸製作所の存在である。両社は、2017年に自動車供給パートナーシップを結び、前述のLiDARの量産プログラムを共同で実施するなど、徐々にその関係性を強めてきている。

両社の協業は、当初OEMの量産プログラムを対象としたものであったが、2022年に入りさらに関係を強化している。2022年6月には、協業範囲を拡大し、将来的に投入するCeptonの長距離および近距離LIDAR製品の開発にも及び、日本の自動車メーカーをターゲットにした一部の自動車顧客との共同での市場投入に向けた活動でも協力する契約を締結する予定としている。

資金面でも関係をより深化させている。Ceptonは、2022年8月、小糸製作所から最大1億ドルの投資を受けたことを発表している。小糸による今回の投資は、2020年以降で3回目の投資であり、CeptonのLIDARソリューションの大量展開が着実に進んでいる証ともみてとれる。

Ceptonは小糸製作所に対して非独占的なライセンスを提供し、小糸がCeptonの主要部品と技術を使用しながらMMT(マイクロモーションテクノロジー)ベースのLiDAR「Vista-X90」の製造を行う。

Vista-X90は、2020年に発表された車載グレードのLiDARであり、コンパクトなサイズと低消費電力が特徴である。

小糸製作所との協業により生産されるLiDARは、すでにGMから受注を受けており、2023年から量産車への展開が見込まれている。今後も小糸との関係強化により、さらなる増産および市場への投入が期待される。

LiDARのレーザーにはams OSRAM製を採用

Ceptonは、2022年1 月、ams OSRAM(以下、OSRAM)の905nmレーザーを選定し、ADASおよび自動運転車におけるLiDARソリューションの大規模契約を行ったことを発表した。

OSRAMは、端面発光レーザー(EEL)と垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)などを提供し、905nmの端面発光レーザーを初めて市場に投入したレーザー企業である。

OSRAMの905nmの波長でのアイセーフ操作が可能なレーザーを組み合わせることで、低価格でありながら、性能、信頼性のバランスのとれたMMT画像プラットフォームを提供することができるという。

OSRAMレーザーは前述した2023年向けLiDARに搭載される予定であり、Ceptonの今後製品において欠かせない技術要素となりそうである。

NVIDIA DRIVE Simの活用で開発をさらに加速

Ceptonは、ユーザーによるLiDARテストのための環境整備にも取り掛かっている。

同社は、2022年9月、LiDARモデルをシミュレーションプラットフォームである「NVIDIA DRIVE Sim」に追加することを発表した。

NVIDIA DRIVE Simとの連携により、車両やセンサー、交通モデルのライブラリが充実し、正確なLiDARテストと検証が可能となる。

ユーザーは、仮想設定でCeptonのLiDARモデルを簡単に操作することができる。例えば、さまざまなセンサー統合オプションでのプロトタイプの作成や、さまざまな環境でLiDARスキャンパターンの資格化が可能である。さらに、フレームレート、視野、関心範囲などの調整可能な設定でセンサー構成を最適化することができる。

前編で触れたAEyeも同プラットフォームの活用を発表しており、シミュレーションプラットフォームを用いた開発も激化しそうである。

今後の動向について

Ceptonは、現状ADAS用LiDARの実用化に注力をしており、2022年は、複数のOEM車両製造工場に向けた最終納入のためのDサンプル出荷を継続的に増加させている。

小糸糸製作所のような製造パートナーとの協力の下で、2023年以降はLiDARの大規模な市場投入を行っていくものとみられる。

Ouster:高性能ソリッドステートデジタルLiDARで2025年の実用化を目指す

Ousterは、自動車、産業、ロボットなど幅広い分野に向けたLiDARを開発しているが、自動車向けLiDARについては、2022年に入り、量産化への道筋が見えてきている。

DFシリーズのサンプル出荷で、量産への道筋を確保

Ousterが現在開発に注力するLiDARは、2021年に発表されたDF(デジタルフラッシュ)シリーズと称する、ソリッドステート式のデジタルLiDARプラットフォームである。

DFシリーズは、短距離、中距離、長距離に対応し、視野全体にわたりモーションブラーなしで均一な精密イメージングを実現できるという特徴を持つ。

DFシリーズは、ADASや自動運転車両を開発するメーカーの要件を満たすと同時に、車両のアーキテクチャと設計にシームレスに統合されるように設計されており、今後の量産車向けLiDARの主力と位置付けられる。

2022年4月には、DFシリーズのAサンプルの製造・出荷を発表しており、同社は、グローバルな自動車OEMとの戦略的開発契約における大きなマイルストーンを達成したと述べている。

サンプル提供はさらに拡大し、同社によれば、2022年内に30社以上の自動車OEM、ティア1、自動運転企業に提供するとしている。

同社は、DFシリーズの量産化について、2025年に生産が開始される量産車をターゲットしており、サンプル出荷の動きはこれに向けた大きな実績と言えるだろう。

高性能LiDARレシーバー「Chronosチップ」を発表

同社は、DFシリーズの高性能化にも力を入れている。

同社は、2022年3月、DFシリーズのLiDARスイートを駆動する、車載向けデジタルLiDARシリコンレシーバーである「Chronosチップ」を発表している。

ChronosチップはDFアーキテクチャの基礎となるもので、ISO 26262およびAEC-Q100に準拠したASIL-B自動車機能安全要件に適合するように設計されており、自動車用量産プログラム向けに提供される。

このシリコンレシーバーが採用されることにより、高性能、省電力、コンパクトなデジタルLiDARセンサーを実現し、自動運転レベルにおいてL2~L5の量産車に対応できるという。

同社は、Chronosチップを、前述の2025年量産車に搭載するLiDARに採用する予定であり、2022年後半には最終的な設計を完了させ、2023年に最初のサンプルユニットに組み込むことを計画している。

量産向けの産業用LiDARも発表

Ousterは、2022年9月、大量運搬アプリケーション向けに設計された3D産業用ライダーセンサスイートをリリースしたことを発表した。

今回発表された産業用LiDARは、超広角LiDARセンサーである「OS0」と中距離LiDARセンサーである「OS1」の2タイプである。いずれもフォークリフト、ポート機器、自律移動ロボット(AMR)メーカーの独自の要件を満たすように設計されており、大量生産フリートの現場でも採用できる価格に設定されている。

従来の2DタイプのLiDARセンサーと比較して、優れた解像度、範囲、視野を提供することができ、例えば、2D LIDAR センサーが見逃していた一般的な倉庫の障害物などを検出することができる。

Ousterの担当者は「今回の産業用センサースイートの3D機能は、システムコストや複雑さを増すことなく、優れた解像度などを提供でき、従来の2DLiDARを凌駕するもの」と述べており、従来型のセンサーからの置き換えを促すことでシェア拡大を狙っていくものとみられる。

今後の動向について

自動運転用途から産業用途まで幅広くLiDARを展開する同社であるが、2022年は特に自動車向けのLiDAR量産化に向けた動きを活発化させている。

同社の2022年第二四半期の決算報告によると、現状における同社の収益は、倉庫・港湾の自動化や建設ロボット、ドローンなど産業・ロボット用途に支えられているが、DFシリーズLiDARの商用化に向けた大きな前進により、自動車用LiDARにおいてもシェア獲得に向けた動きが注目される。

Quanergy:2022年に上場、独自の光フェーズドアレイLiDARで実用化を目指す

Quanergyも、自動車、産業用、スマートシティ、セキュリティ用途など幅広い分野にLiDARを展開する企業の1つであり、近年も多岐にわたる動きをみせている。また、2022年に上場を果たし、更なる事業拡大が期待される企業の1つである。

OPAベースのソリッドステートLiDAR技術を大幅にアップデート

Quanergyの特徴ともいえるのが、同社が開発する光学フェーズドアレイ(OPA)技術に基づく電子ビームステアリングを搭載したCMOSソリッドステートLiDARである。

自動車用途として適用が想定されている「S3」シリーズは、2021年8月にデモ版が発表されて以降、技術的進化が目覚ましい。

発表当初は検出範囲が100mであったが、2022年1月には検出範囲が200mまで拡張され、さらに同年5月には検出範囲が250mに達したことを発表しており、発表からわずか1年余りで飛躍的な進化を遂げている。

同社の開発責任者は「今回の250m範囲テストの成功で、LiDARの新たなマイルストーンを打ち立てた」と述べており、車載用LiDARの製品化への道筋が立てられた格好だ。

同社は今後、製品化に向けて、より高い検知範囲とデータレート、空間カバレッジを実現するための技術革新を継続していくとしている。

VMSプラットフォームとの統合で、セキュリティソリューションを強化

QuanergyのLiDARが強みを発揮する分野として挙げられるのが、セキュリティソリューションへの適用である。

例えば2022年5月に発表されたAudio Technologyとの連携では、軍事施設への適用として、誤警報を抑えながら、リアルタイムの追跡と分類を提供する境界侵入検知を提供するセキュリティソリューションを提供している。

同社は、2022年4月に、オープンプラットフォームのビデオ管理システム(VMS)の大手サプライヤーMirasysが提供するVMSプラットフォームとLiDARとを技術統合することを発表した。

VMSは防犯カメラや監視カメラの映像を管理するシステムであるが、今回のシステム統合により、位置、方向、速度、オブジェクトの種類などのリアルタイムデータを使用してビジネスオペレーションを最適化することができる。

Quanergyは人と車の確実なリアルタイム追跡を可能とするプラットフォーム「QORTEX DTC」を開発しているが、VMSとの統合でその追跡精度をさらに高めることが可能となる。

ToF型機械式LiDARの進化版を発表

同社のLiDARラインナップには、前述のS3シリーズの他に、主に産業用途、セキュリティ用途で展開されているToF(Time of Flight)型の機械式LiDAR「M」シリーズがある。

同社は、このMシリーズに関して、2022年8月にその進化版となる2D 360° LiDARセンサー「M1 Edge PoE」を発表した。

このLiDARセンサーは、小さな物体や手の届きにくい場所から発生し得る脅威に対して適応できるように最適化されている。

例えば、屋上や屋内への侵入者の監視や、データセンターにおけるデータラックやキャビネットへの不正アクセスの検知、刑務所などのセキュリティの高いインフラ施設付近でドローンが投下した物体の検知、など主にセキュリティ境界への侵入検知への用途が想定されている。

また、高い角度分解能により、ボールやペンといった小さな物体もセンサーから数十メートル先まで高い精度で検出することができるといい、低価格でありながら高い検出精度を実現している。

同社は、この新型センサーで、セキュリティの境界侵入検知(PID)の市場でのシェア拡大を狙う。

今後の動向について

同社のLiDARセンサーの展開は多岐にわたっており、現状ではセキュリティ用途や産業用途など自動車以外が主流である。しかし、S3シリーズの進化により、今後の市場展開に期待が高まるところである。

また同社は、2022年9月にLiDARセンサーのグローバル生産を拡大することを発表しており、多用途展開のLiDARメーカーとして今後の活動が注目される。

まとめ

熾烈な競争を誰が勝ち抜くのか

今回は、自動車向けLiDARの実用化への道筋を立ててきた3社の動向について整理し、前回記事でレビューした3社を加えて以下6社の動向について整理をした。

  • Luminar Technologies
  • Aeva
  • AEye
  • Cepton
  • Ouster
  • Quanergy

LiDARについては上記の企業に加えて、ほかにも様々な企業が存在しており、老舗のVelodyne社や中国勢の台頭も含めて熾烈な競争となっている。

そうした中で、今後はLiDAR企業の淘汰や合従連衡も進むと見られる。すでに日本のパイオニアはLiDARの開発・生産から撤退をした。コンチネンタル・ボッシュ・ZFらのグローバルメガサプライヤに加えて、欧米中イスラエルのスタートアップが大規模に資金を投じて開発競争を行っている状況となっている。

今回、いくつかの企業から車載だけでなく宇宙・防衛用などへの横展開の動きが出てきたのは、売上のパイを取りに行くことだけでなく、車載向け一本足のリスクヘッジの意味合いもあると想定される。

敵はLiDAR企業だけにあらず、他のセンサーとの競争も

さらにLiDAR企業の敵はLiDAR業界だけではない可能性もある。

短期的には安全で冗長なシステムを構築するために、特にレベル3以上の自動運転においてはLiDARを搭載することは業界のコンセンサスとなっている。

しかし、中長期的にカメラとレーダーの技術発展によって、LiDARのユースケースが一部浸食される可能性もある。カメラではこれまで1~2MPの解像度が一般的であったが、直近では8MPの高画素CMOSセンサが発表されている。この画素数の技術進歩は大きく、カメラでセンシングできる幅が広がることが想定される。また、レーダーにおいてもハードだけではなく仮想アンテナやAIなどのソフトウェア技術を組み合わせることで、より分解能を上げる方向性となっている。

LiDARが自動車において市民権を得るのが先か、または他のセンサおよび処理アルゴリズムが発展していくことで、LiDARのユースケースが狭くなるのか、こうした可能性にも目を配る必要がある。


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