多様なデジタルヘルスの技術が国内外のスタートアップによって開発されているが、住まいの中で利用可能な技術の活用が模索されている。

日本の住宅メーカーやトイレメーカーも展示会などでバイタルセンシングを活用した、様々なソリューションが検討されている。今回は家の中で使える健康モニタリングの中でも、スマートトイレについて触れていきたい。

スマートトイレ×ヘルスケア技術が注目される背景

スマートトイレとは多機能なトイレの総称だが、最近特に注目されているのがヘルスケア関連のスマートトイレである。

尿の色や量、成分などから健康状態を確認でき、日常の健康管理を気軽に行えるようになる。

2023年1月に米ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2023」でも、複数の企業が健康管理機能を備えたスマートトイレを披露していた。

病気の予防・早期発見

スマートトイレに限らずデジタルヘルス全般で言えることであるが、多くの先進国で高齢化により社会保障費が膨らみ続け、重い負担となっている。

そのため、病気を予防・早期発見して医療費削減に貢献するための技術として、スマートトイレも期待されている。

尿には様々なバイオマーカーが存在

特に、トイレならではの情報源として「尿」には 3,000 を超える代謝物が含まれており、健康状態に関して多くの情報・洞察を得ることができる。

例えば腎臓の健康状態や尿路感染症高齢者のうつ・不安症尿中の匂いからガンを検知する技術など、様々な応用が期待されている。
注)なお、今回取り上げている企業はスマートトイレの形を取っている企業に限っているが、上記リンクのように尿解析側では様々な開発や研究がされている。

しかし、尿の検査は年に1回、健康診断の際に行う人が大半である。

スマートトイレの普及により、座って用を足すだけで健康状態が把握できるようになれば、尿の状態を定期的にモニタリングできるようになり、個人で簡単に健康状態を把握できるようになる。 トイレは誰もが1日に何回も使うもの。実用化されれば、ユーザーに負担をかけずに定期的な健康管理を促すことができる。

スマートトイレ×ヘルスケアの関連企業

それでは、スマートトイレ×ヘルスケア市場において注目されている企業や技術についていくつか取り上げよう。どの企業も、ユーザーが手間をかけずに健康管理ができるよう工夫を凝らしている。

ヘルスケアデバイス企業のWithingは新製品U-Scanを発表

「Withings」は、ヘルスケアデバイスを開発・販売するフランスの企業で、これまでにスマート体重計やスマートウォッチなど、日常的な健康管理や予防に注目した多くの製品を販売してきた。

同社が4年かけて開発したスマートトイレ「U-Scan」は、丸く平らな小石のような形をしているデバイスで、家庭の便器内に設置するだけで手軽に尿検査が行えるようになるのが特徴である。

U-Scan — Hands-free urine-lab, Withings

尿はデバイスの収集口から流れ込み、テストポッドとよばれる部分で化学反応を引き起こす。その結果は光学センサーによって読み取られ、尿のpHやビタミン、ケトンレベルなどが測定される。

結果は数分以内にスマートフォン上の専用アプリに送信され、個人の目的に応じ、おすすめのレシピやアクティビティなど、具体的なアドバイスを提供する。

「U-Scan」のもう1つの大きな特徴は、尿の動きや距離、分散度などからユーザーを識別する「ストリームID機能」だ。他人のデータと混同される心配がなく、複数人で利用ができる。

「U-Scan」は洗い流すたびに洗浄される回転カートリッジ式であり、消費者向けには以下2種類のカートリッジの販売が予定されている。

・U-Scan Nutri Balance

栄養と水分摂取の状態を測定し、水分補給や健康的な食生活をサポート。

・U-Scan Cycle Sync

毎月のホルモンの変動を追跡し、月経周期予測・排卵予測などを行う。周期に応じておすすめのアクションなども提案。

この他にも、医療関係者に向けた特注のカートリッジ作成が可能であり、医学研究や臨床試験、患者の健康状態のモニタリングへの利用が期待されている。 「U-Scan」は2023年半ばにヨーロッパにて発売開始予定。スターターキット(カートリッジが1つ付属)は€500 (£440)である。

CasanaはスマートトイレでFDA認定を取得し、次のフェーズへ

米ニューヨークの企業「Casana」は、心臓の健康状態を監視するスマート便座「Heart Seat」を開発。2023年5月に初のFDA 510(k)を取得したと発表した。

「Heart Seat」は便座型のスマートデバイスで、トイレの便器に取り付けると、座るだけでセンサーが自動的に測定を行ってくれるようになる。得られたデータは医療チームのダッシュボードに送信され、遠隔で患者のモニタリングを行うことができる。

開発の背景には、米国では成人の約半数が高血圧であり、心血管疾患による死亡が急増していることや、在宅医療市場の拡大などがある。

同社は、今回認可された心拍数や血中酸素濃度の測定機能に加え、収縮期血圧および拡張期血圧(BP)の追加モニタリング機能を今後FDAに申請し、2023年末までに製品を発売する予定であることを明らかにしている。

特に今回、血圧まで踏み込んでいるというのが大変興味深く、ウェアラブルデバイスでも期待されているパラメーターが、こうしたスマートトイレによって装着無しに自然に測定できるようになることは大変意味があるだろう。

人間工学に基づくVivooのスマートトイレ は2025年発売を狙う

家庭用尿検査サービスを販売する米サンフランシスコの企業「Vivoo」も、スマートトイレの開発を進めていることを発表した。

Improve Your Wellness With Vivoo, Interesting Engineering
(CES2023でも発表されていた)

同社のスマートトイレは、トイレの便座部分にクリップで装置を取り付けて使用する。

センサーが尿の流れを感知すると、検査紙が尿に当たるように自動で移動。採取後は自動で装置内部に回収され、成分分析後、90秒以内に結果が専用アプリに送信される。

同社の発表によると、このスマートトイレは4つの異なるパラメータ(詳細は不明)を分析し、その結果に基づいて、栄養に関するアドバイスやおすすめのサプリメントなどを提案する。

検査紙を手で持つ必要がないため衛生的であるだけでなく、装置が人間工学に基づいて設計されており、高齢者など身体の不自由な人でも尿検査を行いやすい。同社は、今後在宅介護などの場面でも役立つことを期待しているという。

一般販売は2025年頃を目指している。

まとめ

今回、いくつかのスマートトイレ関連の企業とその技術について紹介をした。

今回紹介した企業のほかにも、トイレそのものやトイレに付けるものではないが、自宅で尿検査ができるような画像解析AIのスタートアップなども存在しており、今後の事業展開が期待される。

スマートトイレが実用化されれば、より気軽に健康管理を行えるようになり、多くの病気の予防や早期発見が可能になるだろう。

とりわけ、上記に見られたような医療機器としてのFDA認可を得るようなデバイスが登場しつつあり、血圧のような新しいパラメータへ踏み込む動きや、栄養に関するアドバイスやサプリメントの提案など、測定だけでなくユーザーのアクションにつながる提案を行う機能など、新しい工夫が見られる。

まだ本格的な実用化はこれからのフェーズであるため、どのように普段の生活に役に立つのかイメージがわきにくいが、今後ユーザーのユースケースや実際に生活の中で役に立つ様について整理されてくれば、興味深い市場になるだろう。