世界的に取り組みが進められる、脱プラスチック。とりわけ毎年8mトンのプラスチックが海洋へと流出し、生態系や海運などへ影響していることから、脱プラやリサイクルへの社会的要求が高まった。

こうしたプラスチックの中でも消費者にとってなじみ深いものの一つが、PETであるだろう。PETは従来からリサイクルが進められてきたが、コストや環境負荷、そして技術的な課題はいまだ存在する。

それを解決する手段となりそうなのが、バイオ技術によるPETのケミカルリサイクルだ。本稿では、酵素によるPETのリサイクルを進めるフランスのCarbiosを取り上げる。

Carbiosの企業概要|設立から2年でIPO

Carbiosは2011年、VCのTruffle Capitalからの出資を受け、フランスで設立。後述する酵素プロセスを用いたプラスチックのリサイクル技術を有し、特許を取得している。2015年に、好熱性コラーゲン分解酵素生産菌から単離させたクチナーゼに関する特許を取得。これは、世界的に見てもPET分解酵素関連の最初の特許取得となった。

こうしてCarbiosはPETをはじめとしたプラスチックのリサイクルでのイノベーションを起こそうとしている。

2013年には、ユーロネクスト・グロースに上場。2021年には、パートナー企業とともに欧州委員会から「LIFE funding program」による3.3m€の補助金を受給している。

その他、Carbiosの企業概要は以下を参照いただきたい。

  • 設立年:2011年
  • 拠点国:フランス
  • 資金調達フェーズ:ユーロネクスト・グロース上場
  • 資金調達額:73m€(約1.2b¥)
  • 協業する企業(一部抜粋):
    • L’Oréal
    • Nestlé Waters
    • PepsiCo
    • サントリービバレッジ&フードヨーロッパ

Carbiosの企業紹介動画

Carbiosの技術が求められる理由とは?r-PETの課題

なぜCarbiosの技術が生まれ、そして求められるのか? すでにPETはリサイクル(r-PETと呼ばれる)が行われているが、そこに問題点があるためだ。

現状のr-PETは、「ケミカルリサイクル」と「メカニカルリサイクル」という2つの手法がある。 この後、現在行われるリサイクルのプロセスを詳しく取り上げるが、先にケミカルリサイクルとメカニカルリサイクルそれぞれのメリットとデメリットを簡単に記載する。

ケミカルリサイクル

ケミカルリサイクルは、文字通り化学的にリサイクルを行う手法だ。既存のPETボトルを原料モノマーへ解重合し、精製後に再重合する。

回収・選別後のプロセスは以下の通り。

  1. PETボトルを粉砕
  2. 洗浄
  3. フレーク化し、解重合
  4. 脱色・精製
  5. 溶解重合
  6. 固相重合
  7. PET樹脂に再生

解重合、重合をするには、設備が必要とされる。そのため、後述するメカニカルリサイクルと比べて、高コストとなりがちだ。また、相応量のエネルギーも消費するため、リサイクルのために環境負荷をかけてしまう。

他方、まさに「ケミカル」な課題もある。PETボトルはボトルそのものや内容物の品質保持のため、さまざまな添加剤が用いられている。有害物質を発生させないため、これを適切に除去する必要があるしPET素材としての利点を保持したままケミカルリサイクルをするためには、技術的難易度も高い。

よって、ケミカルリサイクルが活用される場面はまだ限られているのが現実だ。

メカニカルリサイクル

メカニカルリサイクルは、化学的に解重合を行うのではなく物理的なPETの状態のまま、洗浄、除染を行い、リサイクルする。

メカニカルリサイクルは着色したPETボトルのリサイクルはほぼ不可能であるものの、日本においては「PETボトル自主設計ガイドライン」の2001年改訂により着色ボトルを生産しないとしているため、こうした環境整備さえあればリサイクルしやすい側面がある。

こちらも、回収・選別後のプロセスをご覧いただきたい。

  1. 粉砕し、フレーク化
  2. 洗浄
  3. 乾燥
  4. ペレット化
  5. 結晶化
  6. 除染

※4〜6のプロセスは、前後する場合がある

洗浄や除染といったプロセスを挟みつつPETの状態は維持されるため、無色透明なPETボトルであれば再び無色透明なPETボトルを生産できる。

しかし、完全に同じ状態を維持できるわけではない。リサイクルを繰り返していれば、色がついてしまう。事実、現状でメカニカルリサイクルを行っており、グループ企業がCarbiosと協業するサントリーは、ウェブサイトによくある質問として「ペットボトル容器が黄色っぽく(茶色っぽく)、くすんで見えますが、なぜですか?」というページを設けている。

もちろん、品質には問題がないものの、消費者の視点としては少しでも色がつけば清潔感が薄れてしまうと感じることの表れといえるだろう。

また、ケミカルリサイクルと比べればコスト、環境負荷の点で優位にあるが、除染の際は装置が必要となり、当然、そのためのコストや消費エネルギーによる環境負荷は存在する。

PETのリサイクルはどのように行われるのか?10時間で9割をモノマー化

こうした現状の課題を、Carbiosはどのような技術で解決しようとしているのか?

すでに述べたように、Carbiosは酵素によるPETの解重合を行い、そこからリサイクルを行う。Carbiosを新たなケミカルリサイクルを開発した企業と見る向きもあるが、この点からはPETの「バイオリサイクル」企業ともいえるだろう。

特に注目を集めたのが、2020年に同社のパートナーであるToulouse Biotechnology Institute(TBI)と共同執筆し、『Nature』に掲載された論文だ。なお、TBIはフランスのグランゼコール(高等教育機関)の一つであるINSAトゥールーズ内に設置された研究所である。

この論文では、Carbiosが開発したヒドロラーゼを使うPETの加水分解で、テレフタル酸(TPA)を得る方法を発表。同ヒドロラーゼは72℃の緩衝液中で活性化し、10時間で90%のPETをモノマーへと解重合している。

これより前にCarbiosは、大腸菌で発現させたThermobifida cellulosilytica由来のクチナーゼに関する特許を取得したが、当該クチナーゼでPETから解重合できる割合はわずか10%で、しかも1週間という時間を要していた。 こうした経緯から、Carbiosは高効率の組み換え酵素開発に至り、Natureでの論文発表という成果につながったのである。以前のケミカルリサイクルにおけるコストや環境負荷の課題も、酵素の培養によって解決できる可能性があるだろう。

Carbiosプレスリリースより

すでに実用可能なレベルのr-PETボトルが製作されており、それが上の写真だ。ラベルやプリントのないボトルとなっているが、4つはそれぞれCarbiosと協業する4社の製品への利用を意図したもので、左から「オランジーナ」(サントリー)、「ペリエ」(Nestlé Waters)、「ビオテルム」(L’Oréal)、「ペプシマックス」(PepsiCo)のボトルとなっている。

すでに商用フェーズに移ったCarbiosの現在|年50kトン処理のプラント建設

Carbiosの現状は、商用化へのフェーズへ移っている。

2023年10月、同社はPETリサイクルプラントの建設が、フランス国内で開始すると発表した。関連自治体より事業許可と建設許可が出されたことによるもの。2025年の稼働を目指す。同年は、フランス政府がPETのリサイクル率100%にすると、環境循環法(2020年施行)で掲げた年だ。

同様の建設許可は、フランスでは申請から17カ月かかるのが平均だというが、CarbiosのCEOであるEmmanuel Ladent氏は行政の協力があり建設するロングラヴィル市から10カ月で許可を得たと、謝意とともに説明している。

用地は提携を結ぶインドラマベンチャーズ(タイ)から取得した。インドラマはPET分野で世界最大手のメーカーだ。面積は13.7ヘクタール(東京ドーム約3個分)。

年間50kトンのPET廃棄物をリサイクルする能力を持ち、150人の雇用を創出する見込み。 また、廃棄PETの選択的収集が改善されれば、2030年には年間500kトンの廃棄物を確保できる可能性があるという。これは、立地するロングラヴィルの地理的な特徴によるものだ。

以下のロングラヴィルの地図をご覧いただきたい。中央の赤い点線で囲まれているのが、ロングラヴィルだ。

ロングラヴィルは、一人当たりGDPが国別で最も高いルクセンブルクと接し、「ヨーロッパの十字路」とも呼ばれるベルギーの国境とも1km程度の距離しかない。つまり、経済的な要衝であり、リサイクルされる廃棄物も含め資源確保や物流の面で利点がある。

あとは技術レベルで実現したことを、商用レベルで再現できれば、酵素によるPETリサイクルの実力が証明されるだろう。

まとめ|成功するかどうかは市場/行政の動向次第

プラント建設に関して、CarbiosのCEOが行政の迅速な対応を挙げていたが、この実現にはフランスの国民レベルでの環境意識が高いという背景もあるだろう。特に欧州を中心として再生プラスチック使用に関しては2025年以降、規制が強化されていく予定だ。

脱プラやその他の環境保護施策への要求がますます高まっていくことは、欧州を中心とした流れとなっており、新たなイノベーションを生み出すチャンスともいえる。

一方で、現状のバイオ技術は通常の石油由来のプラスチックに比べるとコストが高くなる。そのため、市場形成初期はどうしても欧州の規制動向と、コカ・コーラやネスレなど一部の環境対応を優先に掲げる企業に左右される。上手く市場が形成されるかどうかは、これら政府機関や市場動向次第となりそうだ。


参考文献:

※1:令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書, 環境省(リンク

※2:History, Carbios(リンク

※3:Carbios receives support from the European Commission through the LIFE program, Carbios(リンク

※4:Our partners, Carbios(リンク

※5:リサイクルが進むPET樹脂は循環経済を実現するか, 府川伊三郎(リンク

※6:PET のケミカルリサイクル法の最近の進歩, 田中真司,『オレオサイエンス』2022年10号(リンク

※7:PETボトルのリサイクル「ボトルtoボトル」, ツカサペトコ(リンク

※8:自主設計ガイドラインの変遷, PETボトルリサイクル推進協議会(リンク

※9:2.メカニカルリサイクル(物理的再生法), PETボトルリサイクル推進協議会(リンク

※10:Enzymatic recycling of polyethylene terephthalate through the lens of proprietary processes, José L. García(リンク

※11:Carbios obtains building and operating permits, in line with announced schedule, for world’s first PET biorecycling plant in Longlaville, Carbios(リンク

※12:「使い捨てプラスチック」の世界ランキング公表, 一般社団法人日本エシカル推進協議会(リンク