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【展示会レポート】CapturaのSteve Oldham CEOが来日。「スマートエネルギーWEEK」での講演の模様とCO2回収の直近の動向

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Direct Ocean Capture(DOC)、直接海洋回収の技術を開発する米スタートアップ、CapturaのSteve Oldham CEOが2024年10月、来日。同月2日、幕張メッセで開かれた展示会「第22回スマートエネルギーWEEK」(RX Japan主催)で講演した。

その一部をお伝えする。

参考記事:大気からCO2回収を目指す「DAC」スタートアップの事例
参考記事:CO2回収技術の現状|海洋を対象にしたDOCや藻類活用などネガティブエミッションの注目企業

「海も台無しにしない」ためのCO2回収法|Steve Oldham氏講演

会場入口の掲示(編集部撮影)

Oldham氏は、「DOC(直接海洋回収)とは?米国発ベンチャーの新技術・新ビジネスに迫る」と題されたカンファレンスに登壇した。最初に、Capturaへ出資するJapan Airlines Venturesの松崎志朗氏がプレゼンテーション。Japan Airlines Venturesは日本航空(JAL)のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)で、その取り組みを説明した。

続いて、Oldham氏の講演、そして質疑応答を基にOldham氏と松崎氏が対談する流れとなった。

Oldham氏が冒頭、スクリーンに映し出したのは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発信したグラフ。二酸化炭素(CO2)排出と気候変動の相関の過去・将来予測を示したものだ。ここでOldham氏は、次のように語る。

「残念なことに、私たち全員が一夜にしてCO2の排出を止めたとしても、サステナブルな気候にするにはそれだけでは足りない。すでに放出されているCO2の量が多過ぎるためだ」(以下、断りない限りかぎかっこ内はOldham氏)

この後、バスタブと蛇口を例にした説明があった。要約すれば、蛇口を止めても浴槽には水が残る。この残ってしまう浴槽の水が、過去から蓄積されてきたCO2に相当する。またOldham氏はそこまで触れなかったが、現実の経済や社会を見ればどうしても排出量をゼロにできないCO2もあるだろう。

課題はもう一つある。2010年代より、世界各地の観測地点でCO2濃度が400ppmを超えている点だ。

「400ppmはオリンピックサイズのプールであると、インク1滴に相当する。50年後、プールの中からこのインクを取り出すと想像してほしい。それがとても難しいことだと分かるのではないだろうか」

一方で、CO2削減にはビジネスとしてのチャンスもある。Oldham氏は、CO2の削減で1トンあたり$100の収益があるとすれば、削減が必要な200億トンのCO2から$2t(約300兆円)の市場規模が算出できるとし、国家や企業にとって大きなチャンスにもなると語る。

では、その手段としてCapturaがDOCを採るのはなぜか?

「CO2回収は低コストで行われなければならない。また、回収されたCO2が誰にでも目に見えて除去できたと分かる『高品質』も求められる。そして、社会にも受け入れられる必要がある。回収したCO2が自分の家の近くに埋められることは望む人はいないだろう」

編集部が補足すると、直接大気回収(Direct Air Capture、DAC)でCO2が埋められる場所は油田など、ある程度、隔離された地域となるし、Oldham氏もDACの有用性は認めている。そもそもOldham氏自身、かつてCarbon EngineeringというDACのスタートアップでCEOを務めた過去があり、本講演でもDACによる持続可能な航空燃料(SAF)の生産や炭素クレジットとしての活用に触れていた。

あくまでも、「受け入れやすさ」の点でのDOCの長所が説明されたということだ。

次いで、Oldham氏が取り上げたのが、ヘンリーの法則。これは、Capturaが推進するDOCにとって鍵となるものだ。

ヘンリーの法則は、溶媒に溶ける気体の量は圧力に比例する、というものだがOldham氏はDOCを前提により噛み砕いて「大気と海洋はCO2含有量において常に平衡を保つ」と解説する。

「だから何? という声が聞こえてきそうだが、つまり大気に放出されるCO2が増えるとその一部を海が吸収するということだ」

この後、CapturaのDOCの仕組みについて解説があった。簡単にいえば、採取したCO2を海底下に埋め、海洋は取り除かれた分のCO2を大気から吸収することでCO2除去につながるというもの。

ここはテキストで説明するよりCaptura公式の動画でご覧いただくほうがより分かりやすいだろう。英語での解説だが、自動翻訳と字幕をオンにすれば日本語訳が読める。

Capturaの解説動画

説明が一通り終わると、「最近、ワシントンD.C.で海洋学者と会った」とOldham氏は次の話題に切り替えた。

「彼はこう言った。『私たちはすでに大気を台無しにしてしまった』と。

私たちは海も台無しにしてはならない。(DOCは)海に影響を与えない方法でないといけない」

そしてOldham氏は、海から何らかの物質を取り出したり添加したりはしていないこと、モニタリングによってCapturaのプラント周辺の海水温やCO2濃度の変化はないことを強調する。

「プラントからCO2を取り除いた水が排出されるが、その水の中でムール貝(註・ムール貝は海洋汚染に敏感な反応を示し、空気中におけるカナリアのような役割を果たす)やその他の海洋生物を育てている。この試みによってCapturaが海洋にまったく影響を与えてないことを示せている」

ビジネスとしての動向についても、説明があった。

「Capturaは素晴らしい投資家たちに支えられている。今日ここにいるJALもその1社だ。同じく日本の投資家には日立製作所もおり、大変嬉しく思っている」

また、ATXでも既報の通り、Capturaは「XPRIZE Carbon Removal」のファイナリストにも選ばれた。

参考記事:カーボンネガティブコンペティションXPRIZE Carbon Removal

「XPRIZE Carbon Removalは多種多様なカーボンネガティブソリューションが競う、人類史上最大の技術コンペティションだ。賞金総額の$100m(約148億円)は、Elon Musk氏の財団が拠出する。応募者数1300のうち、われわれを含む20がファイナリストとなった。誰が優勝するかは、来年(2025年)4月22日のアースデーに発表される」

「SpaceXの最初の顧客」対談・質疑応答から浮かび上がったOldham氏のキャリア

その後、対談・質疑応答に移った。よりOldham氏の人となりをオーディエンスに理解してもらうためであろう、最初に松崎氏が「あなたのキャリアを教えてほしい」と聞いた。

「私のキャリアはもともと宇宙産業からスタートした。20年間やっていた。

皆さんは炭素除去と宇宙にどのような関連があるのかと思うかもしれない。実は、大いにある。まずロケットや人工衛星は『正しく』打ち上げられなければならない。そして、打ち上げられた後は機能するかしないかのどちらかとなる。宇宙ではできることが非常に限られる。

すなわち、宇宙産業でのエンジニアリングの規律、資本をどう調整するか、長期的なビジネスプランを作る、といったことは(炭素除去でも)非常に役立つ」

その上で、Oldham氏は講演の終盤に語ったMusk氏との「縁」も明かし、そしてCapturaのビジネスモデルにも言及した。

「私は、SpaceXの最初の打ち上げで(買い手として)交渉した。そして、購入することになった。当時、SpaceXは小さい企業であったが、壮大なビジョンを持っていた。これは、われわれの業界も学ぶべき点だと思っている。

私個人やCapturaだけでは、描いている壮大なビジョンを達成できない。そこで、世界中の多くの人々、企業と協力することになる。世界各地の企業に技術のライセンス供与をし、プラントを建設していく。皆さんの中にもエネルギー転換の方法を模索している方がいらっしゃったら、ぜひ連絡いただきたい。

以前、私がCEOを務めていたCarbon Engineeringも最初は従業員がたった10名ほどの企業だったが、4年後に$1.6b(現在の価値では約2370億円だが、当時の報道では$1.1b・約1600億円)で売却した。エネルギー転換と炭素除去には、それだけの価値提案と経済的機会がある」

続いて、オーディエンスから「CO2回収で1トンあたりのコストは?」と質問されると、Oldham氏は「いつも最初に受ける質問だ」と笑いながら答える。

「私は、米エネルギー省のCO2回収のコストは、1トンあたり$100を目標にしているのではと考えている。それ自体は可能だと思う。$100に近づけていくためには、どれだけ早く(商用)プラントを建設するかにかかっている。よって、未解決の問題となってしまうが、JALなどのパートナーやその他の企業、政府がいかに早く関与してくれるかにかかっているだろう」

「海洋生態系への影響の評価、そして利害関係者への説明責任をどう果たすか」という質問もあった。

「まずプラントから戻す水について、アルカリ度、pHレベル、酸素レベル、可溶性固形物など、海洋生物にとって重要なものを正確に測定し、ウェブサイトで公開している。先ほども話したようにムール貝などの生育状況を見ている他、いくつかの養殖会社との連携もしている」

さらに、DOCによって副次的なメリットも発見されたという。

「われわれは大気よりも素早く海からCO2を取り出し、そして素早く戻している。これは、海域の酸性度を下げることにつながっていると分かった。酸性度を抑制できればサンゴ礁の劣化を防げ、貝類の養殖で起こってしまう海の酸性度上昇にも対抗できるツールとなり得る。海洋保護団体からも関心を寄せてもらっている」

新たなキーワードになりそうな「CCUS」「CCS」

CCUS政策に関するカンファレンス開始前の模様(編集部撮影)

展示会全体についても、簡単に触れたい。

編集部はOldham氏のカンファレンスの前、別のカンファレンスを聴講した。タイトルは「我が国のCCUS政策と展望」で、資源エネルギー庁の刀禰正樹氏と三菱重工業の長安立人氏がスピーカーだった。

CCUSとは、Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略。一方で、CCSという言葉があり、こちらはCarbon dioxide Capture and Storageの略である。CCSは日本語としては「CO2回収・貯留」となるが、この回収・貯留に「利用」を付け加えたのがCCUSとなる。つまり、前出のSAF生産や油田の油を押し出すのに回収したCO2を使うなどの利用だ。

これまでATXでは、「回収」「貯留」「DAC」「DOC」といったキーワードを用いながら世界の動向を伝えてきたが、今後、ここに「CCUS」「CCS」も入ってきそうだ。

スピーカーである三菱重工の長安氏の肩書も「GXセグメント セグメント長代理(CCUS担当)」だった。またブースを見ると、三菱重工以外でも川崎重工業が大型DACに関するパネル展示をしており、この分野の動きの加速が見て取れた。

川崎重工の展示(編集部撮影)


参考文献:
※:知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」, 資源エネルギー庁「エネこれ」(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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