特集記事

ベングリオン大学がウェアラブルデバイスを使った独自AI技術で、てんかん発作を予測する技術を開発

INDEX目次

 2020年9月29日、イスラエルのベングリオン大学の研究者が独自の機械学習アルゴリズムにより、てんかん発作を検出・予測するための新しい技術「Epiness™」を開発と発表。この技術により、ウェアラブルデバイスから取得したデータをもとにデータが解析され、てんかん発作が発症する1時間前までに、スマートフォンへ今後の発作に関する高度な警告が発信されるという。

ベングリオン大学が開発したてんかん発作予測技術とは?

 Epiness™は、ウェアラブルEEGデバイスと最先端の機械学習アルゴリズムを組み合わせて機能する。必要なEEG電極の数を最小限に抑え、頭皮上の電極配置は最適化される。同社の機械学習アルゴリズムは、脳活動に関連しないノイズをフィルタリングし、基礎となる脳ダイナミクスの有益な尺度を抽出し、てんかん発作が予想される前の脳活動と発作が起こらないときの脳活動を区別するように設計されている。

 同社のように、てんかん発作が実際に起こる前にアラートを出すという予測する技術は世界でもまだ実用化できていない技術である。比較的近い技術で有名なのは、MITメディアラボからのスピンアウトベンチャーであるEmpatica社が開発したスマートウォッチ型のウェアラブルデバイスでてんかんの発作を検知するものである。2019年1月にスマートウォッチ型で非EEGベースの生体データをベースにしたてんかん検知技術で、初めてのFDAクリアランスを取得した。今回のEpiness™技術と、Empaticaの技術の違いは、発作前にアラートを出せるかどうかにある。一方で、Epiness™ではEEGを使っており、一般にウェアラブルEEGデバイスは常時の装着が難しかったり、実生活での利便性や携帯性にデメリットが出てくる。

 今回のアルゴリズム技術は、てんかん手術前の数日間の間に測定された大量のEEGデータを使って開発・テストされた。データの内の80%は、機械学習アルゴリズムの事前の学習のために利用され、残りの20%は予測性能と電極依存性を確認するためのテスト用として活用された。結果としては、予測精度は97%と非常に高精度なアルゴリズムとなったという。

画像クレジット:Ulrich Wechselberger
上記は、同大学が開発したものとは無関係の通常の脳波計測デバイス。通常のものだとこのような日常で使うのは難しいものになってしまう。同大学の発表からは、どのようなウェアラブルデバイスかは不明だが、頭に何かしら装着するものと想定される。

てんかん発作の予測技術の意義

 てんかんは世界で5,000~6,000万人、おおよそ人口の0.5~1.0%がてんかんに罹患していると言われている。てんかんは重篤な神経障害の1種である。脳の一部の神経細胞が異常な電気活動を示すことにより起こる発作で、突発的に運動神経、感覚神経、自律神経、意識、高次脳機能などの神経系が異常に活動することで症状を出す。厚生労働省のサイトによると、日本においても1,000人に5~8人の割合で症状を持つ人がいるという。ほとんどの場合は数秒~数分間で終わるが、時には数時間以上続くような重篤状態もあり得る。

 てんかん症状を持つ80%程度の人は、適切な治療によって普通の生活が送れるという。しかし、全世界でてんかんのある80~90%の人は、適切な治療が受けられておらず放置されているという情報がある(公益財団法人日本てんかん協会HPより)。

今回のベングリオン大学による発表においても言及されているが

"抗てんかん薬を服用しても、最大30%の患者が発作を十分にコントロールできない”

同大学プレスリリースより

という状況である。

 また、日本においても、てんかん発作における自動車事故で実際に死傷者が出ていることが注目され、2014年に自動車運転処罰法が施行された。これは、てんかんや統合失調症などの病気の影響で運転に支障が生じる恐れがある状態であるにも関わらず、故意に運転して、発作により死傷事故を起こした場合、危険運転致死傷罪を問われるもの。自動車産業においても、こうした病気における故意な運転による事故は厳罰化の流れにある。

 問題は一体いつ、てんかんの発作が起こるかがわからないことである。てんかんのような神経症状は、発作それ自体がすぐに当人の命に関わることはあまりないと言われる。一方で、運転中や移動中などには重大な事故に繋がり得ることに注意が必要だ。

 つまり、発作が起こる1時間前等に発作が起こる可能性をアラートするようなシステムがあると、対応の準備をすることができる。そのため、特に移動中や、または当人の家族や関係者が外出する際にアラートを出すような、てんかん発作の予測技術自体の価値は高い。

技術移転でNeuroHelp社で事業化予定

 この技術はBGNテクノロジーズというベングリオン大学の研究成果を元に企業へ技術移転を行うインキュベーションファームを通して、NeuroHelp社というベンチャー企業で事業化されるという。このNeuroHelp社について調査をしてみたが、まだ情報が見つからなかった。今後、同社で事業化されたタイミングでWebページなども整備されるのだろう。



  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

CONTACT

お問い合わせ・ご相談はこちら