破壊的イノベーションの芽をつかむには定点観測するしかない
破壊的イノベーションやゲームチェンジャーとなる技術の芽を掴みたい
こうしたご相談をよく頂く。製造業に限らず、IT分野、最近ではFintechやデジタルヘルスのような融合分野まで登場し、その市場変化のスピードはとても速い。こうした中で、「ある日突然、イスラエルのベンチャー企業が50m$の資金調達を行った」「米国ベイエリアのベンチャー企業が100m$もの資金調達を行った」といった情報がいきなり入ってくるのである。
”なぜこういう有望ベンチャーがいるのがわからなかったのか?”
”巨額の資金調達をする前に、有望ベンチャーの動きを掴んでおくことはできなかったのか”
”そういえば展示会で見かけたことはあったが、当時は大したことないスペックだった”
”他社が手を付ける前に接点を持ち、業務提携や資本提携を進めたかった”
こうした会話が社内でされるのである。
通常、R&Dや技術開発の担当者の情報収集網に引っかかってくるのは、ある程度日本語のニュースとなる、業界内でかなりのメジャープレーヤーになってからである。よくあるのだが、シードやアーリーステージ段階のベンチャー企業だと、大手企業の担当者が展示会などで見つけて、「世界初〇〇技術を活用した」みたいな切り口は面白いと思っても、その後サンプルワークをしてみると、まだまだ実用に耐えないものであることから、一旦は忘れてしまう。
このように、いわゆるスタートアップやSeedやアーリーステージフェーズの技術を追いかけることは非常に難しい。今回は「なぜ追うのが難しいのか」「どうしたら追えるのか?」を解説したい。
なぜ破壊的イノベーション・ゲームチェンジャーの芽を追うのが難しいのか?
ここでは「破壊的イノベーション」という言葉と「ゲームチェンジャー」という言葉を使っているが、簡単にこれらのキーワードの意味について紹介しておく。
破壊的イノベーションとは?ゲームチェンジャーとは?
このキーワードを有名にしたのは、ハーバードビジネススクールの教授であったクレイトン・クリステンセン氏が、その著書「イノベーションのジレンマ」であった。著書の中では、持続的イノベーションと破壊的イノベーションという2つの概念について説明をしている。
持続的イノベーションについて
持続的イノベーションとは、すでにある既存の市場において主要な顧客が要求する性能を向上させるための新技術のこと。
破壊的イノベーションについて
破壊的イノベーションとは、既存の市場において、主要な顧客にとっては性能が低下するものであるが、新しい価値や特徴を持つ新技術のこと。その市場において主流となっている顧客にとっては一見価値が無いように見えるものであり、その技術が登場した当初は一部の人にしか価値が無いようなものと言うこともできる。しかし、その新技術は一定の顧客を獲得し、技術が進歩してくると従来市場において必要な性能も満たすようになり、従来技術を代替するのである。
ここでもう1つキーワードを紹介したい。ここ数年特にスタートアップ界隈や大手企業でスタートアップに関わる人の中で浸透した言葉である「ゲームチェンジャー」である。
ゲームチェンジャーとは?
ゲームチェンジャーとは、既存の競争ルールを覆し、新しい競争ルールを作り上げるようなビジネスモデルや技術が登場すること、または既存の競争ルールの中で、一気に優位性を築くようなビジネスモデルや技術も含まれる。”破壊的イノベーション”よりも意味が広く使われることが多い。
ではなぜこうした変化を掴むのは難しいのか?
- 主流ではないため出現当初は重要性に気づけない
そもそもこうした破壊的イノベーション・ゲームチェンジャーな技術やビジネスモデルは、皆が気づいていないようなものであることが多い。市場のプレーヤーの誰もが知っていて、実現できるものであれば、破壊的にはならない。
大抵こうした技術やビジネスモデルは、出現当初はその業界で主流ではないため、相手にされなかったりする性質がある。
- 特に製造業の場合は時間軸が長い
特に製造業の場合は、ベンチャー企業が創業してから技術が実用化するまでに平気で5~7年程度かかることも多い。
最近、米国ラスベガスで開催される世界最大のエレクトロニクス展示会のCESでベンチャーブースが盛り上がっているが、こうしたベンチャーブースにはシードやアーリーステージの技術が数多く出展する。しかし、こうしたプロトタイプ段階、製品化前の技術というのは実際に実用に耐えるまで何年も時間を重ねる必要がある。大手企業内で技術を探す場合は、多くのケースで割と短期的な1-2年で使える技術を探すことが多く、時間軸が合わないのである。結果として、技術の芽を見つけるものの、今はまだ使えないという評価を下すことになる。
- 定点的に動向を追いかけるのが難しい
例えばリサーチ会社やコンサルティングファームに技術動向の調査を依頼するようなこともあるだろう。大量の情報が入ったレポートが納品されることになるが、これはあくまでその時点での断面で切った時の動向である。2で時間軸の話をしているが、その技術が破壊的かどうかは実際にはある程度時間が経たないとわからないため、レポートを入手したとしても、その後時系列で技術のトレンドを流れで追わないと、わからない。
どうすれば良いのか?~定点観測が1つの手法~
ではどうすれば良いのか?その1つの有力な手法が「定点観測」である。自社が動向をウォッチするべき分野を決めて、定点的にその分野で発生してくるイマージングテクノロジーをつぶさに拾い上げて、ある程度技術のフェーズが進んだと判断される段階から定期的にコンタクトを取り、PoCを回して評価するしかない。
大手企業のR&D・事業開発部門におけるススメは相手の資金調達フェーズがSeriesA・SeriesBあたり
通常、大手企業のR&D・事業開発部門のパートナー企業に求める実用化までの時間軸はおおよそ1-2年程度であることが多い。この時間軸において比較的実用化する可能性があり、あまりミスマッチしないのはスタートアップの資金調達フェーズがSeriesBあたりである。SeriesAだとやや早く、場合によっては3年以上かかる可能性も当然あるが、少なくとも評価できるプロトタイプはある程度できていると思って良いだろう。
できるなら、自社で定点観測する分野を決め、その分野で今後成長する可能性のあるライジングスターを特定し、その企業を追い続けることが望ましい。この時、動向を追いかけることを仕組み化できるとなお良い。仕組み化しなければ、結局動向をウォッチするかどうかが担当者の存じん的な判断に任せられてしまうため、きっと1-2年で立ち消えてしまうだろう。
有力な企業・大学研究機関・カンファレンスや展示会のアワードをリスト化して定点観測する
結局はこの方法しかないように思う。足しげく、毎年何か新しい動きがあったのか、どういう企業がアワードを受賞しているのか、どの企業がどういう技術フェーズに進んだのか、定点観測するのである。
ただし、企業のプレスリリースやニュースリリースを情報源とするのでは、最初は情報の粒度として問題無いが、徐々に対象を絞り込み、深い情報を取得していく必要がある。ここで必要になるのが、「実弾での付き合い(PoCや共同開発検討など具体的な案件を意味する)」「出資という手段」となってくる。なお、このテーマについては単独で大変深い話になるため、別の記事で考えを整理したいと思う。
当社は、自動運転のためのセンシング技術や、次世代ヒューマンインターフェース、ロボティクス、IoT・AIといった分野においてこうした定点観測をご支援している。もしこうした切り口に関心があり、自社ではやりきれないと考える場合はぜひディスカッションさせていただきたい。
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