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世界のメンタルヘルス市場のまとめ

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現在、メンタルヘルス市場が世界で注目されている。Hannah Ritchie and Max Roser (2018) (Our World in Dataより)によると、何かしらメンタルヘルスの症状を持つ人口は世界で実に7.9億人も存在しており、世界の10人に1人の割合であるという。

今回はこうしたメンタルヘルス市場の概観を整理したい。新規事業や新規サービスで、ヘルスケアの特にメンタルヘルスに注目する企業もいるかと思うが、今回の記事が全体感の理解に参考になると幸いである。

メンタルヘルス市場が注目される背景

元々、欧米では先行してメンタルヘルス市場が注目されており、もう何年も前から「マインドフルネス」や「メンタルコーチング」といった市場が形成されてきた。その中でテクノロジーが使われるようなものも出現している。

世界各国のメンタルヘルス障害を持つ人数の統計が出ている。下記のデータを見ると、世界全体では7.9億人ものなにかしらの障害を持つ人がいて、国別に見ると、その人数が多いのは中国・インドが突出しており、次いで米国・ブラジル・インドネシアと続く。日本は世界で10番目となっている。

各国のメンタルヘルス障害を持つ人数(2016)

出所)Hannah Ritchie and Max Roser (2018) - "Mental Health". Published online at OurWorldInData.org. Retrieved from: 'https://ourworldindata.org/mental-health'より当社作成

一般に、こうしたメンタルヘルスのような市場は現地の情報が入ってきにくい。国により事情も異なり、また医療の領域なのか、健常者を対象にしたヘルスケアの領域なのかによっても分かれてくる。

実はすでに中国においてもこうしたメンタルヘルス市場は形成されており、36Kr Japanの記事(https://36kr.jp/70054/)によると、壹心理(Yixinli)社はメンタルヘルスサービス専門のプラットフォームとして、すでに累計25万人にサービスを提供しているようだ。

米国においても、2010年代より脳波デバイスを使ったマインドネスといった市場が出てき始め、アプリなども使われている。

米国では、高齢者の53%以上が少なくとも週に1回は瞑想しています。
引用)KD Market Insightsプレスリリース 2020年9月16日「マインドフルネス瞑想アプリの市場規模、競合他社の分析、成長ドライバー、2020年から2025年の予測:CAGR 7.8%」より

さらに、主な症状の内訳で見てみると以下の様になっている。対象は世界全体である。やはりうつ病や不安障害といった症状が疾患を患っている人が多い。

  • うつ病:2.64億人
  • 不安障害:2.84億人
  • 双極性障害:0.46億人
  • 摂食障害:0.16億人
  • 統合失調症:0.20億人

引用)Hannah Ritchie and Max Roser (2018) - "Mental Health". Published online at OurWorldInData.org. Retrieved from: 'https://ourworldindata.org/mental-health'より

これらは2018年の分析によるデータであるため、最新の、特にコロナウイルスがこの市場にどの様な影響を与えるかは注視する必要がある。

スタートアップによるメンタルヘルス市場へのアプローチは?

では海外のスタートアップにおいて、こうしたメンタルヘルス市場に対するアプローチはどのようなものがあるか、概観を見てみよう。大まかに分けると、同市場におけるスタートアップは以下のように分類することができる。

メンタルヘルス領域へのスタートアップのアプローチ

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この中でも資金調達が数十億円~100億円超と進み、実際にビジネス化されているのがテレヘルス(遠隔医療)やオンライン相談・コーチング、そして瞑想アプリの領域である。

例えばMindstrong社は、専門のセラピストを抱え、アプリを通して入力されたユーザーの情報を元にアプリ上でアドバイスを行う。必要に応じて精神科医とビデオチャットをすることもできる。ユーザーの同意を元に、スマートフォンGPS、加速度計、通話記録、テキストログに関するデータを収集し、それらデータを相談に使うことも可能である。このスタートアップは2020年5月にSeriesCで100m$もの資金を調達している。

他にも、認知行動療法・モニタリングアプリを代表するのが、睡眠障害を持つ人向けのデジタル治療アプリを提供するBig Healthのようなプレーヤーだ。すでに数多くのユーザーを抱え、数十mの資金調達に成功しており、今後の成長領域と見られる。

瞑想アプリの領域は、マインドフルネスの観点でCalmやHeadspaceが100億円を超える資金調達を行っている。すでにユニコーン入り(時価総額10億ドル以上)を果たしたと言われるCalmは、マインドフルネスアプリを中心としたビジネスで売上100億円を超える状況だ。

他にも、将来的に技術開発が進めば大変興味深い市場が新興領域として存在する。声などのバイオマーカーから精神疾患の状態を解析・検知したり、ウェアラブルデバイスで取得した生体データや加速度データ等を解析し、メンタルヘルスの診断や判定および予測などを行うものである。

この市場は大学も含めて興味深いプレーヤーが存在している。例えば米国ボストンで設立されたNeuroLex Laboratoriesというスタートアップは、声をAIで解析することによりうつ病や統合失調症、パーキンソン病などの特定を行う開発を行っている。ただし、まだ研究レベルであることも多く、同社もシードステージにある。なお、ウェアラブルではすでに実用化段階にあるものも存在している。

以上、ここまでメンタルヘルスにおける市場、及びスタートアップの概観を説明してきた。今後益々注目される市場なので、新規事業立案や検討に何かしら参考になれば幸いである。



  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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