米国心臓協会で発表された心電データのAI解析により不整脈・死亡リスクを予測する研究
2019年11月、米国医療グループのGeisingerの研究者が、米国心臓協会のScientific Sessions2019でAIが心電図(ECG)のデータを解析し、不整脈・死亡リスクを予測する研究を発表した。不整脈を伴う潜在的に危険な不整脈を発症するリスクがある患者、または1年以内に死亡するリスクのある患者を特定できることを発見したという。
Geisingerは米国ペンシルバニア州を中心に医療サービスを提供する医療機関で、100年以上もの歴史を持つ。9つの病院と2つの研究施設、そして1つの大学(医学部)を運営している。
心電図(ECG)データをAIで解析して不整脈・死亡リスクを予測
200万件を超えるECGデータで機械学習・実証
Geisingerシステム内のアーカイブされた医療記録から、200万件を超えるECGデータを抽出。不整脈の1種である心房細動を予測するためのディープニューラルネットワーク(高度な多層計算構造)を学習させた。
心房細動(atrial fibrillation:AF)は、もっとも頻度の多い不整脈の一つである。心房細動だけで直接的に命に大きな影響を与えることはないが、心臓発作や脳卒中のリスク増加に関連している。この研究は、測定段階の健康状態を検出するのではなく、人工知能を使用してECGから将来のイベントを予測する研究となっている。
まだ心房細動を発症していない237,000人以上の患者からの110万件のECGデータを使い、研究チームはディープニューラルネットワークをトレーニングした。その後、各ECGデータにおいて、15セグメントのデータ(30,000データポイント)を分析。
学習されたディープニューラルネットワークにより、高リスク患者の上位1%以内で、3人に1人が1年以内に心房細動と診断されたことを発見した。心房細動を発症すると予測された患者は、リスクの低い患者と比較して、将来25年間のフォローアップで心房細動を発症する率(ハザード率と言っている)が45%高いという結果も示された。これは、短期的な予測だけでなく、中長期での発作危険性も予測できる可能性を示唆している。
注)中長期での予測モデルはあくまで示唆であり、今回の結果で有効性が証明されたわけではない
また、Geisingerの研究者は、1年以内に何らかの原因で死亡する可能性が最も高い患者を特定するため、約40万人の患者からの177万のECGおよびその他の記録の結果を分析した。この解析の中で、学習されたディープニューラルネットワークモデルは、医師が心電図に対して問題無いと判断した患者においても、死亡のリスクを正確に予測することができたという。
将来は脳卒中の予防モデル構築を狙う
心房細動があると、心房内の血流が乱れて滞るため、心房内に血のかたまり(血栓)ができやすくなる。その血栓が血流にのって脳に運ばれ、脳の血管が詰まると、脳梗塞をおこす。
GeisingerのImaging Science and Innovation部門のChristopher M. Haggerty, PhD(助教授)は「1年後にどの患者が心房細動を発症するかを特定する方法は限られています。多くの場合、心房細動から繋がる最初の症状は脳卒中です。今回研究しているモデルを使用して、心房細動の患者を非常に早期に特定し、脳卒中を予防するための治療ができることを願っています。」と述べている。
この研究はペンシルベニア州の健康部門と、米国心臓協会のAmerican Heart Association Competitive Catalyst Awardから資金サポート受けている。
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