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ウェアラブルで取得した生体データに価値を持たせるデータ解析ベンチャーのCardiogram

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デジタルヘルスケア領域のウェアラブルデバイスの大きな課題としてあるのは、「取得した生体データに対してどのように付加価値を付けられるか」というものである。

特に、血糖値や血圧などのようにその生体情報を測定する自体で意味を見出せるものであれば問題無いが、こうしたパラメーターは計測の技術的ハードルが存在する。そこで、現時点で取得可能な心拍数や呼吸、加速度、(場合によっては最近はECG:心電も)、睡眠などのデータを解析し、何かの疾患の兆候や潜在的な健康問題を検出するといったことができれば、市場に出回っているハードウェアの価値が高まる。

こうした問題に取り組むのがCardiogramだ。

ウェアラブル生体データ解析ベンチャーのCardiogram

同社は2016年に米国サンフランシスコで創業したベンチャー企業である。共同創設者のBrandon氏は、元Googleの機械学習エンジニアであり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の心臓病学部門におけるHealth eHeart Studyというプロジェクトのアドバイザーでもある。

Android Wear、Fitbit、Apple Watchなどの現在すでに市販されているウェアラブルから取得できる生体データを解析するアルゴリズムDeep Heart(ディープニューラルネットワークが使われている)を開発している。同社の一般向けアプリは以前からダウンロード可能で、アプリは無料で利用できる。

https://www.youtube.com/watch?v=Gg-1JoTz8Rc
アプリのレビュー動画への直リンク

同社がユニークなところは、ウェアラブルから取得できるデータを解析し、様々な研究を行い、その付加価値を現在進行形で発表し続けているところだ。

2018年に発表された論文「Passive Detection of Atrial Fibrillation Using a Commercially Available Smartwatch」(JAMA Cardiol. 2018;3(5):409-416: 心臓病学の査読付き医学雑誌)によると、市販のApple Watchから取得できる心拍数データを解析することにより、心房細動を検出することが可能であり、その精度はFDAによって認可されたECGデバイスよりも高い可能性があることが示唆されたという。
注)同社がこの時使ったのはあくまで心拍数データであり、心電ではない点を強調しておく

最近でも、2020年5月に同社は「病状の兆候を明らかにするのに役立つ新しい統計として心拍数回復(HRR)を追加」している。心拍数回復というのはあまり聞かないパラメーターである。同社によると、心拍数回復とは運動をやめた後の心拍数の低下度合いのことである。運動をやめた後に、心拍数が適切に低下しない場合は、心血管系の健康状態が悪いか、自律神経系に影響を及ぼしている病状を示している可能性があるという。

この心拍数回復と健康状態との相関は、いくつかの論文で支持されている。例えば、米国心臓協会のジャーナルで発表された論文では、心拍数回復は自律神経機能障害の評価と関連しており、心臓イベントや死亡率のリスク増加に関連していることが示唆されている。

ウェアラブルのハードウェアメーカーのみならず、こうしたデバイスを活用しようとする企業にとっても大注目の企業である。



  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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