BtoCを狙うレーダーベースウェアラブル血圧モニタリングのCardieX
カフレスでの血圧モニタリング技術は聖杯の1つと言われる。スタートアップ界隈で言う聖杯(Holy Grail)とは、簡単には手に入らないが手に入れたら絶大な市場を手に入れることができる、究極の目標、というニュアンスで使われる。
CardieXはそのカフレス血圧モニタリングに真正面から取り組む企業だ。
CardieXとは?
既存ビジネスでは非侵襲中心血圧測定のソリューションを展開中
実は同社はスタートアップ企業というには設立されてから社歴が長い。同社の設立は1994年であり、AtCorMedicalという企業名で設立されたが、2018年に現在のCardieXという企業名になった。米国カリフォルニア州に本社がある。
現在の同社のビジネスは、ATCORというブランド名で展開されているNcBP(Noninvasive Central Blood Pressure:非侵襲中心血圧測定)のソリューションだ。
中心血圧とは、心臓付近の大動脈血圧のことで、通常カフで測定する上腕の血圧とは異なり、より心臓に近いため、中心血圧を測定することで脳卒中・心筋梗塞・心不全などといった脳心血管系疾患の予測やモニタリング役立つとされている。ただし、測定のためにはカテーテルを挿入する必要があったが、同社は非侵襲で測定できるデバイスを開発した。
このATCORというソリューション自体は完全に医療・研究用途となっており、FDAの認定を取得し、4,500件を超える同社のシステムが、世界中の主要な医療機関、研究機関、および大手製薬会社で利用されているという。なお、ATCORの技術は、主要な医学雑誌や数千の引用で発表された1,600を超える査読済み研究で取り上げられている。ユーザーには医薬品大手のBayerなどがいる。
新技術のレーダーベースウェアラブル血圧測定デバイス
CardieXはATCORに次ぐ、次の新しいレーダーベースウェアラブル測定デバイスを開発している。ATCORはBtoBビジネスであるが、この新しいプロジェクトはBtoCも含めた事業展開が想定されている。
この技術のコアは、2018年12月にJDA(共同開発契約)を締結したBlumioから来ている。Blumioは米国サンフランシスコベイエリアで2014年に設立されたベンチャー企業だ。レーダー技術を使ったウェアラブル血圧センサーを開発している。
Blumioの技術は肌の色に対する不浸透性、周囲光の変化、その他の生理学的条件に対してロバストとされる。
血圧測定のロジックはこうだ。
- まず、心臓の鼓動ごとに、脈動は動脈に沿って伝わり、皮膚の表面に微視的な動きを生み出す。
- レーダーにより、この微小な脈動を読み取り、動脈圧波形に変換される。
- 動脈圧波形を血圧やその他の心血管測定基準を抽出するために、独自のアルゴリズムによって分析する。
なお、レーダーにはミリ波を使っているという。
このBlumioであるが、現段階ではステルスモードで開発が進んでおり、得られる情報は少ない。同社のチームは10名弱であり、まだシードステージと言えるだろう。しかし、アドバイザリーにはUCSF Cardiologyの教授DAVID TEITEL氏やAmazonのメディカルオフィサーなど、興味深い人材がそろう。
[参考]
さて、ここで興味深いことに、UCSF Cardiologyが様々な生体センシングベンチャーや生体データの解析ベンチャーと関わりが深いことがわかるので、少し触れておこう。
2020年11月16日掲載記事
非侵襲グルコースモニタリングデバイスを開発するKNOW LABSがメイヨークリニックと研究契約を締結
2020年11月21日掲載記事
ウェアラブルで取得した生体データに価値を持たせるデータ解析ベンチャーのCardiogram
上記の記事で取り上げているKNOW LABSもUCSF Cardiologyの教授がアドバイザリーボードに名を連ね、またCardiogramはUCSF CardiologyのHealth eHeart Studyというプロジェクトで協業している。こうした例は他にもあり、このように、UCSF Cardiologyは様々な形でデジタルヘルスケアの領域に関わっている。
技術開発の状況は?
さて、このウェアラブルデバイスの技術開発の状況であるが、現時点では公にデータが出てきていないものの、2019年に開催されたIEEE Body Sensor Networks Conferenceの口頭発表で成果が発表されている。
注)残念ながら、上記は口頭発表であるため論文などの文献が見当たらなかった
CardieXはオーストラリア証券取引所に上場しており、今後の製品開発のマイルストンを公開している。同社資料によると、2021年Q1でFDAの510kを提出し、Q3にFDA認証を取得し、販売を開始したい意向。
同社を見る上での留意点
同社は証券取引所に上場しているため、その財務情報を公開している。2020年の財務情報を見てみると、同社の売上高は2020年で約5.2m$に過ぎず、一方で利益は▲3.3m$である。
また、キャッシュフローを見てみると、2019年のキャッシュの残高は約4.9m$だったのに対し、2020年を締めた段階でのキャッシュの残高は約2.0m$とかなり減っている。
同社の主力事業で利益を上げるところまで行っていない以上、このままではかなりキャッシュの状況が厳しいため、同社では2020年にConvertible Noteで2.5m$の資金調達を行っているようであるが、通常、このデジタルヘルスケアの領域であればエクイティファイナンスで10m$を超える資金調達はごく普通の水準だ。
つまり、まだ同社の技術開発の結果は投資家を納得させるレベルまで到達しておらず、引き続き開発が必要である可能性もある。こうした点は同社を見る上で差し引いてみていく必要があるだろう。
2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。
参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~
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