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【特集】Swiss Technology Award2020が発表 今年の注目のスイスベンチャー

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スイスは世界の中でもイノベーションへの投資に積極的であり、生産性の高い国として知られている。例えば、フランスのビジネススクールINSEAD、コーネル大学、および世界知的所有権機関によって毎年公開されているグローバルイノベーションインデックスでは、スイスは毎年世界1位となっている。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH)とスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)という世界レベルの工科大学の技術力を背景に、様々なスピンオフベンチャーも生まれている。

Swiss Technology Award2020を見ることで、今がホットなイノベーションを生み出すスイススタートアップを垣間見ることができる。今回はこのアワードとその受賞企業を見ていこう。

Swiss Technology Award2020とは?

Swiss Technology Awardは、スイスにおけるイノベーションと技術移転の最も重要で権威のある賞となっており、毎年開催されている。この取り組みは2008年にスイス経済フォーラムAGから引き継がれ、スイスイノベーションフォーラムで実施されている。2020で32回目の受賞となる。

アワードの対象は、発明者(主に大学や研究機関)、新興企業(ベンチャー)、イノベーションリーダー(大手企業)だ。

陪審員は錚々たるメンバーが並ぶ。

  • ETHチューリッヒ技術マーケティング部長
  • ETHチューリッヒ技術移転ユニット長
  • スイスバイオテクノロジー協会会長
  • スイス連邦知的財産庁副局長
  • スイスポストAGイノベーション責任者
  • パウルシェラー研究所技術移転責任者
  • ABB Schweiz AG、R&Dトラクションのグローバルヘッド
  • スイス連邦エネルギー局(SFOE)エネルギー研究責任者 等

ファイナリストに選出されたベンチャー企業は?

今回、ファイナリストに選出された企業や研究者は以下となっている。それぞれ概要を紹介していこう。

化学・素材

BLOOM BIORENEWABLES(リグニンとミセルロースの高効率精製)

EPFLのスピンオフ企業である。従来化学品原料としては使われてこなかった植物由来のリグニンとミセルロースの高効率精製技術を開発。燃料、香料、材料、プラスチック、繊維などの市場で、持続可能でコスト競争力のある石油由来の代替品を製造するためのソリューションの展開を目指している。

COMPPAIR TECHNOLOGIES(自己修復プリプレグ)

EPFLのスピンオフ企業である。EPFLの先端複合材料処理研究所(LPAC)で12年前に始まったこの自己修復複合材料に関する研究は、同社により現在実用化に向けて開発されている。同社はスマートプリプレグと表現しており、自己修復能力を持っている。事例としてガラステキスタイルベースのコンポジットで、衝撃損傷部位を3分で自己修復する様子が公開されている。

GIVAUDAN(ゼロカーボンで100%自然由来のフレグランス成分精製)

フレーバーとフレグランスを製造するグローバル大手化学企業の技術が受賞。Ambrofix®は、最も広く使用されている生分解性フレグランス成分の1つであり、現在、新しい画期的な技術を使用して製造されている。これは砂糖ルートを介してAmbrofix®を製造するプロセスとなっており、100%自然由来でゼロカーボンを実現する。

HEIQ MATERIALS(抗ウイルス・抗菌テキスタイル)

ETHチューリッヒのスピンオフ企業である。HeiQは米国、スイス、オーストラリアで年間35,000トンの生産能力を持ち、世界60か国以上で特殊化学製品を供給している。今回は、抗ウイルス・抗菌テキスタイルでの受賞となっている。同社によると、あらゆる布地を抗ウイルス剤に変える能力とされており、COVID-19に対して有効であることが証明された繊維技術とのこと。これは、ETHチューリッヒとEPFL、FHWL(スイス北西部応用科学大学)、およびHEIQの産学連携により開発されたものでもある。

医療機器・バイオ治療

HEMOTUNE(敗血症治療のための血液浄化技術)

ETHチューリッヒのスピンオフ企業である。ナノエンジニアリングで設計された磁気ビーズによる破壊的な血液浄化技術を開発している。目標は、血液から直接複数の重要な化合物を選択的に除去することにより、敗血症の免疫バランスを回復し、患者の転帰を改善すること。

ANAVO(創傷治癒のための無機ハイブリッド材料)

ETHチューリッヒのスピンオフ企業である。創傷治癒能力のある無機ハイブリッド材料を開発している。複雑な生物学的製品またはプロセスに基づく現在のソリューションとは異なる、大規模に生産できる安価な材料を使用することで、プロトタイプは組織に強く付着して出血を止めるだけでなく、抗菌、抗炎症、組織再生の特性も備えるという。

TOLREMO(ガン腫瘍を治療する小分子阻害剤)

ETHチューリッヒのスピンオフ企業である。抗がん剤耐性を予防し、侵攻性腫瘍を治療するための新しいアプローチを追求する前臨床段階のバイオテクノロジー企業。ETHチューリッヒから2017年に設立された同社は、独自の技術プラットフォームを使用して、癌細胞で異常に発現する遺伝子調節プログラムを標的とする小分子阻害剤を開発している。

ロボティクス

SCHINDLER(エレベーター施行向け自律型ロボット)

シンドラーはエレベーター、エスカレーター、動く歩道を提供するグローバル大手企業。今回、シンドラーは革新的なエレベーター用ロボット設置システム(Schindler RISE)を開発。これはエレベーター設置の際に使うもので、Schindler RISEは、エレベータシャフトを登り、コンクリートに正確に穴を開けてエレベータ固定用のアンカーボルトを設定する自律型ロボットとなっている。これにより、建設現場の安全性、品質、速度が向上する。

VOLIRO(非破壊検査用ドローン)

ETHチューリッヒスピンオフであり、Wyss Zurich(ETHとEPFLの共同アクセラレーター)プロジェクトで支援されている企業。全方向飛行検査ロボットを開発するための学生フォーカスプロジェクトとして、2016年にETHチューリッヒのAutonomous Systems Lab(ASL)で始まった。厚さ測定用の超音波検査(UT)、ドライフィルム厚さ(DFT)測定、パルス渦電流(PEC)センサーによる鉄筋コンクリート検査などの非破壊検査(NDT)アプリケーションで使用可能なドローンである。


以上が今年のファイナリストであった。見ていただくとわかる通り、ETHかEPFLのスピンオフ企業ばかりである。スイスは特にバイオテクノロジーやロボティクスが強く、産学が密接に連携して技術が事業化される。

今後、ETHやEPFLについてもより詳細に取り上げていき、スイスのイノベーションが生まれる構造にも焦点をあてていきたい。

  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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