【特集】デジタルヘルスケア領域のベンチマークとして重要な米国FDAについての解説
デジタルヘルスケア領域において、米国FDAは大手企業からベンチャー企業まで、FDA認可を取得することは事業展開上、非常に重要なターニングポイントとなる。多くのデジタルヘルスケアの企業がFDAのクラス2の認可を取得しようとして様々な臨床試験や研究に投資をする。
こうした領域は普段、医療機器などを扱う企業でなければわかりにくい。一方で、デジタルヘルスケアの領域で近年新規事業を検討する企業が増えている。そうした際に、新規事業の観点でFDAを解説している情報は多くない。
今回は、米国FDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局)とデジタルヘルスケアにおける医療機器認可についての概要を説明する。
米国FDA(アメリカ食品医薬品局)とは?
FDAは日本の厚生労働省に近い機能を持ち、人間および動物用医薬品、バイオ製品、医療機器、食品等の安全性や有効性を評価する機関である。
FDAの中で新薬や医療機器の承認審査を主に担当する組織はCDER(Center for Drug Evaluation and Research)と呼ばれており、アメリカで医薬品や医療機器を販売するためには、このCDER(FDA)の承認を取得する必要がある。
医療機器認定のクラス
FDAは約1,700種ある医療機器を歯科、心臓・循環器科、放射線科、免疫学関係等、16の医療専門分野 (medical specialty panels)に分類し、さらに患者や機器使用者に影響を及ぼす可能性のあるリスクの程度によって3クラス(Class I、II、III)に分けている。
ClassⅠ:一般医療機器
不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるもの。
例)体外診断用機器、医療用ガーゼ、歯科用印象材料等
ClassⅡ:管理医療機器
不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが比較的低いと考えられるもの。
例)血圧測定デバイス、低侵襲血糖値測定デバイス、心電モニタリングデバイス、超音波血流計等
なお、ClassⅡは新しい医療機器であるか、既存の医療機器に類似のものがあるかで承認の形式が変わり、新しい医療機器である場合は市販前承認(PMA)と言われ、入念な治験が必要とされる。既存の医療機器に類似のものがある場合は、市販前届け出(510k)が必要となり、これは既存の医療機器の性能や安全性と比較して承認が判断される。
最近はハードウェアだけでなくソフトウェア・アルゴリズムなどもClassⅡの認可の対象となっている。
ClassⅢ:高度管理医療機器
不具合が生じた場合、人体へのリスクが比較的高いと考えられるもの。及び患者への侵襲性が高く、不具合が起こる場合に生命の危険に直結する恐れがあるもの。
例)植込み型心臓ペースメーカーなど
特に、デジタルヘルスケアでよく登場するのがFDAのClassⅡの認可だ。今や欧米イスラエルを中心とするデジタルヘルスケアベンチャーは、FDAでClassⅡの認可を取るべく臨床試験を行い申請を行っている。
FDAの認可を取得することで、米国という巨大市場での販売が可能になること、またFDAで認可を受けているということがステータスとなり、信頼性が高いものとして世界の市場でみなされるからだ。
FDAもデジタル技術によるイノベーション推進には積極的な傾向
FDAは2020年9月にデジタルヘルスセンターオブエクセレンスの設立を発表した。
モバイルデバイス技術やソフトウェア技術、ウェアラブル技術などのデジタルヘルス技術の発展に向けた重要なステップとして位置付けており、FDAの同センター自身もソフトウェアエンジニア、人工知能と機械学習のエンジニア、セキュリティ研究者、UI/UXのデザイナー、プロダクトマネージャーを人材として募集している。
デジタル技術を理解する人材を内部に抱え、イノベーションを促進する実践的な部門となることがうかがえる。
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FDA Breakthrough Devices Programとは
日本から新しいデジタルヘルスケア領域の技術をベンチマークする上で、近年重要性を増しているのがFDA Breakthrough Devices Program(BDP)だ。
これは2016年12月から開始したスキームで、いわゆるFDA認定を取得する前に、FDAが有望なデバイスに対してBDPの認定を行い、FDA認定を取得するためのサポートを行うプログラムとなっている。対象は「生命を脅かす、または不可逆的に衰弱させる疾患または状態のより効果的な治療または診断を提供する、特定の医療機器およびデバイス主導の組み合わせ製品」だ。
サポートというのは、デバイス開発企業がFDAの専門家と対話する機会を提供され、市販前レビュー段階で発生した論点に効率的に対処することができるようになる。デバイス開発企業はFDAからフィードバックを受け取り、医療機器認定に向けた必要事項についてタイムリーに特定できる。また、デバイス開発企業は、FDAの医療機器認定のプロセスにおいて、提出物の優先レビューを期待することもできる。
実はこのBDPは、開始後から近年認定されるデバイスが急速に増えている。2020年5月の時点で、累積で300近いデバイスに対して、BDPの認定を与えたとされる。
例えば、近年BDPの認定を受けているデバイスは以下のようなものがある。
- Spiderwort(カナダ:再生医療用生体バイオ素材)
- Neurolief(イスラエル:うつ病治療ヘッドセットウェアラブル)
- Noctrix Health(米国:あむずむず脚症候群治療ウェアラブル)
- Salvia Bioelectronics(オランダ:慢性片頭痛治療の埋め込み型神経刺激システム)
- EOFlow(韓国:ウェアラブル自動インスリンデリバリーシステム)
- Neuroem Therapeutics(米国:アルツハイマー治療の経頭蓋電磁ウェアラブル)
- Dascena(米国:ウェアラブル生体データ解析AIによる敗血症等の発症予測)
- Mojo Vision(米国:AR機能を組み込んだスマートコンタクトレンズ)
- Eko Devices(米国:ECG解析AIを組み込んだ聴診器)
- PyrAmes(米国:カフレス血圧モニタリングウェアラブル)
こうしたBDPが認可したデバイスというのはリストとして公開されていない。各企業によってBDPのリストに認定されかどうかを公開するかどうか委ねられている。
デジタルヘルスケア領域において、実際にクラス2の認可を取得するのは時間軸も長くなることも多く、ハードルが高い。このBDPはまさにFDAの認可を得る手前にある、有望な可能性のある技術と言えるだろう。
こうした動向をベンチマークすることは、技術トレンドを把握する上で有効な1つの手段となる。
2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。
参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~
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