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高い柔軟性を持つソフトグリッパーを開発する米国ベンチャーSoft Robotics

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もう何年も前から、ソフトロボティクスの領域が注目されている。従来、ロボットには力強く、精密な動きが求められてきたが、ソフトロボティクスというのは柔軟さの概念を加え、形が決まっていないものや柔らかいものを掴むことを実現する。

そうした高い柔軟性を持つソフトグリッパーを開発しているのが米国ベンチャー企業のSoft Roboticsだ。

米国ベンチャーのSoft Roboticsとは?

Soft Roboticsは2013年に米国マサチューセッツ州ボストンで設立されたベンチャー企業。ハーバード大学のWhitesides Research Groupのメンバーが、タコがどれだけ物を上手くつかむことができるか、ということに着想を得て開発したという。

同社は独自の空気で満たされた柔らかいプラスチック設計によるソフトハンド・3D知覚・AIを組み合わせることにより、形状が可変し、不規則で、繊細な物を人間の手のように高い精度とスピードで掴むことができるピッキングソリューションを開発している。

こうした分野は従来のロボットハンドでは自動制御で掴むことが難しく、自動化ができていなかった。

https://www.youtube.com/watch?v=4HVSr3ouCdk
同社公開のYoutubeへの直リンク

用途は食品・小売り・医療機器・プラスチック等幅広い

同社が対象としている用途は非常に幅広い。消費者向け商品、小売、食品・飲料、医薬品・医療機器、プラスチック・金属、など広範な産業を、同じソフトグリッパーのツールでカバーすることができる。

画像クレジット:Soft Robotics

興味深いユースケースとして、小売業向けのポリバッグピッキングがある。ドイツの小売企業は、返品された物を再販のために在庫に戻す作業で苦労していたという。特に近年Eコマースが拡大するも、こうした分野は返品率はある程度高いため、再在庫業務が数多く発生する。通常は返品を受け取った後に検査し、ポリバッグに入れ、バーコードを付けて返送することになるが、これを全て人手で行っていた。Soft Roboticsはこのすべりやすく反射性のあるポリバッグを掴み、バーコードを読み取るまでの一連の流れを自動化することに成功した。

現在はシリーズBが完了しているフェーズ

同社は直近では2020年1月にシリーズBを実施し、23m$もの資金を調達した。これまでに調達した資金の総額は48m$となる。

同社に投資をするのはMaterial Impact FundやHyperplane Venture Capital、Scale Venture PartnersなどのVCに加え、ABBやFANUCなどの事業会社や、Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley、Honeywell Venture CapitalなどのCVCまで幅広い。


ー 技術アナリストの目 -
こうしたソフトロボティクスを扱うベンチャー企業というのは数が多くなく、中でも同社は先行するベンチャー企業として有名である。シリーズB調達時に象徴的なユースケースとしてのリバースロジスティクス(返品対応)でマネタイズができるかが短期的なポイントになりそうだ。一点直近の懸念は、シリーズB時にCEOであったCarl Vause氏が、現在同社のウェブサイトにあるExecutive Teamにおらず、現在はExecutive ChairmanとCOOの2名しか掲載されていないことか。ベンチャー企業でよくあるのはシリーズAやBで大きめの資金を調達し、成長に向けてアクセルを踏むも、想定以上に市場が開拓できず、経営陣で揉めるケースだ。同社の直近の状況は不明だが、こうした視点でも今後を注視したい。

  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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