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ドイツの核融合スタートアップ、Marvel FusionがシリーズBで総額185億円を調達。Siemens系などが投資

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ドイツの核融合スタートアップであるMarvel Fusionは2025年3月27日、シリーズB資金調達ラウンドを延長すると発表。追加調達額は€50m(約82億円、約$54m)で、シリーズBの合計は€113m(約185億円、$123m)となる。すでに対応を決めた投資家の実名をMarvel Fusionは挙げており(後述)、延長ラウンドは成功したものと見られる。

Marvel Fusionは2019年、CEOのMoritz von der Linden氏、CTOのGeorg Korn氏らによって共同創業したスタートアップだ。

慣性閉じ込め方式で使うレーザーはノーベル物理学賞受賞の技術で生成

2025年3月は、初頭に同じ欧州の核融合スタートアップであるRenaissance Fusion(フランス)より、シリーズAでの€32m(約51億円、約$34m)確保の発表があった。

参考記事:磁場閉じ込め方式核融合開発のRenaissance Fusionが51億円を調達。シリーズA最初のクローズ、メガバンク系ファンドが主導

核融合には2つの方式がある。Renaissance Fusionや、世界各国が協力し開発が進められる核融合実験炉「ITER」などは、磁場閉じ込め方式と呼ばれるものだ。これは、プラズマの中で核融合を起こすものである。

そして、Marvel Fusionが開発するのは、もう一方の慣性閉じ込め方式。レーザーを用い、核燃料を加熱する。

Marvel Fusionの説明を元に技術を見ていくと、まずレーザーを10億分の1秒単位で生成。多数のレーザーが向かう先は、ロッドと個体核燃料だ。ロッドはレーザーの入り口の役割を果たす材料で、レーザーが当たることで原子核となり、原子核のエネルギーが核燃料に達すると核融合反応が起きる。核融合のエネルギーは、直接的に電気へと変換される。

使用する核燃料は、ホウ素11。レーザーの技術のオリジナルとなっているのは、Gérard Mourou氏とDonna Strickland氏が考案した「高強度の超短光パルスを生成する方法」だ。Mourou氏とStrickland氏は、この功績により2018年、ノーベル物理学賞を受章している。

Marvel Fusionは2024年10月、米コロラド州立大学内に「ATLAS」というレーザー施設を着工。施設内には3台のレーザーを配置し、1台をコロラド州立大学、残りをMarvel Fusionが開発する。また、費用は米政府が$28m(約42億円)を負担、その他に必要となる部分をMarvel Fusion、コロラド州立大学がそれぞれ負担する。

大規模投資の背景には地政学的影響も

シリーズBの延長ラウンドには、新規投資家としてSiemens Energyのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるSiemens Energy Venturesや欧州イノベーション委員会(EIC)が対応。他、ベンチャーキャピタル(VC)が応じている。

資金は、「産業展開への準備」に使うとしている。Marvel Fusionは背景として、ロシアのウクライナ侵攻など地政学的緊張が高まる中、エネルギーの輸入依存低下が求められていることを指摘。そして、欧州連合(EU)の内閣に当たる欧州委員会が核融合を「もはや研究対象ではない」とした上で「産業上の課題」と位置付けた点が、比較的大規模な投資につながったとしている。

CEOのvon der Linden氏は、「世界初の核融合プロトタイプの構築に必要なマイルストーンを達成するため、必要な財務・運用上の支援が得られた」と、投資家に謝辞を送った。




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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