欧米4大学が共同で研究する偏光を利用した非侵襲グルコースモニタリングデバイス
非侵襲グルコースモニタリングは、先日のCESでも日本のクォンタムオペレーションが発表をして話題になったが、海外で「聖杯」と呼ばれるように、数多くの企業や研究者が挑んでいるがまだ実用化できていない。
米国FDAの認可が出るまでは本当に破壊的なことの証明ができないため、どの技術が突破するのか、有望そうな技術をモニタリングし続ける必要がある。
今回は、非侵襲グルコースモニタリングで良い結果が出たとSENSYS2020で発表があった、欧米4大学が共同研究を行っている研究について紹介する。
ダートマス大学のAugmented Health Labが中心の研究
この研究を主導しているのは、米国ダートマス大学のAugmented Health Labだ。そして、共同研究先はマサチューセッツ大学アマースト校、コロラド大学ボルダー校、英国オックスフォード大学という、欧米4大学によるもの。
ちなみに、この米国ダートマス大学のAugmented Health Labは大変興味深い研究ラボである。現在の研究プロジェクトは、糖尿病のデジタル管理、非侵襲グルコースセンシング、脳機能のモバイルセンシング、摂食行動を解析するウェアラブル、COVID-19の発生率に関する研究などがある。ヘルスケアとコンピューターサイエンスを組み合わせた研究室となっている。
偏光を利用する非侵襲グルコースセンシング
今回、SENSYS2020で発表のあったこの研究では、体内のグルコース濃度をセンシングするために、偏光を利用する。これは、日本でも一部で研究されている手法である。
よくあるアプローチとしては、ラマン分光や赤外分光が挙げられる。ラマン分光では光源から対象物に光をあてたときに起こる「光の散乱」を見て、赤外分光では「光の吸収」を見る。
そして今回利用している現象は「偏光」である。グルコースなどの糖は光学活性物質と言われ、グルコースを含む溶液に偏光を通すと偏光面が回転する現象がみられる。この現象を「旋光(optical rotation)」と言い、このラボで使っている検出方法は、こうした微小な旋光を読み取ることでグルコース濃度を計算するものだ。
しかし、この方法においては、旋光度を検知することに結び付く反射光のごく一部を識別する必要があるのと、皮膚のコラーゲンなどの体内物質によっても旋光現象が起きるため、体内を対象にして正確な計測を行うのは非常に難しいとされてきた。
50人のテストで89%が臨床的に正確なゾーンAに入る良結果
今回、ダートマス大学と他3研究室が共同で発表した論文では、上記で触れた点がチャレンジであると言及しつつ、コンパクト(17cm×10cm×5cm)で低コスト(つまり、250ドル未満)のプロトタイプを製作し、作成したアルゴリズムによって、41人の糖尿病患者と9人の健康な参加者を対象に臨床試験を行っている。
結果としては、クラークエラーグリッド(※)のゾーンA(臨床的に正確)内89%のデータが入っており、残りの11%はゾーンB(臨床的に許容)に入っており、現在のFDA認定のグルコースモニタリングに近い精度が出たという。
※(補足)クラークエラーグリッドとは、血中グルコースの推定値の臨床的正確さを、基準測定器において得られた血中グルコース値と比較して評価する手法で、1987年に開発されたもの。Aゾーンと言われる臨床的に正確である範囲に95%のデータが入っていることが要求される。ただし、この手法は近年ではより厳しくするべきという流れがあり、大まかにはAゾーンではこれまで正解データに対して±20%以内の誤差であることが95%のデータに要求されていたが、米国FDAは基準を改定し、現在ではAゾーンでは±15%以内であることが求められる(参考:FDAの家庭用血糖値モニタのガイドラインはこちら)。なお、今回の研究では±20%で判定しているようだ。
これは大変興味深い結果である。なぜならば、今回の研究で示された技術は、一般的なセンサ・デバイスを使ったもので、かつキャリブレーションが不要であり、よりスケーラブルなアプローチであるにも関わらず、ある程度の精度を達成したためだ。(多くのデバイスでは測定精度の安定性を高めるために、利用時にはキャリブレーションが求められる)
同研究室では今後、臨床試験の対象数を増やし、より大規模な調査を行うとしている。
(同研究内容の情報はこちら)
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