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フォルクスワーゲンが2030年までの電池ロードマップを公開、さらにEVを強化へ

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Volkswagenは3月15日に開催した「Power Day」で2030年までの電池ロードマップを公開した。非常に野心的な内容となった今回の発表であるが、Volkswagenがさらに電動化に注力する内容が描かれている。今回はVolkswagenの発表内容をレビューしよう。

Power Dayの4つのポイント

筆者から見た今回の発表内容のポイントは以下となる。

ポイント1. バッテリーの開発戦略 ~セル標準化と複数ポートフォリオ~
 ・Unified Cell(統合セル)というセル設計の標準化
 ・セグメントに応じてセルを分ける戦略
 ・全固体電池は高速充電性能をアピール(実用化時期は触れていない)

ポイント2. バッテリー調達の安定化
 ・6つのギガファクトリーへの大規模投資で合計240GWhへ

ポイント3. 原材料調達の安定化
 ・原材料リサイクルが最大95%可能な技術の開発
 ・コバルトフリー正極材の採用

ポイント4. 充電インフラの拡張
 ・現行の5倍となる18,000充電ポイントへの拡充を自ら牽引

それでは1つ1つ見ていこう。

バッテリーの開発戦略 ~セル標準化と複数ポートフォリオ~

2023年から始まる統合セルの搭載

電気自動車の普及において大きな課題の1つとなっているのが「バッテリーの低コスト化」である。今回、その低コスト化に対して1つの解決策を提示したことになるのが、統合セル(Unified Cell)と表現されていた、セル設計の標準化だ。

これは、従来車種ごとによってバッテリーのセルやモジュールは設計が異なっており、非効率であったものを、セル設計を標準化し、フォルクスワーゲンの電気自動車の大部分に共通化されたセルを使うことで、量産効果によりコスト低減を図るもの。

具体的には、2023年からこの統合セルの量産を開始し、2030年までにフォルクスワーゲンの電気自動車の80%にこの統合セルを搭載し、20%はカスタマイズされたセルを使う目標であるという。

(補足)フォルクスワーゲンは以前から電動化戦略の柱として電動化車両のプラットフォーム(MEB:Modular electric drive matrix)を導入している。元々の背景として、フォルクスワーゲンは内燃機関から電動化へシフトする中で、ボリュームゾーンセグメントへの普及には価格が課題になると認識しており、車両を標準化することでコストを低減する狙いがあった。このMEBはパートナーシップベースで他社にも展開されており、同社の言葉を借りると「目的は、MEBとそれに関連する規模の経済を可能な限り広く展開することで、e-モビリティのコストを大幅に削減し、個々のモビリティへの幅広いアクセスを今後も継続できるようにすることです。」1)という。今回のセル標準化も、こうした発想に近いものとなっており、戦略の考え方は同じである。

グレードによってセルで使う材料を分けるポートフォリオ戦略

同社は今回の発表で、車種のグレードを3つに分け、グレードによって使うセルを分けるセルのポートフォリオ戦略も取っている。

エントリーモデルでは、正極材はLFPでコストを低減

価格を抑えるエントリーモデルにおいては、正極材にはLFP(リン酸鉄リチウム)を使う。LFPは近年急速に注目を集めており、昨年にテスラが中国で生産しているモデル3車種にCATL製のLFPバッテリーセルを活用したことで話題になった2)

LFPはコバルトといった高価なレアメタルを使う従来のNMCに比べてエネルギー密度が低いが、コストも低減することができる。近年、エネルギー密度は改善していると言われており、今回フォルクスワーゲンのエントリーモデルでも使われることになったようだ。実際に今回のプレゼンの中でも、「LFPに変えることは大きなコスト面の長所と、わずかな航続距離の短所となる」と触れている。

標準モデルでは、正極材は直近はNMC、将来はコバルトフリーのハイニッケルへ

標準モデルでは、正極材には従来の延長線上となるNMC(Nickel-Manganese-Cobalt)を使う。

(補足)特に触れられていなかったが、恐らく同社の以前のロードマップにあるようにNMC811となると想定。

そして将来的には、コストが高く、原材料の安定調達にも関わるレアメタルのコバルトを使わない、ハイニッケルのNM(Nickel-Manganese)にすることを狙う。

(補足)ニッケル系正極材は、三元系のNMCに比べて容量密度を高くすることができる一方で、サイクル寿命および熱安定性に課題があるとされている。

負極材は合成黒鉛+シリコンを活用

負極材については、電池容量を10%改善するとともに充電性能を改善するために、合成黒鉛にシリコンを混ぜたものを使う。これはすでにアウディの新型e-tronで使われており、フォルクスワーゲン全体の統合セルでも採用されることになる。

なお、負極材にシリコンを使う流れは以下の記事も参考。

参考:シリコン負極のLIBベンチャーEnovixがSPACで上場
参考:リチウムイオン電池向を大きく改善する可能性を秘めたシリコン負極材を開発するSILA Nanotechnologies

これらの対策により電池のコスト低減効果は最大50%

この統合セルの量産によるコスト低減効果と、各セグメントにおけるセル設計の工夫により、エントリーレベル向けの電池で最大50%、標準モデル向けの電池で最大30%のバッテリーコスト低減を目標としている。

画像クレジット:Volkswagen

全固体電池は高速充電性能をアピール(実用化時期は触れていない)

全固体電池については、大きくは触れられてはいなかったが、QuantumScapeとの共同開発についてのアピールと、特に充電時間が短くなる点が強調されていた。

同社の発表によると、450kmの航続距離の電池の場合、全固体電池にすることでフル充電に必要な時間は現行で25分、2025年までに17分へと縮め、2025年以降に12分にするという目標を発表した。発表の中でも強調されていたのは、PoC(Proof of concept:原理検証)レベルでは、すでに12分での充電が検証されているということであった。

バッテリー調達の安定化 ~6つのギガファクトリー240GWh~

数年前に欧州勢が電気自動車の野心的な計画を発表してから、市場が急速に立ち上がると電池の供給が追い付かなくなるのではないか、という懸念はこの業界で議論されていたことだ。最近車載向けの半導体が供給不足になっているという話も似た話であるが、バッテリー調達の安定化もEVメーカーにとっては重要なテーマとなっている。

今回、フォルクスワーゲンは「パートナーと協力して、2030年までにヨーロッパで合計6つのセル工場を稼働させ、供給の安全性を保証したいと考えています。」と述べている。その合計のキャパシティは240GWhとなっている。

画像クレジット:Volkswagen

これは、同社が今回発表の中で触れていた「ローカライゼーション戦略」の一環だという。フォルクスワーゲンの欧州市場における需要だけで240GWh必要になると考えており、それを地産地消で欧州で生産する。

最初の2つの工場は、スウェーデンで操業し、需要の増加に応じて、バッテリーメーカーのNorthvoltと協力してプレミアムセルの生産も行う。これらのセルの生産は2023年に開始される予定であり、最大40GWhの年間容量まで徐々に拡張されていく。

原材料調達の安定化 ~原材料95%リサイクル~

フォルクスワーゲンは合わせて、湿式精錬のリサイクル技術を開発したと発表。最大95%までの原材料をリサイクルすることができるという。(なお、100%ではないのは、セパレーターのみリサイクルすることができないようである)

画像クレジット:Volkswagen

これにより、コスト低減を図ることができ、環境に配慮されたクローズドループを形成することができるとしている。

(補足)特に現在正極材のNMCで使われているレアメタルのコバルトは、価格が高騰していることもあるが、その産出のほとんどをコンゴ共和国に頼っており、子供による採掘などの社会問題となっている。

充電インフラの拡充 ~欧州は現状の5倍へ~

電気自動車の普及において重要課題の1つが充電インフラの問題であるが、フォルクスワーゲンは自らこの充電インフラネットワークを、パートナー企業のBP、Iberdrola、Enelらとともに従来の5倍に拡充するという目標を掲げた。具体的には2025年までに欧州の高速充電ポイントを18,000か所にする。これは欧州の総需要の1/3にあたると見込んでいる。

画像クレジット:Volkswagen

また、高速充電として150kWhのチャージポイントの拡充に力を入れるようであり、2025年までに欧州で約4億ユーロ(約500億円)を投資するという。

まとめ

今回の発表内容は、電気自動車の普及に対して、バッテリーの低コスト化、航続距離向上、原材料やバッテリー調達の安定化、充電ネットワークインフラの拡充、という主要な課題を自社自らが大規模に投資をして、社会実装を牽引するという強い意志が見えるものであった。

今回出したロードマップは他社と比較しても非常に具体的なものであり、この経営のコミットメントはさすがVolkswagenであると感じざるを得ない内容となっている。

またセルの内製化に本格的に力を入れていることが明らかになったことも重要な点だ。電気自動車においてバッテリーセルは非常に重要なコンポーネントであり、電池メーカーではなく自社が主導するということを改めて宣言した形となる。電気自動車の競争力の核は自社で開発を主導し、パッケージは他社に任せるという、バリューチェーンのどこを自社で手掛けるか、という戦略がはっきりしているのも今回発表の興味深い点であった。


参考文献:

1) Volkswagen opens electric platform to third-parties, Volkswagen

2) テスラが中国製「モデル3」値下げ、CATL電池でコスト低減, Bloomberg

  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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