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バイデン政権によるEV充電インフラ法案の内容と、今後の動向

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世界的にEV(電気自動車)の普及が急速に拡大している。

国際エネルギー機関(IEA)が発表した、「Global EV Outlook 2022」によれば、2021年の全世界のEV販売台数(PHVを含む)は前年比2倍の660万台となり、過去最高の販売台数となった。

国別の販売台数としては、中国が330万台、欧州が230万台、米国が63万台となっており、中国や欧州に比べると、米国がEV販売台数に遅れを取っている印象である。

そんな中、2021年11月5日に米連邦議会下院で、総額1兆ドル(約113兆円)規模のインフラ投資法案が可決した。

同法案の中には、電気自動車のEV充電インフラネットワークの建設に75億ドル(約1兆250億円)の巨額投資を行うという内容のEV充電インフラ法案が含まれている。

これは、米国におけるEV充電インフラネットワークに対する史上最高の投資額であり、米バイデン政権が推し進める、米国内のEV普及を後押しするものとして注目を集めている。

今回は、世界中で話題となっているバイデン政権によるEV充電インフラ法案について、具体的な内容から、成立に至るまでの背景、今後の動向などについて詳しく説明していく。

EV充電インフラ法案とは

EV充電インフラ法案は、2021年11月5日に米議会下院で可決した、インフラ投資雇用法の中に含まれる、EV充電施設設置を目的としたEV充電プログラムである。

総予算は75億ドルであり、米国におけるEV充電インフラに対する史上最高の投資として注目されている法案だ。

EV充電インフラ法案の予算の内訳としては、50億ドルが州間高速道路へのEV充電施設設置(NEVIフォーミュラプログラム)に、25億ドルが一般道路へのEV充電施設に使われ、2030年までに全米で約50万基のEV充電器を設置する計画だ。

EV充電インフラ法案成立の背景

EV充電インフラ法案という巨額投資を成立させた背景には、バイデン政権が2021年1月20日の発足以降推し進める、EV普及に向けた積極的な取り組みがある。

バイデン大統領は、政権発足初日に、トランプ政権時代に離脱した地球温暖化防止の国際枠組みである「パリ協定」へ復帰を決めるなど、環境政策を大きく転換させた。

「パリ協定」で掲げられている「産業革命前からの平均気温上昇幅を2℃未満とし、1.5℃に「抑えるように努力する」という目標を達成するためには、遅くとも、2050年までにカーボンニュートラル(排出量実質ゼロ)を目指す必要がある。

2021年4月に、バイデン大統領は、2030年までに二酸化炭素排出量を2005年比で50〜52%削減すること、そして2050年にはカーボンニュートラルを目指すと発表。

バイデン政権は、2050年のカーボンニュートラルに向け、バイデン政権は、米国のEVの普及を加速させていきたい狙いだ。

米国のEV普及を妨げる、EV充電インフラの不足と悪循環

2021年8月5日に、バイデン大統領は、「2030年に米国で販売される全車両のうち50%をEVにする」という目標を盛り込んだ大統領令に署名した。

ここでEVとは、具体的にBEV(バッテリー電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)のことを指している。

この目標を達成させるために重要になってくるのが、自動車会社がガソリン車からEV製造へ切り替えるに足るメリットを作り出すことだ。

なぜなら、この目標には法的拘束力がないからである。

2020年の米国のEVの新車販売台数は全体の約1.8%であり、この規模のシェアでは、自動車会社がEV車製造に大きくシフトすることは到底無理な話だ。

また、同様の理由でEV充電施設運営を行う事業者がEV充電施設を増やしていくにも限界がある。

このように、米国におけるEV市場は、「EV充電施設が増えないから、EV車の需要が少なく、自動車会社もガソリン車からEV車に切り替えができない、だからEV充電施設も増えない」という悪循環に陥ってしまっていたのだ。

実際に、米国のEV充電インフラの拡充はEV先進国の中国や欧州に比べて大きく遅れを取っている。

国際エネルギー機関(IEA)が発表した、「Global EV Outlook 2022」(※1)によれば、中国や欧州に比べ、EV充電インフラの数は低速充電ポート数、高速充電ポート数、の数や伸び率で劣っていることが分かる。

世界の高速充電ポート設置数の推移

出典:Global EV Outlook 2022

世界の低速充電ポート設置数の推移

出典:Global EV Outlook 2022

また、EV普及率においても、米国のEV普及率自体は伸びてはいるが、少なくとも現時点においては、欧州や中国と比べると、やや遅れを取っている状況である(※2)。

電気自動車の世界販売および販売市場シェア

出典:Global EV Outlook 2022

このような悪循環を断ち切って、2030年の目標を達成するためには、バイデン政権は何としてもEV充電インフラの拡充を急ぐ必要があった。

その起爆剤としてバイデン政権が打ち出したのが、EV充電インフラ法案の75億ドルの巨額投資というわけだ。

EV充電インフラ拡充が進まないもう1つの理由:充電規格や料金支払いの複雑さ

米国でEV充電インフラの拡充が進まなかったもう一つの理由が、充電規格や料金の支払い方法などの複雑さである。

簡単に言えば、車種によって充電できるEV充電施設や料金が違っていて不便なのだ。

まず、EVの充電様式は、電力仕様によって次の3つに分かれている。

・レベル1:1時間の充電で3.2〜8km走行可能
・レベル2:1時間の充電で16〜32km走行可能
・DC急速充電:20分の充電で97〜129km走行可能

主にレベル1やレベル2は、自宅や職場での充電、一般道路にある充電施設などに多くみられる充電様式である。

一方でDC急速充電は、ハイウェイや州間高速道路沿いなどに多くみられる仕様だ。

しかし、現在、米国のDC急速充電のコネクター規格は次の4種類に分かれており、それぞれ適応可能な充電様式が異なっている。

・J1772:レベル1・レベル2の充電様式に適用可能
・CSS:DC急速充電に適用可能
・CHAdeMO:DC急速充電に適用可能
・Tesla:テスラ自動車の全ての充電様式に適用可能

つまり、EVの車種によって充電できる施設と、そうでない施設が混在するという不便さが米国内で生まれているのだ。また、料金も充電様式などによって大きく異なる。

前述したが、このようなEV充電施設の使い勝手の悪さや不便さが、米国人がなかなかEVへの切り替えに踏み切れない一因となっていたのだ。

規格の複雑さと不便さが、米国人のEV購入の妨げとなり、米国のEV充電インフラ拡充が進みづらかったと言える。

こういった規格の複雑さや不便さ、料金の違いを是正し、車種にかかわらずEV充電施設を使えるよう整備していかなければEVの普及が増えていかないという課題も、EVインフラ法案成立の背景にある目的の1つだ。

EV充電インフラ法案の具体的な内容

では、ここからEV充電インフラ法案の具体的な内容を見ていこう。

EV充電インフラ法案の具体的な政策は、大きく分けると「州間高速道路へのEV充電インフラ整備(NEVIフォーミュラプログラム)」と「一般道路へのEV充電インフラ整備」の2つである。

投資額の2/3を占めるNEVIフォーミュラプログラム

EVインフラ法の投資額のうち、3分の2を占めるのがNEVIフォーミュラプログラムである。

これは、全米各州の州間高速道路に、EV充電施設の建設を目的とした助成金プログラムであり、期間は2022年から2026年の5年間で、予算総額は約50億円にものぼる。

州間高速道路の中でも、特に政府が指定した道路にEV充電施設を50マイル(約80km)おきに設置し「代替燃料回廊」として整備することに重点が置かれており、この代替燃料回廊を中心として、EV普及をより加速させていきたい狙いが伺える。

2022年6月9日には、連邦高速道路局によりNEVIフォーミュラプログラムの具体的な草案(NPRM)が発表された。

内容には、EV充電施設の建設だけではなく、運用や保守などにおける基準や、車種によるEV充電規格や料金の違いの是正、EV充電施設の設置や保守に関わる技術者の教育などの支援が盛り込まれている。

この内容から、EV充電施設の拡充だけではなく、米国でのEV普及の課題点であった充電規格や料金の違いなどEVに対するユーザーの不便さを抜本的に解消し、自動車メーカーのガソリン車からEV車へのシフトや、業者によるEV充電施設の積極的な設置を促していきたいバイデン政権の狙いを伺い知ることができる。

2022年9月14日には、バイデン大統領がNEVIフォーミュラプログラムにおいて、35の州を対象に2022年〜2023年の助成金の一部である約9億円の投資が承認され、2022年9月27日には、50州とワシントン、プエルトリコへの投資が承認。

NEVIフォーミュラプログラムが開始された。

各州によって2022〜2026年の5年間で割り当てられた予算は異なり、政府指定の重点指定道路が多いテキサス州(4億800万ドル)や、カリフォルニア州(億8,370万ドル)、フロリダ州(1億9,810万ドル)などが高くなっている。

一般道路へのEV充電施設設置

EV充電インフラ法案の総予算の内、25億ドルは、米国内における農村部など歴史的にEV充電インフラ整備が放置されてきた地域への補助金として使われる予定である。

また、NEVIフォーミュラプログラムにおける50億ドルの巨額投資についても、都市部と農村部の両方が整備されたEV充電インフラにアプローチできるように配慮するという方針だ。

このような政府からの投資の恩恵を受けづらい地域について、バイデン政権は、2021年7月にインフラ投資雇用法の一環として、Justice40イニシアチブを発表している。

Justice40イニシアチブは、農村部など歴史的に政府の環境やクリーンエネルギー投資の恩恵を受けづらい地域に、投資で得た利益の40%を少なくとも提供するという取り組みであり、このEVインフラ法案での投資についても、Justice40イニシアチブを達成するよう、バイデン政権は配慮する方針だ。

EV充電インフラ法案による投資と民間投資促進との連携

バイデン政権は、2030年までに全米で販売される新車台数の50%以上をEV化し、2035年には100%をEV化するという目標を掲げており、バイデン大統領はこの目標を盛り込んだ大統領令に2022年12月8日署名している。

この目標を達成するための起爆剤として、EVインフラ法案による巨額投資が決まった訳だが、当然ながらEV充電施設を作ることができる十分な生産能力がなければならない。

そのため、EVインフラ法案は主に各州への投資がメインとなるが、同時にEV充電施設生産に関わる民間企業からの投資も積極的に促している。

2022年6月28日に米国政府により公表されたファクトシート「Biden-⁠Harris Administration Catalyzes more than $700 Million in Private Sector Commitments to Make EV Charging More Affordable and Accessible」(※3)によれば、すでに民間企業のエレクトリファイ・アメリカやシーメンス、ABBイーモビリティー、チャージポイント、フロなどから、充電ネットワークや生産設備の拡充などに対して7億ドル以上の投資を促しているとし、年間25万基以上の生産能力、2,000人を超える雇用を生み出しているそうだ。

このようにEVインフラ法案による巨額投資だけではなく、民間企業からの投資を促すことで、より強固なEV充電ネットワークを構築し、2035年までの100%ゼロエミッション車化を促進したい考えが伺える。

EV充電インフラ法案の今後〜加速する米国EV普及率〜

米国のEV販売の加速は徐々に形となって表れている。

2022年10月3日のモーターインテリジェンスの発表によれば、米国の2022年7〜9月(第3四半期)の新車販売台数のうち、EV(BEV、PHEV、FCVのみ)の販売台数は22万435台で、前年同月比で41.8%増を記録。

また、2022年8月16日に成立した「インフレ削減法」により、EV購入者が次第7,500ドルの税額控除を受けられるということも相まって、今後さらに米国のEV販売台数は伸びていくと考えられる。

ブルームバーグが2022年9月2日に発表した報告書によれば、米国のEV史上は2030年までに全米で販売される新車台数の52%がEVとなると予測。

2030年までにバイデン政権の掲げる目標達成となるか、今後の動向が注目される。


【世界の充電インフラ動向に興味がある方はこちら】

世界の充電インフラに関する技術動向調査、充電インフラの計画動向調査などに興味のある方はこちら。


参考文献:

※1 Trends in charging infrastructure, Global EV Outlook 2022, IEA(リンク)

※2 Global sales and sales market share of electric cars, 2010-2021, IEA(リンク)

※3 FACT SHEET: Biden-⁠Harris Administration Catalyzes more than $700 Million in Private Sector Commitments to Make EV Charging More Affordable and Accessible, THE WHITE HOUSE(リンク)

  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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