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自律型ドローン検査で先行するイスラエルベンチャーPercepto

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2023年6月、自律型ドローン検査を手掛けるイスラエルのベンチャー企業、PerceptoはシリーズCにおいて6700万ドルの資金調達に成功したと発表した。

本記事では、自律型ドローン検査の概要から、Perceptoの詳細について紹介する。

保全・検査に活用される自律型ドローン

自律型ドローン検査とは、自律型ドローンを用いて高所や送電線、倉庫などの外観検査を行うことを指す。

自律型ドローンは人間が操作するドローンとは異なり、ドローンに取り付けたカメラで撮影する画像をもとに、機体の進行方向を自律的に判断することができる。入力された画像データから進行方向を出力できるよう、機械学習やディープラーニングの手法が用いられることが一般的である。

人間が近づかずに撮影ができるため、高所や送電線など人間が撮影することが難しい、あるいは危険な場所の外観検査を容易に行うことができる。このような撮影は人間が操作するドローンでも行えたが、自律型ドローンは操作する人間が不要のため、人員の確保が難しい現場においても検査を行えることが強みである。

GPS信号を利用して、人間が操作せず自動で運転するドローン技術も存在するが、地下などGPSが利用できない場所ではドローンの運転ができない弱みがあった。自律型ドローンは、カメラから取り込む画像をもとに運転するため、GPSを利用できない場所でも運転を行える強みがある。

あらかじめ飛行ルートを設定し、そのルートのみを自動運転させる技術も存在するが、人間や車などが飛行ルートに干渉するといった、環境の変化に弱い面がある。自律型ドローンの場合は、環境変化も含めて学習させることで、環境変化に応じた飛行ルートを選択することが可能である。

以上に述べたように、人工知能及び機械学習手法の発展に伴い、自律型ドローンを用いた自律型ドローン検査は産業界において注目を集めるようになっている。

自律型ドローン検査の適用分野

Perceptoによれば、自律型ドローン検査は以下のような分野に適用することができる。

  • 工場のガス漏れ検知
  • 太陽光発電パネル設置工事
  • 工場の定期修理
  • 工場の検査
  • 工場の遠隔操作
  • モデリング・測定
  • セキュリティ性の向上
  • 緊急事態への対応
  • 環境の監視

ドローンに搭載するカメラの種類を工夫することによって、上記の分野における検査を人間が行うよりも簡便に、効率的に行うことができる。例えば、工場やガスタンクのガス漏れ検知においては、無色透明のガスの場合、人間による外観検査では気づけない可能性もある。Perceptoは、自律型ドローンにガス漏れ検知用赤外線カメラ (OGI: Optical Gas Imaging) を搭載することで、ガス漏れを可視化しいち早く検知することができるとアピールしている。

ドローンを用いた外観検査のみではなく、鉱石の掘削エリアを拡張する前の測量にも威力を発揮する。鉱山や油田など、自然環境に工場や掘削機械を設置する場合、設置エリアがどのような地形をしているか、またその地域特有の気象リスクがないかなど、事前の準備が必要になる。このような測量は人間の力で行うには多大な労力とコストが必要となるが、自律型ドローンを用いて空中から定期的に検査することで、コストの削減と効率的な測量を同時に達成することができる。その場に人間がいなくても測量が可能である。

イスラエルベンチャーPercepto

Perceptoはイスラエルにて、Dor Abuhasira、Ariel Avitan、Sagi Blonder、Raviv Razらによって2014年に設立された。設立から3年後に、最初の商用利用可能なシステムを構築している※1

Perceptoが提供する主力商品は、Drone-in-a-boxと呼ばれる自律型ドローンと、それを用いた無人検査システムである。この無人検査システムはAIM (Autonomous Inspection and Monitoring: 無人調査およびモニタリング) プラットフォームと呼ばれる。AIMは、アメリカTIME誌により2021年にベストイノベーション100に選出された。

https://www.youtube.com/watch?v=XvB5yTJt_wk
Percepto - Harnessing Robotics for Autonomous Inspection

上記のAIM紹介動画内では、自律型ドローンだけではなく、カメラを搭載した歩行型ロボットも組み合わせて工場内を検査する様子がアピールされている。

監視業務を行う人間は、タブレット端末上に表示される工場の航空写真から、画像をチェックしたい場所をワンクリックすることで、ドローン及びロボットが撮影した画像を時系列で確認することができ、効率的に監視業務を行うことができる。

Perceptoの特徴:完成度の高いドローン検査ソリューション

Perceptoの特徴として、多くの技術賞・ビジネス賞を受賞していることが挙げられる。

先述したように、主力商品であるAIMが権威ある雑誌TIME誌に表彰されていることをはじめ、スタートアップ企業やテクノロジーに特化したデータベースであるCB insightsによる”AI Top 100”にも選ばれている。

このことから、ドローン及びAIに関する技術力だけでなく、それらを活用したビジネスモデルも高い評価を受けていると考えられる。

Perceptoについて特筆すべき点として、既に各国の規制をクリアしている点が挙げられる。PerceptoによるBVLOS (Beyond Visual Line of Sight) 運用は、米国FAA (Federal Aviation Administration: アメリカ連邦航空局) により全土での運用が既に認可されている。

ここで、BVLOSとは、ドローンから送信される情報をもとにドローンを運転し、人間の視界を超えた場所でも運転を行うシステムのことであり、自律型ドローンと同様の概念と捉えて差し支えない。

Perceptoは、2021年にFAAからBVLOSに関する規制を作成する委員会に招待されており※1、ルールメイキングにおいてもリーダーシップをとれる立ち位置にいると考えられる。

Perceptoはアメリカだけでなく、ヨーロッパ、オーストラリア、イスラエルなどでも規制をクリアしており、今後も世界各国の規制当局と緊密に連携し、運用の承認を得ていく姿勢を打ち出している。

Perceptoの顧客:石油ガス・鉱山など

Perceptoの公式HPでは、以下のような顧客が紹介されている。

  • Delek US (アメリカ、石油精製)
  • Enel (イタリア、電力・ガス)
  • ICL Dead Sea (イスラエル、鉱石採掘)
  • Koch Fertilizer (アメリカ、肥料)
  • RockBlast (チリ、鉱石採掘)
  • Siemens Energy (ドイツ、石油・ガス)
  • Verizon (アメリカ、電気)

いずれの顧客も、大規模な工場や採掘プラントを所有しており、その検査・メンテナンスの分野でPerceptoの自律型ドローンが活躍している。

一例としてEnelにおけるPerceptoの活用状況を紹介する。ローマ郊外に位置するトッレヴァルダリーガ・ノルド熱電発電所では、従来は生産の最適化、セキュリティの向上のためにリアルタイムモニタリングおよび人間が運転するドローンによる検査を行っており、膨大なメンテナンスコストが発生していた。Perceptoの自律型ドローン検査を導入することで、装置のシャットダウンが起こる前に摩耗や故障を事前に低コストで検知することが可能になり、予防的な運用が可能になった、としている。

今回のシリーズCの投資について

Perceptoは、2023年6月のシリーズCの投資において6700万ドルの資金調達に成功した。ここではこの投資について詳細に見ていく。

そもそもシリーズCとは、スタートアップ企業において黒字経営が安定し始めた時期に行われる比較的大きな投資ラウンドであり、シリーズCで投資ラウンドが終了する企業も存在する。Perceptoの公式Webサイト上には売り上げや利益などの情報は掲載されていないが、シリーズCまで投資ラウンドが進行していることから、Perceptoは既に安定した経営体制を築いていると考えられる。

今回Perceptoに出資した企業は以下の七つである。

  • Zimmer Lucas Partners
  • U.S. Venture Partners
  • Spider Capital
  • Koch Disruptive Technologies
  • Delek Group
  • Atento Capital
  • Arkin Holdings

Delek Groupを除いて、全てベンチャーキャピタルである。なおDelek Groupはイスラエルのコングロマリット企業で、Perceptoの顧客である。

2014年に始まった最初の投資ラウンドから、今回のシリーズCラウンドまでの合計で   Perceptoは1億4000万ドルの資金を調達している。

業界をけん引する資金調達

ここからは、Perceptoを他の自律型ドローン検査企業と比較し、Perceptoの自律型ドローン検査市場での位置づけを明らかにしていく。比較対象として、以下の2企業を選択した。

  • Thread (アメリカ) ※2
  • Araya (日本) ※3

企業規模を示す指標として従業員数、ビジネスの進行状況を示す指標として現在の投資ラウンド、そして総資金調達額を以下の表にまとめる。

自律型ドローン検査企業のデータ比較

企業名設立年従業員数投資ラウンド直近調達額総資金調達額
Percepto2014~250Series C65m$139.5m$
Thread201847Series A12m$19.8m$
Araya201351-100Series B7.1m$7.1m$
Crunchbaseより作成

世の中で注目されているドローン企業の中でも、Perceptoは従業員数が他の企業より多く、投資ラウンドも他の企業より進行していることが分かる。PerceptoのCEOのLinkedInでは、Perceptoを自律型ドローンのNo.1企業と紹介している。


参考文献:

※1 Percepto appointed to FAA Aviation Rulemaking Committee for Beyond Visual Line of Sight flights, Percepto press release, リンク

※2 Thread, Thread, リンク

※3 Araya, Araya, リンク


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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