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CES2024後半戦の雑記(デジタルヘルス)

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今回で最後の雑記となるが、CES2024の後半戦としてデジタルヘルスを中心に様々なブースを回った様子を書いておく。この分野は非常に色々な企業が存在しており、CESでは毎年目玉の分野の1つとなっている。

どのような切り口の企業や技術があったのか、ざっと振り返ってみよう。

LGのシリコンバレー×新規事業の取り組み(LG NOVA)

LGが新規事業の発掘などのために、米国シリコンバレーに設立した北米イノベーションセンターがLG NOVAである。LG NOVAでは様々なベンチャー企業へ出資・協業を行っており、LG NOVA関連の企業が複数社出展していた。

このLG NOVAのブースで大きくデジタルヘルスというキーワードを掲げていたのが、C.Lightである。

アイスキャンのシステムであり、眼科医が目の診断をするのを補助する役割となっている。現在はまだ網膜診断のためのツールとしてFDA認可を取得したところであるが、今後は疾患の検知なども行えるよう開発を進めているという。

サムスンが支援するスマートトイレ

さて、今度はサムスンが支援している韓国スタートアップであるYellosisである。

今年イノベーションアワードを受賞したこの技術は、自宅でいつでも尿検査ができるというコンセプトで技術が開発されている。他にもこの切り口の企業は今回出展社で見られ、スマートトイレ・尿分析というのは、これから家庭の中に入ってくる技術であることが感じられる。

通常のウェアラブルデバイスで取得するバイタルサインより、尿というのは様々なバイオマーカーが含まれており、研究開発が進めば、疾患の予測などにも繋がってくる技術になるだろう。

明らかに過去より目立ったペットテック

サムスンのブースでは様々な生活で利用されるテクノロジーについて展示されていたが、特にデジタルヘルスが家の中でどのように役立つのか、そのコンセプトをデモンストレーションしていたのが目を引いた。

そして写真にあるように人だけでなく、今後はペットもバイタルデータが取得され、犬の状態や健康が可視化されるようになる。過去からペットテックはあったが、以前はGPSによる犬の行動モニタリングがメインだったのに対し、より健康面まで踏み込む技術が増えてきたことは1つの変化だろう。また、サムスンのような大手企業がこの分野のコンセプトを提示したことは大きい。

個人的に感じるこの分野の破壊的イノベーションは、「ペットと飼い主が意思疎通できる技術・ペットの思考を読み取ることができる技術」だと考えているが、まだCESではそのような展示は見られない。

一大分野となっているスリープテック

スリープテックはもう何年もCESで大きなスペースを占めるようになってきている。特にマットレスや枕関連にテクノロジーを導入したものや、睡眠解析等の技術である。

近年は睡眠状態を測定しつつ、より良い睡眠をとれるように能動的にマットレスや枕を動作させるような、「睡眠改善」まで踏み込むデバイスが増えてきている印象である。

1社、レーダーでの非接触生体情報モニタリングのベンチャー企業が展示をしており、この企業は次のステップは睡眠時無呼吸症候群などの症状モニタリングを実現するべく開発を行うということであった。より具体的な疾患に着目し、手軽に検知できる技術がFDAのクラス2デバイスとして出てくれば、市場では受け入れられるだろう。

AgeTechの一角はあったが、高齢者によるテクノロジーの受容に課題

今年はAgeTech(高齢者向けのテクノロジー)のブースが一角に設けられ、複数の企業が出展されていた。画像はそのAgeTechブースの近くで行われていた対談の様子である。

高齢者向けのテクノロジーを開発するスタートアップが4社集まり、司会から質問を振られて回答する形式の対談セッションで、AIや最新テクノロジーは高齢者に受け入れられるのか、価格は低価格で提供できるのか、などの質疑がされていた。

あるスタートアップは、ポイントは「信頼感」や「医療保険が適用されること」と発言した。高齢者が自宅に何かのセンサーやデバイスを導入する場合、価格が製品採用の大きな障壁となっている、とコメントしている。また、プライバシーについてもユーザーの不安がある。一方で信頼感が構築されれば、ある程度ユーザーのデータを企業に共有することも需要されるという結果など、様々な討議がされていた。

拡大するブレインテック

また、ブレインテックも様々な出展が見られた。

特にニューロモジュレーションで不安や不眠症の緩和を行うようなデバイスや、睡眠測定+音楽による誘導などで睡眠改善まで行うデバイスなどが確認された。

やはり睡眠領域を手掛ける場合は、睡眠測定だけでなく、テクノロジーによって睡眠を改善するところまで実現できないと、これからは差別化が難しいだろう。

免疫測定を行う技術も登場

新しい切り口として、免疫状態をチェックするというデバイスも登場した。

NK(ナチュラルキラー)細胞は白血球の一種で、リンパ球の約10〜30%を占める免疫細胞であるが、このNK細胞の活性度を測ることで、その人の免疫力の状態を測定するというもの。

上記は韓国のスタートアップブースで見つけたもの。

このNK細胞の活性度測定自体はすでに技術はあるものの、専門の施設に検体を送り測定しなければならないため、検査の結果が判明するまでには時間もかかる。こうしたスタートアップが狙うのは診療所で簡単に利用することができる検査システムだ。

世界中でメディアに取り上げられているパーキンソン病を治療するデバイス

このデバイスはGyrogearという英国のベンチャー企業が開発したデバイスである。

パーキンソン病による手の震えの症状を緩和し、快適な日常生活を送るために設計されたこのデバイスは、高度なジャイロスコープを利用して手の震えを防ぎ、患者が失われたと思っていた震えに関するコントロールを取り戻すことを目的に開発された。

BBCでも特集されたこのデバイスは、世界で約1,000万人が苦しんでいると言われるこの市場の課題を解決することを狙う。なお、CESのイノベーションアワードも受賞している、注目のベンチャー企業である。

具体的で、未解決の課題に刺すのかが問われるデジタルヘルス

さて、デジタルヘルスの領域であるが、もう何年も多くの企業が注目している領域であるが、実際にビジネスにしようとすると、非常に難しい。

非医療のウェルネス・ヘルスケア領域は、ユーザーのニーズがふわっとしており、技術に対してお金を払うユーザーのモチベーションが低い。一方で、医療機器分野では、FDA等の認可を取得する必要があり、多くの日本企業がここで足踏みをする。

また、取得した生体データをどのように解析・活用して付加価値につなげるのか、という点も非常にロングタームでの研究開発が必要だ。

短期的にはいかにまだ未解決のユーザーの課題(これは健康であったり、日常の面倒くささだったりする)に刺すかが問われており、どういう切り口で当該分野に臨むのか、その着眼点が問われるところだ。


[お知らせ]

CES2024×デジタルヘルスの出展企業の動向に関するレポートを2月上旬に発刊いたします。掲載企業は注目のスタートアップ30-40社程度、取材を行った企業については、当日ヒアリングした内容も含みます。

また、AgeTechについてはセッションの対談で話をされたことについてもサマライズしていたり、各社ブースや技術に対して同分野を長年調査している私小林のコメントをつけるなど、オリジナルな内容となっております。

詳細はまた後日お知らせいたします。


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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