外食産業の人手不足解消を目指す「調理ロボット」日米5社のスタートアップを紹介
新型コロナウイルスが5類感染症に移行した後、人流は街中に戻りつつあり、消費の回復が見られている。一方で、人手不足となる業界も見られ、外食産業もその一つだ。
本稿では、外食産業の人手不足の解消を目指す「調理ロボット」について解説する。調理ロボットについての概要と、調理ロボットが解決を目指す課題について、そして調理ロボットのスタートアップとその取り組みを紹介する。
調理ロボットとはどのようなものなのか、企業はどう調理ロボット事業に取り組んでいるのかを解説する。
調理ロボットとは?人間の作業をどこまで再現できるか
調理ロボットとは、調理の工程を自動化し、これまでの人手での調理作業を行うロボットである。
調理ロボットは食材の炒め・揚げ工程、調味料の混合、盛り付けなど、さまざまな調理タスクを自動化する。ロボットには調理するための機構、センサーや制御アルゴリズムが構築されており、人間が手作業で行っていた作業を再現しながら実施される。
本稿では、飲食店(例えばフードチェーン店や、レストラン)で働く調理ロボットに注目する。
調理ロボットが解決する課題|外食産業の人手不足の現状
調理ロボットが開発される背景には、外食産業の人手不足がある。
帝国データバンクによると、2023年7月の人手不足に対する企業の動向調査において、非正社員の人手不足割合は「飲食店」が83.5%で最も高い業種となった。飲食店はその労働力を非正規雇用でまかなうケースが多い上に、賃金も他業種より低い傾向があるため、昨今の物価と賃金の上昇局面では人手不足が深刻になっている。
また、日本においてはここ15〜20年の間に労働人口および一人あたりの労働時間が減少しているというデータもある。
労働力人口は、2022年の約6900万人から2035年には6210万人にまで減少する見込みだ。また1人当たり労働時間(男性)は2009年の約44.7時間/週から2022年には約41.0時間/週に減少している。
これらのデータと少子高齢化が進んでいる社会構造を考えると、企業の人手不足は今後、一層深刻化すると考えられる。
飲食店においては調理スタッフの人手不足に対し、調理工程をロボットが賄い、より少ない人数でオペレーションを回す状態がひとつの対策となるだろう。
調理ロボットのスタートアップ日米5社
ここからは、調理ロボットの代表的なスタートアップを紹介する。調理ロボットは、飲食店向けのものと、家庭向けのものがある。今回取り上げるスタートアップは、飲食店向けに調理業務を行う企業だ。
コネクテッドロボティクス:そば調理や盛り付けを自動化
コネクテッドロボティクスは、2014年に創業した日本のスタートアップである。同社は「食産業をロボティクスで革新する」をミッションに、調理や盛り付けなど食産業向けのロボットシステムを開発している。
創業者の沢登哲也CEOは、MIT発のスタートアップでロボットコントローラ開発を行った経歴があり、そのほかにも画像処理や機械学習の専門家が当社に集まっている。会社としても、ロボットコントロールとAIが自社の強みとアピールする
具体的な製品には、以下のようなものがある。
- そばロボット:JR山手線五反田駅構内の「いろり庵きらくそば五反田店」でそばの自動調理をするロボットシステムを導入
- Delibot:ポテトサラダやきんぴらなどの総菜をトレーに盛り付けるロボットシステム。マックスバリュ東海の総菜製造工場に4台導入した実績あり
- AI検査ソフトウェア:食品検査に特化した食品工場向けのAIで、不定形の食品の形や大きさ、色味等の自動検査を行う
TechMagic:パスタの調理や中華の調理を自動化
TechMagicは、2018年に創業された日本のスタートアップである。同社は、「テクノロジーによる持続可能な食インフラを創る」をビジョンとして、食産業のパフォーマンスを最大化する調理ロボットを開発している。
すでに大阪王将やPRONTOといった国内の飲食店が採用。また、ロボットの開発だけでなく、ロボットに合わせた業態の開発も進める。
具体的な製品は、以下のようなものがある。
- P-Robo:パスタを自動調理するロボット。パスタの湯への投入からソースと麺の絡め工程までを行うキッチンと一体化した調理ロボットである。このロボットを採用したプロントコーポレーションは、自動調理の店を2027年内に50店舗へ拡大する計画だ
- I-Robo:炒飯や野菜炒めなど、熟練の職人のレシピを自動で再現する調理ロボットである。2023年10月に「大阪王将 西五反田店」で本ロボットのテスト稼働が開始される
Dexai Robotics:2本ロボットアームでサラダを盛り付け
Dexai RoboticsはDraper Laboratory(米マサチューセッツ州ケンブリッジにある非営利研究開発組織)からスピンアウトした米国のスタートアップである。同社は最先端のロボット・AIテクノロジーを用いて飲食業界の労働不足の解消をミッションとしている。
同社が開発した「Alfred」は、レストランの厨房で食材を盛り合わせる調理ロボットである。このロボットは上下2本のロボットアームで構成されている。下部のアームがサラダボウルを持ってきて、上部のアームでサラダを盛り付ける。同社ホームページにはAlfredの動画が公開されている※9。
Miso Robotics:揚げ物工程を自動化
Miso Roboticsは2016年に創業された米国のスタートアップである。同社はレストランの調理場において面倒で危険な作業をなくすことを目指している。
同社のプロダクト「Flippy」は、フライドポテトなどの揚げ工程を自動化したロボットである。厨房に備え付けられたロボットアームで揚げ物が入ったかごを持って、フライヤーへの投入・回収を行っている。2023年12月には、世界初の完全自立型のレストラン「CaliExpress by Flippy」がカリフォルニア州パサデナにオープンした。
Nala Robotics:全自動マルチフライヤーロボット
Nala Roboticsは2017年に創業されたアメリカのスタートアップである。同社の名前の「Nala」はインドの叙事詩「マハーバーラタ」のヴァナ パールヴァの登場人物である、料理の専門家ナラにちなんで名付けられた。
具体的な製品は、以下のようなものがある。
- THE WINGMAN:チキンウイングやフライドポテトなどの揚げ物を調理するロボット。冷凍庫から具材を取り出す工程から、調理、味付け、盛り付けのデモが同社のホームページから確認できる
- Nala Chef:炒め物やピザ、フライドチキンなど、さまざまなレシピを調理することができる調理ロボット。炒め物はフライパンをロボットアームが持ち、器用に調理する様子が同社のホームページから確認できる
調理ロボットの今後:実証フェーズから商業フェーズへ、自動調理店舗の収益化がカギ
調理ロボットは大手飲食店を中心とした実証フェーズであり、その有効性を証明しつつも、実運用時の改善点を抽出するブラッシュアップ中の段階にある。
調理ロボットの普及拡大には、ロボットを用いた自動調理店舗の収益化がカギになりそうだ。
客単価が比較的低い傾向にある飲食業界においては、ロボット導入の初期費用をなるべく抑えること、ランニングコストが人件費よりも低いことが求められている。 調理ロボット自体の機能向上のみならず、ロボット化が前提の厨房設計や、自動化に対応した食器の使用など、店舗側の工夫も重要になると考えられる。
参考文献:
※1:人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月), 帝国データバンク(リンク)
※2:人手不足の現状と今後の展望~自然体では就業者数が毎年50万人減少し、成 長の継続が困難に~, 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(リンク)
※3:OUR TECHNOLOGY, コネクテッドロボティクス株式会社(リンク)
※4:調理ロボ「時給」800円、人より安く 飲食店の新局面, 日本経済新聞(リンク)
※5:TechMagic開発の炒め調理ロボットを大阪王将西五反田店に本格導入, TechMagic株式会社(リンク)
※6:Dexai Robotics(リンク)
※7:World’s First Fully Autonomous, AI-Powered Restaurant Opening in Southern California, MISO ROBOTICS(リンク)
※8:The WINGman, Nala Robotics(リンク) ※9:Nala Chef, Nala Robotics(リンク)
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