水素エンジンのKEYOUがシリーズB資金調達ラウンドで年内約56億円の調達を目指す
トラックに搭載される既存のディーゼルエンジンを水素エンジンに改造するドイツのスタートアップ、KEYOUがシリーズB調達ラウンドの第1段階で「7桁の出資」を受けた、と2024年7月、発表した。7桁とは€1m(約1億6000万円)台を指すと見られる。シリーズB調達ラウンドは2024年末の完了を予定しており、合計€35m(約56億円)の調達を目指す。
KEYOUは2015年にBMW出身の3人のエンジニアによりドイツ・ミュンヘンで設立したスタートアップ。今年、第1号となる水素エンジンを搭載した18tトラックを試験的に顧客に提供し、市場参入を果たす予定である。
既存のディーゼルエンジンを利用したゼロエミッション水素エンジン
KEYOUは既存のディーゼルエンジンを水素エンジンに改造することにより、持続可能でありながら競争力のあるモビリティソリューションの実現を目指している。
これまでの化石燃料を使う大型車はディーゼルエンジンが一般的であり、カーボンニュートラル、気候変動対策のため、従来型エンジンのプラットフォームを生かして水素燃料を使えるようにする動きは、以前よりあった。しかし、そこで課題となるのが複雑な改造となってしまう点だ。
なぜならば、水素エンジンにはディーゼルエンジンにないスパークプラグが必要であり、また専用のECU(Engine Control Unit)やピストンが必要である。そのため、これらの部品を追加あるいは交換しなければならない。
KEYOUが開発する水素エンジンは、既存のディーゼルエンジンの一部部品を交換するだけで完成する。以下の動画のように、プラットフォームをそのままに周辺のコンポーネントを置き換えるものとなっている。
KEYOUが開発する水素エンジンの仕組み
KEYOUは自社のプロダクト、ソリューションを、単なる改造ではなく「H2 Mobility as a Service(H2MasS)」と位置付ける。メンテナンスや修理、保険、さらに燃料となる水素をインクルーシブなパッケージとして提供する方針だ。そのため、走行距離に応じて料金を支払う「pay – per- use(従量課金)」モデルを提案している。
2024年7月には、同じドイツの再生可能エネルギー企業であるENERTRAGとともに、マクデブルグ近郊のオスターヴェディンゲンという場所に建設する電解プラントの起工式を行った。風力や太陽光といった再生可能エネルギーのみでつくられる「グリーン水素(以下の記事を参照)」のプラントだ。出力が1電解装置につき10メガワット、プラント全体で年間900トンのグリーン水素を生産する。
参考記事:メタン熱分解(ターコイズ水素)技術の動向|3つの方法と商用化の現状
ゆくゆくはENERTRAGのグリーン水素と、KEYOUの水素トラックを利用した「水素モビリティーハブ」を当地に建設する計画がある。
DILOが主導、資金をプロダクト進化への足がかりに
今回の投資段階では、バイエルン州のガス会社であるDILO Armaturen und Anlagen(以下、DILO)が主導。他、欧州連合(EU)内閣のイノベーション支援組織である欧州イノベーション委員会(EIC)や不動産企業のBaywobau、空圧機器メーカーFESTOのグループ企業であるStollなども出資した。いずれも過去にシリーズA資金調達ラウンドでKEYOUに出資している。
今回シリーズB調達ラウンドで調達した資金は、エンジン改造のさらなる展開や、40tセミトレーラートラック(トラクターヘッド)のためのKEYOU-inside systemの開発に使用する。
共同創業者でCEOのThomas Korn氏は、次のようにコメントした。
「DILOという水素と既存の内燃機関の組合せによる未来を信じている投資家にめぐり会えて、うれしく思う。(資金面での支援だけでなく)DILOが産業ガス分野で長年培ってきた専門知識と、当社との相乗効果も生まれる」
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