注目される中国EVベンチャーNIOの全体像を解説
先日、ET7の発表を受けて当メディアでもNIOのプレゼン内容を記事にしたが、大きな反響があった。中国の新興EVメーカーや自動運転ベンチャーは現在、バブルとも言える程に世界で今後の動向が注目をされている。
今回は改めて、NIOとはどういう企業なのか、その全体像を解説したい。
高級電気自動車セグメントの新興EVベンチャーで最も資金を集める
中国新興EVベンチャーでは最も資金面で先行
NIOの設立は2014年であり、現在の本社は中国の上海にある。
高級電気自動車セグメントで、最新の自動運転テクノロジーも搭載してくる同社は、いつしか中国版テスラの1社と言われるようになった。ちなみに、中国版テスラと呼ばれる企業は他にもおり、有名な企業でいくとXpeng、Li Auto、BYTON、Aiwaysらが挙げられる(BYTONは一度事業停止状態となっている)。
これら中国におけるEVベンチャーの中では、NIOは最も資金を集めている企業だ。Crunchbaseを元に調査をしてみると、現在のEVベンチャーにおける資金調達額は以下のようになる。
中国新興EVベンチャーの資金調達額リスト
No | 企業名 | 資金調達額 | IPO |
1 | NIO(上海蔚来汽車) | 5,434m$ | 上場済 |
2 | Xpeng Motors(小鵬汽車) | 4,565m$ | 上場済 |
3 | WM Motor(威馬汽車) | 3,072m$ | 未上場 |
4 | BAIC BJEV(北京新能源汽車)※1 | 1,660m$ | 未上場 |
5 | Youxia Motors(游侠汽車) | 1,334m$ | 未上場 |
6 | Li Auto(理想汽車) | 1,248m$ | 上場済 |
7 | BYTON(拜騰汽車) | 1,200m$ | 未上場 |
※1 BAIC BJEVは中国国営北汽集団の子会社でありベンチャーではないが参考として載せている
最初はスーパーカーから参入し、高性能量産車へ
最初に発売したモデルは2016年に発売したEP9スーパーカーである。当時、世界最速のEVスーパーカーとして話題になった。
その後2017年12月に量産電気自動車ES8を発売すると発表し、高級量産セグメントに参入することになった。ES8は2018年6月から実際に発売されている。このES8は7人乗りのオールアルミ合金ボディの高級EVであった。
このスーパーカーから参戦して高級量産セグメントへ打って出るというブランド戦略は、投資家達にもインパクトを与え、NIOはバイドゥやテンセント、セコイヤ、レノボなどの有名企業や大手VCから約2,000億円もの資金を調達することに成功する。
また2018年9月にNIOは米国ニューヨーク証券取引所へ上場。この上場でNIOは10億ドル(約1,000億円)の資金を調達した。
そしてその後、同社は順調にラインナップを拡充。2019年6月には5人乗りの高性能プレミアム電気SUVであるES6を発売開始。現在は最新モデルで同じく5人乗りのクロスオーバーSUVのEC6が2020年9月から納車されている。
また平行してMobileyeとの提携も実施。自動運転技術を取り入れることで、将来レベル4の自動運転車を提供することも狙うことを発表している。
EC6の航続距離・電池などのスペック
EC6でおおよそ日産リーフと遜色ない航続距離性能
2020年9月から納車されているEC6であるが、70kWhの標準タイプと、100kWhの液冷バッテリーパックのエキストラロングレンジのタイプがあり、100kWhの場合で航続距離は615km(NEDC換算)という。
NEDCはやや実際の航続距離とは異なると言われており、最も実際の距離に近い米国基準のEPAに換算すると、おおよそ430km(EPA換算)である。これは、現行の日産リーフの62kWhバッテリ搭載車で458km(WLTC)であり、EPA換算だと約408kmとなっている。そのため、後発参入ながらエキストラロングレンジタイプであれば日産リーフと遜色ない航続距離を実現している。
なお、電池の詳細やサプライヤについてはあまりオープンにしていないが、CATLが電池セル・モジュールを供給し、NIOがバッテリーパックを自社設計していると言われる。
話題を呼んだ最新技術が詰まったET7
先日から話題を呼んでいるET7についてはこちらを参照。EVというだけでなく、最新のセンサーを搭載した自動運転機能も強化されている。
[nlink url="https://atx-research.co.jp/2021/01/11/nio-et7/"]
画期的な電池パッケージ交換による充電とサブスクリプションモデル
充電不要にする電池パック交換のシステム
NIOの特徴の1つとして、同社のフラグシップ車種では電池の形状・サイズを同じにしており、電池パックをモジュール化して、それを交換することで充電せずに、フル充電されたバッテリパックに取り換えることができる。同社によると、バッテリパックの交換はわずか3分でできるという。
BaaS(Battery as a Service)式のバッテリー・レンタルサービスとも言われるこのビジネスモデルは画期的である。バッテリーパックのサブスクリプションに挑むこのスキームは、2021年1月現在で、70kWhバッテリーで月980元(約15,700円)、100kWhバッテリーで月1,480元(約23,700円)となっている。
BaaS(Battery as a Service)のビジネスモデル
このBaaSモデルを選択すると、ユーザーは新車購入時に70kWhで70,000元(約112万円)、100kWhで128,000元(約200万円)の割引を受けることができる。これに新車に対する補助金を合わせるとユーザーは購入時の初期負担を大きく下げることができるというスキームになっている。バッテリー交換時に費用がかからないため、より長く走る人にとってはお得になるモデルになるのだろうか?この点を計算してみよう。
ちなみに、現行のEVで仮に平日通勤で車を使い、週末は毎週1日家族と出かけることを想定し、どれくらいの充電費用がかかるか計算してみよう。あくまで目安の充電費用を把握するためなので、日産の充電費用シミュレーター(サイトはこちら)を利用する。
おおよそ月の走行距離は800kmとし、遠出する回数は4回、バッテリーサイズは62kWh(日産リーフの最も容量が大きいバッテリ―)で計算をすると、月額およそ5,000円だ。ちなみに中国は日本より電気代が安いため、充電費用はもっと安いだろう。
上記を元に、ややラフだが仮に中国での充電費用を月3,000円と仮定してみる。すると、70kWhパックで毎月約15,700円のリース費用のため、充電費を差し引くと毎月12,700円程余分に支払いをしていることになる。新車購入時に112万円の割引を受けているため、112万円 / 1.27万円=88か月分、つまり7年ちょっと走行すると、購入時の割引額を超えることになる。
この7年という数字をどう見るかだが、NIOがターゲットとしているのは中国における高級車セグメントである。この領域は技術進歩が非常に早く、2-3年も経てばEVの性能も、自動運転機能も全く異なるものになっていると思われる。高級車の購買層は富裕層~準富裕層であり、車の買い替え時期は7年よりももっと早いとも想定され、7年というのは十分にユーザーからするとメリットのある数字と言って良いだろう。しかも、このモデルの興味深いところは、バッテリが進化するに従い、最新のバッテリにも交換できるところである。
NIOからすると、初期の購入代金を下げることで販売台数を確保しつつ、安定的に後からもキャッシュインすることができるというメリットがある。中国の自動車保有台数は2億台を超えており、将来この自動車が電気自動車に置き代わった時に、2億台×月15000円=3兆円のバッテリーサブスク市場がある、というのがNIOの考えだ。
急速にパワーステーションを設置
同社によると、2020年10月頃にはこの電池交換のパワーステーションは155か所設置が完了しており、2021年末までに500か所のネットワークにするという。
元々の計画では1,100か所の設置を目標としていたが、計画に対しては遅れている状況となっている。
創業者のウィリアム・リーは自動車流通に精通したシリアルアントレプレナー
ウィリアム・リーは大学卒業後に起業し、様々な企業の立ち上げを行ってきた。2000年には、BitAutoというインターネット会社を設立し、2005年からBitAutoの取締役会会長およびCEOを務めている。この会社は中国における自動車の価格に関する情報、および販売促進情報、仕様、口コミなどを扱い、自動車ディーラー等へデジタルマーケティングのソリューションを提供する会社である。2010年、同社はニューヨーク証券取引所でIPOを行い、企業価値は10億ドルを超えた。
その後、自動車のオンラインファイナンスを手掛ける子会社のYIXIN GROUPも主導し、香港証券取引所に上場させる。同社の成功後に、2014年NIOを設立した。
必ずしも順風満帆ではなかったが、直近は大きく成長へ
販売台数は2019年伸び悩むも2020年は急成長、3Qは前年比154%
以下にNIOの販売台数の推移を整理している。
現在、大変注目されているNIOであるが、実は2019年あたりはかなり苦戦していた。2018年から販売台数は大きく伸びず、2019年2Qにはバッテリー火災の事故を起こし、高級EVのES8を当時の四半期の販売台数に匹敵する5,000台リコールすることになった。
この事故と並行して、中国政府によるEVへの補助金政策の変化も逆風を受けた。中国政府は多額の補助金でEV市場の拡大を支援してきたが、2019年6月から最大で半分近くにも補助金を減らしている。こうしたことが重なって、NIOは1,000人規模のリストラも行っている。
しかし、2020年の数字を見てみると、2019年の苦境を脱出したかのように見える。2020年第二四半期からは販売台数は1万台を超えており、前年同月比で154%もの大きな伸びを示している。
ちなみに、NIOは中国のテスラに挑んでいる、とよく言われるため、テスラの納入台数も見てみよう。テスラは直近の2020年4Q(同社は12月期)で納入台数は18万台となっている。NIOは四半期でおおよそ1万台程度となっており、テスラと本格的に比較するにはまだ早いということになるだろう(※)。
※ただし、中国市場だけで見るならテスラは単月で1万数千台の納入台数なので、比較するのはわからなくもない
売上も2020年3Qは前年比146%で大きく成長、3Qだけで720億円
NIOの売上高は、2019年にはおおよそ1250億円だったが、2020年3Qだけで720億円と急成長している。これは前年3Qと比べると146%で成長していることになる。売上高もおおよそ販売台数とともに増加しているようだ。
直近の株価はバブルとも言えるような高騰ぶりを見せており、NIOの時価総額は6兆円を超えている。正直、同社の販売台数からすると、さすがに期待先行感が強すぎて、やや世界の不景気から行き場を失ったお金が流入するバブルが生じているのではないかと不安に思う水準だ。
キャッシュフローは直近で大きく改善、もはや中国合肥市政府もバックアップ
キャッシュフローの悪化も一時期指摘されていたが、最近、転換社債で15億ドルもの資金調達もクローズしており、徐々に資金繰りもかなり回復したと言える(ただし、この直近の転換社債が無ければ資金繰りはかなり厳しかった)。
なお、この転換社債による資金調達では中国合肥市政府からもバックアップを受けており、合肥市政府のウェイボでは、今後5年以内にNIOを時価総額1000億元(約1兆5000億円)のリーディングカンパニーに育て上げると宣言もされている。
ニッケルリッチ正極やシリコン負極、リチウム金属などの先進リチウムイオン電池に関する技術動向の全体像についてはこちらの記事も参考。
参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~
電気自動車にとって重要となる、Power Dayで発表されたフォルクスワーゲンの電池ロードマップ発表の内容についても整理したのでご参考。
参考:Volkswagenが2030年までの電池ロードマップを公開、さらにEVを強化へ
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