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Farasis Energyが国際会議で語った電池開発動向

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2021年3月18日・19日に、中国の深圳で中国国際電池技術交流会・展示会 (China International Battery Fair)が開催され、講演の中でFarasis Energyの会長兼CEOの王瑀博士が、同社における電池開発に関する動向を語った。

ダイムラーと関係が深いFarasis Energy

Farasis Energy(孚能科技)は2002年米国シリコンバレーで創業したバッテリーベンチャー。ソフトパック型リチウムイオン電池を製造・販売しており、主にエネルギー貯蔵用途やエネルギーIoT用途で利用されている。

発表されている最新の業績である2020年上半期で、売上は約48億円(前年同期比71.8%マイナス)となっているが、前年に比べて大きく売上が減少したのはコロナウイルスによる影響であり、おおよそ年間100~200億円の事業規模の企業である。

Farasis Energyは2020年に中国の新興市場であるSTARボードに上場し、約34億4000万元(約579億円)の資金調達の承認を受けている。また、同社には欧州の自動車OEM大手のダイムラーも投資を行っており、その金額は数百万ドル(数百億円)となっている(金額非公開)。この投資でダイムラーはFarasisの株式の3%を獲得し、戦略的提携を締結。将来的にドイツのメルセデスベンツ工場の需要の増加に対応できるようにするために、Farasis Energyはビッターフェルトヴォルフェンにバッテリーセル用の工場を建設することを発表している。

なお、Farasis Energyの自動車向け重要顧客には、中国のBAIC Groupも含まれる。BAICはFarasis Energyの最初の主要顧客であり、2017年から2019年まで、BAICの3年間の累積購入額は40.7億元に達し、3年連続でFarasis Energyの総売上高の約3分の2を占めていたという。

電池の先端研究開発に積極的に投資

Farasis Energyは今回、電池の研究開発状況についてカンファレンスで語るとともに、ペーパーで公開もしている。主な要点は以下のようだ。

ソフトパックLIBで285Wh/kgの量産を実現

同社のソフトパッケージ型リチウムイオン電池は、アルミニウム×プラスチックフィルムパッケージの形式を採用している。通常、ハードパックというとプラスチックのケースに格納されることになるが、ソフトパックというのはフィルムパッケージでセルを包んだものとなる。

同社が主張するには、このソフトパッケージは、同じ容量でより多くのアセンブリコンポーネントを節約でき、理論的にはエネルギー密度を高くすることができるという。実際に、同社が現在大量生産しているバッテリーの最大重量エネルギー密度は285Wh/kgに達する。これは、現行のリチウムイオン電池においても先端的なエネルギー密度の数値だ。

(補足)ソフトパッケージは通常アルミニウムのフィルムで包装されるため、ハードパックに比べて軽量化が可能になり、また柔軟性があるため、金属製や硬いプラスチックのケーシングが特定圧力下で亀裂が入るような場合でも、こうした割れを防ぐことができると言われる。GMのUltiumもソフトパウチという表現がされ、類似の設計となっている。

また、ソフトパック電池は長方形で薄く、伝熱面積が大きいため、放熱や熱管理に非常に便利だという。熱暴走によって発生したガスもソフトパックバッテリーに放出されやすく、急速に冷却することができる。

量産に近い技術開発中の先進LIBは330Wh/kg

同社の会長兼CEOの王瑀氏はこう述べている。「新エネルギー自動車産業の将来の発展のニーズに応え続けるためには、より軽量でより小さなパワーバッテリーが必要です。」

現在量産しているものは最大285Wh/kg、そして量産に近い電池も約300Wh/kgであるという。

特に、この量産に近い電池というのは、同社が現在研究開発を進めている新型の先進LIBだ。この先進LIBは現在、同社は330Wh / kgに達することができる高エネルギー密度バッテリーセルとなっており、負極はシリコンを活用した充放電量の大幅な拡大、そして導電性向上のための単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と新しいバインダー、その他補助材料の添加などによる工夫を行い、安定した電極を形成する。この新型の電池はマイナス20°において、容量の90%を利用することができる。

この新型の電池は、中国自動車工学研究所の検査センターが実施した新しい国家標準GB38031-2020試験に合格したため、テスト期間である3か月の試用期間を経て、販売が開始される予定だという。

400Wh/kgの容量実現に挑戦する

また、400Wh / kgおよび1000Wh / Lの製品開発と工業化の技術的ボトルネックを早急に突破する必要があり、研究開発に取り組むことを明らかにした。

会長兼CEOの王瑀氏はこう述べている。「400Wh / kgの技術的ボトルネックを打破するには、次のような高エネルギー密度のアノード(負極)を開発する必要があります。シリコンベースのグラファイト、シリコン、金属リチウム、その他のアノード材料の高負荷、および、250mAh/gを実現するような高エネルギー密度のカソード材料である高電圧三元材料、その他の高エネルギー密度カソード材料です。」

同社が将来的に研究開発で実現するスペック

  • 重量エネルギー密度:>400Wh/kg
  • 体積エネルギー密度:>1,000Wh/l
  • 正極材料 :>250mAh/g
  • 負極材量 :>1,500mAh/g
  • 高電圧体系:>4.5V

なお、カソード材料については、特にNMC811材料に注目しており、高電圧カソード材料の構造安定性と、高電圧脱リチウム化後のカソード材料の表面反応活性の問題をどのように解決するかが今後の研究の方向性であると述べている。

容量の80%を15分で充電可能な急速充電技術にも取り組む

また、将来実現が求められる充電性能は80%充電を15分で実現することだということも触れている。ただし、課題として①バッテリーのインピーダンスを下げる必要があること、②リチウム析出(デンドライト形成)の問題をクリアする必要があると述べた。

全固体電池はステップを踏む必要がある

また、王瑀氏は電解質の技術開発の方向性についても触れている。

「ソフトパックバッテリーは、非常に穏やかではあるもの極端な条件下では熱暴走を発生させる可能性があり、固体電池は、リチウムイオン電池の現在の熱暴走に対する究極の解決策であると一般に考えられています。しかし、現時点では、固体電解質はまだ未成熟であり、実際のアプリケーションまでにはまだ長い道のりがあります。」

そこで、同社としては開発の方向性は、まず液体から半固体(ゲル)、次に半固体(固体電解質)、そして最後に全固体電池に移行する必要があると考えているようだ。究極の目標としては、全固体状態を実現できることを望んでいるものの、全固体電解質が解決できないのは、依然として業界の発展を悩ませている固体-固体界面の問題であると語っている。


ニッケルリッチ正極やシリコン負極、リチウム金属などの先進リチウムイオン電池に関する技術動向の全体像を知りたい方はこちら。

参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~


ー 技術アナリストの目 -
ダイムラーと関係が深く、中国市場で存在感が高まっているFarasis Energyの会長、及び会社から発表された電池技術開発動向についてまとめてみました。コロナ禍で足元の業績はやや苦戦しているようですが、車載向け電池で有望視される1社であり、現在開発中の330Wh/kgの先進LIBは大変興味深いものです。問題無ければあと3か月で販売・量産が開始するということなので、恐らくまた発表されると思いますが、この動きにも注目したいと思います。

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参考文献:

1) 孚能科技|软包已来,实力撬动发展新动能

2) Funeng Technology 2020年半期報告書

3) 孚能科技(赣州)股份有限公司 关于自愿性披露新技术研发进展的公告


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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