Volocopterの最新のホワイトペーパーにおけるエアタクシー・エアシャトルの要点
eVTOLを開発するベンチャーのVolocopter(ドイツ)は、3月24日、スケーラブルなUAM(Urban Air Mobility)へのロードマップとして、ホワイトペーパーを発表した。
Volocopterは欧州連合航空安全機関(EASA)による設計組織承認を受けた、唯一のeVTOLエアタクシー開発企業だ。今年3月3日には、シリーズDで約258億円もの資金調達も実施。自動車大手のダイムラーやGeely(吉利)も出資をする、エアタクシー市場で最も期待される企業の内の1社である。
参考:VolocopterがシリーズDで約258億円を調達、NTT・コンチネンタルも参加
同社は今回、ホワイトペーパーとして同社のUAMに対する考えや、ビジネスモデル、フィージビリティなど、業界が直面する課題や方向性を示している。
ホワイトペーパーの内容の多くは概念的な話が中心であったが、いくつか興味深い点も記述があったため、下記で筆者が興味深いと思ったポイントを紹介していく。
Volocopterが狙う都市内移動セグメント
Volocopterはそのエアタクシーの市場セグメントを、主に3つに分けている。
- 都市内移動(Urban):35km圏内
- 近郊移動(METROやVILLAGE):METRO 55km圏内 / VILLAGE 95km圏内
- 都市間移動(CITY-2-CITY):95km超
そして、Volocopterが注力しているのは都市内移動となっており、同社が開発している機体のVoloCityは、短距離都市内移動を実現するのに最適であるとしている。
なお、同社が今回発表した内容によると、世界トップ100の空港の内、93%では、隣接する都市中心部が30km圏内にあるということである。同社はこうした空港と都市中心部の移動も主要ターゲットとして狙っていることがわかる。
6つの検討課題
そして、同社は一般的なエアタクシーが直面する課題として、以下の項目を挙げている。
1.高い安全性
2.低ノイズ
3.十分な飛行距離とスピード
4.最適なシート数
5.オペレーションの効率性
6.信頼性のあるライフサイクル
ノイズについては、例えばニューヨークや東京における道路上のノイズは78dB、50kmで走る大型トラックは85dBであり、同社が開発するVoloCityは地上から30mの距離で75dB、地上から120mの距離で65dBであると主張している。
飛行距離とスピードについては、Volocopterは先に述べたように、都市内移動の短距離市場を狙っており、35km圏内での都市内移動、空港-都市移動がターゲットである。この距離は現状の電池技術で十分に実現可能であり、平均速度は時速80~100kmで飛行が可能だ。例えばニューヨークのJFK空港からタイムズスクエアまでは20分で飛行可能だが、タクシーでは43分かかる。都市内における移動をおおよそ50%時間短縮できるという算段だ。
また、シート数においては同社のホワイトペーパーによると、先行調査ではタクシーや配車サービスの90%が1~2名の乗客による利用で占められており、旅行においても個人での旅行は増えているという。そのため、同社の主張としてはエアタクシーのスイートスポットは2席のシート数と主張している。そして大型のUAMはシート効率の観点からリスクがあるとしている。
ゲームチェンジャーはデジタル化と自律飛行
また、同社は今後このエアモビリティの分野でゲームチェンジャーになるのは、デジタル化と自律飛行であるという。
デジタル化については、安全性を高め、オペレーション効率を高めて、輸送料金を下げ、ユーザー体験を向上させるためには非常に重要な要素であるとしており、従来の航空機業界であったレガシーなツールやソリューションはUAMには適さないと主張。
Volocopterがルフトハンザとマイクロソフトと共同で開発したVOLOIQというシステムは、こうした課題を解決するものであるとしている。ユーザー体験に大きく関わるダイナミックプライシングや需要予測、バックエンド側のバッテリーマネジメントやフライトオペレーションのためのモニタリング、飛行計画立案、地上でのオペレーションのためのタスク管理など、VOLOIQがカバーする範囲は多岐に渡る。
そして、将来的には自律飛行がオペレーションコストやトレーニングコストを削減し、最適な料金をユーザーに提示するのに必要になるという。同社はこの自律飛行について、現時点ではパイロットによる操縦の飛行を前提としているが、できるだけ早くに自律飛行を実現したいと述べている。
なお、同社がホワイトペーパーで公開したグラフを読み取ると(具体的な数字は公開されていないため、あくまで参考値)、2023年時点のパイロットによる操縦が前提となる料金は、2027年には一部自律飛行かされコストも料金もおおよそ33%下がり、2032年には完全自律飛行に移行して、2023年時点と比べると64%下がると想定しているようだ。
サービス立ち上げはシンガポールとパリから
すでに過去の同社の発表でも既出であったと記憶しているが、ホワイトペーパーの中で改めて、サービス立ち上げはシンガポールとパリから実施すると明言されている。これは同社がパートナーシップ指向アプローチを取っており、ローカルの政府機関や関連企業と密接に繋がり、事業を立ち上げていくという方針に沿ったものとなっている。
同社は他にも、市場調査の観点でフラウンホーファー研究所と、都市のトラフィック分析の観点でPTVグループと、配車サービスでの協力ではGrab社と、空港との統合の観点ではFraport、ADP、ヘルシンキ、不動産開発の観点ではSkyportsと、そして数多くの政府機関と提携し、事業開発を行っている。
(全文で詳細を確認したい方はこちら)
Joby Aviation、EHang、Volocopter、Liliumなど空飛ぶ車の主要ベンチャー企業の全体像について一気に理解したい方はこちら。
参考記事:(特集) 空飛ぶ車・エアモビリティの世界ベンチャー企業動向
【世界の都市エアモビリティに関する調査に興味がある方】
都市エアモビリティのeVTOLベンチャーの開発動向、バーティ―ポートなどのプロジェクト動向、関連プレーヤーのベンチマーク調査などに興味がある方はこちらも参考。
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